第27話 冒険者ギルド
俺は護衛にレイナースやジーク、メイリアを引き連れ帝都を歩く。
ほどなくして目的となる冒険者ギルドの前に辿り着く。
俺たちが門をくぐると冒険者たちがちらほらといる。
年を食ってる冒険者たちは俺たちをちらりと見ると目を合わせないように目を背ける。一方若い冒険者は、こちらを興味深そうに見つめる。
ここに来るのも懐かしいな。
レイナースを育成するときにここで依頼をよく受けたものだ。俺はあまり馴染みはないが、ミズガルズ・フロンティアを冒険者のように楽しむプレイヤーには馴染みの場所となっている。
俺たちは視線を気にせず、受付嬢のいるカウンターへと向かう。受付嬢は緊張した面持ちでこちらを見上げる。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「ギルドマスターと話しがしたい」
「失礼ですがアポはございますか?」
「ない」
受付嬢は無碍にすることもできず、困っている。そんな様子を見かねておくから一人の男が現れる。
「陛下。こちらへどうぞ」
久しぶりに顔を見るな。帝都のギルドマスターのサンサ・コーヴェルだ。
俺は彼に案内され、二階の一室に通される。
机を挟んで俺とサンサ・コーヴェルが座る。護衛のレイナースやジーク、メイリアは直立不動で佇む。
「それは本日はどのようなご用件で?」
「情報の交換をしよう」
「ほう。どのような情報をお求めで?」
冒険者ギルドは基本的に国の介入を受けない。そのため、彼もあくまで対等として接してくる。国としても魔物を狩ってくれるし、世界的な組織である冒険者ギルドを敵に回したくないのであまり下手な介入はしないのが慣例となっている。まぁあくまで冒険者ギルドに対してであり、優秀な冒険者は引き抜いたりいろいろと介入する余地はあるが。
それはさておき。
「例の異常な魔物の襲撃について」
そう告げると鉄仮面のようなサンサの顔がわずかにピクリと反応する。
「なるほど…それで対価はどのような情報でしょう?」
「その首謀者と思しき存在について」
サンサの顔が驚愕に染まる。
俺は足と腕を組み、主導権は俺にあるぞとアピールする。
サンサは少し考え込んでから机の上にあったベルを鳴らす。程なくして受付嬢の一人が入ってきて、資料を持ってきてくれとサンサが命令する。
俺は資料が届くまでテーブルに出された紅茶を嗜む。
受付嬢が戻ってきて資料をサンサに手渡し、サンサはそれの半分を俺に手渡す。
資料には帝国だけではなく、他国での魔物の襲撃の詳細が事細かに書かれていた。もちろんシルビア地方でのゴブリン戦争のことも。
「今回の件で、冒険者ギルドも手痛い被害を受けました。冒険者も多くが亡くなり他国からは魔物の間引きができていないと叱られましたからね」
「まぁでも今回の件は特殊故仕方ないだろう」
「えぇそうですね。本来共存しない魔物が共存するのは異常事態です。グラカン帝国では獣系魔物の群れが、ナレード王国ではワイバーンなど飛行系魔物の群れなど。シルビアはゴブリン単一とは言え、数が異常でした」
資料にも事細かに記載されており、各国の被害状況で記されていた。実際こういう現地の情報を集め集積しているのは世界にギルドを持つ冒険者ギルドだからできることだ。
資料を何枚か捲っていると気になる一枚を見つけた。
「熟練の冒険者が失踪しているのか?」
そういうとサンサは焦った顔付きをする。
「すいません。どうやら関係ない資料が混じっていたようで」
「いや、関係ないとは言えないかもしれん。対価を払おう」
「ほう。どういうことでしょうか」
サンサは今度は真剣な面持ちでこちらを見つめる。
「実は、魔物を鑑定した際に、魔物は【魅了】という状態異常にあった。おそらくなんらかのスキルや特性によって操られていたと考えられる。そしてこれの首謀者は魔族ではないかと考えている」
「なるほど…操られていたと考えると確かに納得できます。ですが、そのようなことが可能だとは…それにしても魔族とはいったいどのようなものなのですか?」
「実は、詳しいことは分かっていない。おそらく操るスキルを持っているのではないかということだけで姿かたちやどこにいるのかも定かではない」
本当にそれだけか?と疑いの目を見てくるサンサ。
まぁ実際その気持ちはよくわかる。なんも知らないけど魔族という存在がいるらしいしそいつじゃね?って言われても、絶対なんか知ってるだろって思うのは当然だ。
ゲーム知識だけなんだけど。
サンサは俺が答えないのを見てため息をついた。
「…やめておきましょう。帝国の秘密を知りたくなどないですから」
「冒険者ギルドは神秘を暴くのも好きだと聞いたがな」
そう皮肉めいて返すとサンサは苦笑いを浮かべる。
「えぇ。ですが、そこに夢があるからですよ。死が待つなら誰も暴こうとはいたしません。さて、本日は有意義な情報交換ができてうれしく思います。また機会がありましたお会いしましょう」
そう言って椅子を立つサンサの顔には不満が見える。
「もう一つ話がある」
「…まだなにか?」
「現在、帝国が量産を推し進めているマインドプロテクターの指輪というものがあってだな」
俺は、指輪の一つを取り外して見せる。
サンサは興味深そうにその指輪を見つめる。
「ほう。これが…なるほど帝国が量産を始めたマジックアイテムとはそういうことだったのですか」
「あぁ。魔物だけを操るとは限らんだろ?熟練冒険者の失踪にも関係あるやもしれん」
「えぇ。確かに…まさか自慢したかっただけだとは言いませんよね?」
「あぁ。まだ帝国軍全体に行き渡っているわけではないが。いくらかは冒険者ギルドに卸そう」
「助かります。このまま手をこまねているわけにもいきませんから」
その後、多少の値段の交渉はあったが、なんとか合意に至ることができた。
ただでさえハリボテなのだから、こういう時に皇帝の肩書きを使って交渉を有利に進める。
「あぁそれと彼らの冒険者登録を頼む」
俺は後ろにたつジークとメイリアを指さす。
サンサはめんどくさそうにため息をついた。
おい一応皇帝だぞ…ほんとに一応な。
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