第15話 晩餐

軍議を終えるころには空は赤に染まりつつあった。

水平性に沈む夕日を眺める。そういやこの世界に来てから海を見るのは初めてだな。

内陸国の帝国では見られなかった光景だ。

しばらく眺めていると晩餐会の用意が出来たようで呼ばれる。

晩餐会と言って、派手なものを予想したが、こじんまりとしており立食式で人数もそう多くはなかった。


挨拶もほどほどに終え、食事にありつく。

海に面しているだけあって海鮮系の料理が沢山並んでいた。

カルパッチョのようなものから焼き魚のようなものまで幅広く用意されていた。こんな状況下でも公国の威信を示そうと料理でがんばったのだろう。すばらしい味付けだ。ただ、一つ残念なことがあるとすれば…醤油がないのが悔やまれる。この時ばかりは中世ヨーロッパの世界観を恨む。


「アルカニス陛下。我が国の料理はお口に合いましたでしょうか?」

「あぁ。カミーラ公女。帝国では海の魚を食べる習慣がなく、目新しいものばかりだが、どれも素晴らしく職人の努力が伝わってくる。おいしいよ」


珍しく上機嫌に饒舌に語ってしまった。久しぶりの魚料理は俺を魅了してやまないのだ。これで公国を絶対助けなければいけないと決意を固める。


「ふふっ。良かったです。もしよければこちらもいかかですか?大変美味とされる貝なのです」

「では、そちらもいただくとしよう」

「陛下。こちらもいかがですか?」


別の声がかかり、振り向くとノエルがすぐそばにいた。

ノエルがどんどん俺の皿の上に料理を盛り付けてくる。どんどんタワーになっていくんだが…。おいカミーラ公女もどさくさに紛れて一緒に積み上げるんじゃない。

俺がどうしようと苦悩していると(頭が)光り輝く救世主が現れた。


「アルカニス陛下。ご機嫌麗しゅう。両手に花ですな」

「あぁジェイソン公王。ちょうどよかった此度の晩餐会とても楽しんでいるよ」


俺はこれ幸いにと皿を机に置き、ジェイソンと談笑を始める。

確かに銀髪美女のノエルと紫髪のポニーテールのカミーラ公女は両手に花と言える。まぁまだ女性との経験すらもないんですが…。

そういや、ジェイソンとは大事な話があったのだ。


「そういえばジェイソン公王。カミーラ公女のことなのだが…」


話を切り出すと、ジェイソンもあぁと納得した顔をする。


「あぁ。ぜひとも陛下に娶っていただきたい。もちろん正室などとは言いません」

「だが、後継ぎはカミーラ公女のみだろう?」


確かジェイソン公王には息子が一人いたが、今回の魔物の襲撃で戦死していたはずだ。


「えぇ。ですが公国は帝国での1貴族となり、私もまだまだ隠居するつもりはありません。陛下とのお子を次代の当主にするつもりです。そのほうが帝国貴族としての連帯感を演出できるでしょう?」

「まぁそうだな…」


ジェイソンの言うことは理に適ってる。

新興貴族としてシルビア公国が入ってきても親戚関係などないし、浮く可能性はある。それを考えると皇帝の俺に娘を側室にしパイプを作るのは効果的と言える。

断ることも難しそうだな。別にカミーラ公女を嫌ってるわけではなく、国を救うための対価のようで引け目を感じる俺個人の問題でしかない。


「これからも何卒よろしくお願いします陛下」

「あぁ…もちろんだ。とりあえずは目の前の敵だがな」

「ぜひお願いします」


やはり、貴族を統べる王と言える存在は手練手管を駆使していつの間にか絡めとってくるな。小国なりの強かな立ち振る舞いは感心する。


だけど結局、正室が決まらないのに側室が決まったのか…あれ?ノエルさん?なんでこっちを見てるんです?



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