第6話 立坑

美咲

 

 トンネルの外壁、亀裂から生じた穴から真っ暗闇の中、体を横にして進んだ。

 

 数メートル進み、横に伸びる鉄筋をよけ、配管らしき菅ををくぐり亀裂から真っ暗闇の空間へと出た。

 

 膝までが水に浸かる。地下鉄トンネルより水位が低い状態だった。

 

 スマホのライトを照らした。

 

 空間は、通路で通路の途中に出た事が確認出来た。

 

 通路の前後を照らす。

 

 少しずつ慎重に移動した。

 

 美咲の後ろで水がはねる音がした。亀裂から生じた穴から美咲の後についてきた人たちが一人ずつ出てくる。

 

 暗闇の中、ライトを照らした。縦横3m程の殺風景なコンクリート壁面と通路には、多くの配管が並んでいた。

 

 美咲はどのような施設か検討をつけた。 

 

 地下共同溝だった。

 

 基本的に点検時以外は関係者以外は立ち入られない施設である。


「ここはなんだ?」

 

 男性の声が聞こえた。

 

 長居する場所ではないので通路を進んだ。先にあの怪物が潜んでいる危険性への懸念は捨てきれない。

 

 亀裂から左はすぐ先に扉があるが扉は閉ざされた。

 

 暗闇の中、5人前後いるが何人いるのかはっきりとわからない。

 

 右の通路の先を慎重に通路を進む。

 

 共同溝へとたどりついた人たちは美咲の後ろをついていく。

 

 しばらく進むと滝の水が川に流れ落ちるような音がかすかに聞こえ、カーブを超えるとかすかに光が見えた。

 

 光を目指して進む。

 

 室内照明が点いているという事は誰か人がいるかも知れなかった。

 

 通路の終わりへとたどり着く。通路はそのまま巨大な空間へと繋がっていた。

 

 スマホのライトを消灯した。

 

 バッテリーは残り21%となった。電波のない状態のままだった。

 

 空間の中に進んでいく、円柱型の構造の巨大地下空間となっており、美咲が通ってきた通路はその空間の高所用足場、キャットウォークへと繋がっていた。

 

 地下50m程の深さ、内径20m程。

 

 地下にあるダムのような見た目だった。

 

 美咲が今まで通ってきた共同溝の配管は空間へと伸び、壁に沿ってそれぞれの場所へと延びていっていた。

 

 美咲が通ってきた通路の水は全て、下の階に落ちていった。

 

 この縦型の巨大施設も地下共同溝に含まれる。立坑部分にあたる場所だった。

 

 キャットウォークを進む。

 

 照明が点いていて広い空間で見通しが良く、水浸しじゃないため美咲はキャットウォークの途中で座り込んだ。あの怪物が襲ってきても対応できる可能性の余地もある。

 

 美咲の後ろにいた他の人たちも同様に全員立ち止まり座り込んだ。

 

 この場所で少し休息を取る事となった。



 スマホの電波は変わらず圏外だった。

 

 地下共同溝の立坑施設に美咲の他にいるのは、スーツ姿の50代くらいの初老の男性、美咲ともう一人私服姿の20代の女性、地下鉄で誘導を行っていた車掌の男性、国籍は不明の白人の30代くらいの外国人男性がいた。

 

 5人ともキャットウォークに座り込む。


 「ここは一体?」


 女性が言った。

 

「地下共同溝です」

 

 美咲は答えた。


「地下共同溝?」


「電気、上下水道、ガスなどといったインフラに必要な配線、配管を地下に埋めるための施設です。地中に埋めれば電柱がなくなります」

 

 女性は頷いた。

 

 仕事上で知る機会があった。その施設の中でも立坑は建設時に掘削用重機シールドマシーンや資材や機材を搬入するために用いられる場所だった。


この空間はそのまま地上に通じてる。上階に向かえば地上への脱出に繋がる可能性もある。


 無数に点在し複雑化する都心の地下構造物の一つで配管をたどっていけばインフラ施設、点検用出入り口にたどり着ける可能性はあるかもしれないが、基本的には関係者以外立ち入り禁止の施設である。


閉ざされていて簡単に地上には出られないかもしれない。各インフラ施設とも直接、地続きで通路が接続しているとは限らない。

 

 美咲は立ち上がった。立坑内を調べることにした。

 

 美咲は階段を登り上に向かう。

 

 他の4人も地下共同溝立坑内部を地上への脱出への手掛かりがないか捜索した。

 

 上の階へと続く、らせん階段を上った。

 

 キャットウォークにたどり着き扉とエレベーターを見つける。

 

 頑丈な鉄の扉は固く閉ざされエレベーターも電力が入っていなかった。

 

 先に行った美咲は、らせん階段を上っている途中の車掌に伝えた。


「閉まってます。開けるのは無理そうです」

 

 車掌は手を上げた。



諦めて引き返した。


 立坑内をそれぞれ捜索した後、立坑の底部にあたる場所に全員集合した。

 

 水は足首まで浸かるが排水溝から水は排水されていた。

 

 立坑最下層には、直径7m程ある巨大なトンネルの共同溝が2方向に伸びていた。壁に大きな配菅と何本かの配管が伸びる。


「ここは特殊な施設で救助に人が来るのも難しいです。水没する可能性もあって行動範囲が狭まる前にあれに追い詰められないように移動し続けながら地上への脱出路を探すのが得策かと」


「トンネル内で追い詰められたら」


「見通しの良いこの場所まで戻りましょう。ここは国道交通省が管理する施設です。普段は関係者以外立ち入り禁止でテロ対策の関係上内部を定期的にチェックしているはずです。カメラもあると思います。誰かに見つけてもらえるかも」

 

 男性はため息をつきながら頷いた。車掌に視線を向け意見を求める。

 

 車掌も頷いた。


「ええ。それで」

 

 2方向ある直径6mのトンネル。明かりの点いた方のトンネルを進む。

 

 全員で照明の点いた、地下共同溝のトンネルを5人で進んだ。

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