第9話 もうひとり

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 足取り不確かな夢遊病。

 わからない、わからない。

 分からないまま──気づけば周囲は見知らぬ景色になっていた。

 結局コルパに付いてきてしまった、ということ。


 比較的背の高い建物が立ち並ぶ大通り。

 先ほど戦った場所と比べれば、あたりはだいぶん明るい様相。

 人気ひとけが毛ほどでもあれば、安心感さえ抱いただろう。

 昼のよう、とまでは行かないけれども、少なくとも夜闇の言葉は似合わない。

 ......だから、光届かぬその場所の、むしろ異質さが目に映る。


「この先だね、いわゆる路地裏〜」


 見上げるような建物、建物。

 その狭間、視界の通らぬ閉塞空間。

 暗闇のぎっしり詰まった一本道。


 この先に瀕死の魔物が──そして死に追いやった何者かが、いる。


「......」

 コルパは先に闇へと消えた。

 ひゅ、と外気が喉を過ぎる。

 ほんのついさっきまで、呼吸をしてなかったらしい。

 でも、未だに夢から抜け出せず。


 誘蛾灯に惹き付けられるよう、暗がりへふらふら踏み出した。

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 路地裏の奥へ奥へと進んでいく。

 伸ばした手さえ見えないほどの闇なのに、恐怖も躊躇も麻痺してる。


 ......うるさく聞こえる無音みみなり

 ......靴から伝わるコンクリート。

 ......味覚はというと役立ず。

 ......でも、ちょっと変な匂いがするような。


 視覚以外で探った結果、なんもわからんということがわかった。


 目が慣れるまでは迂闊に進むべきでない、と頭でわかっているけども。

 頭のいう通りに動けるなら、とっくに家でぐっすり寝てる。

 無意識に止めてた呼吸を再開。

 ああなんでわたし、こんな所にいるんだっけ──


 ──こつん。


 つま先に何かぶつかった。硬いとも柔らかいとも言えない絶妙な感触。

 あんまり褒められた比喩じゃないんだけど、例えば犬を踏んづけちゃったような。


「やっと来た〜?」


 下方からコルパの声がする。

 足蹴にしたそれが何なのか、頭ふわふわながらも察せてしまう。

 ......目が暗闇に慣れてきた。気の進まない答え合わせ。


 横たわった、大型犬ほどのサイズの魔物。その上にちょこんとコルパ。

 おそらくわたしが殴り倒した魔物と同種類、たぶん。

 断定できないのは直視できないから。直視できないのは......


「真っ黒焦げだね〜」

 死に様が凄惨だったから。


 でも真っ黒焦げ、というのは違う。炭ではなく死体と認識できるほどには原型が残っている、ソレ。

 途端、変な匂いがより強く感じられた。魔物が焦げた匂い、だったのか。


 目を背ける、意識を逸らす。重要なのは死体そのものよりルーツ。

 自分でも違和感を感じるぐらい、淡々と思考と切り替わった。


 火、炎。それも焼死する程度、消し炭にしないもの、かつ変形させるほど。

 推定するに。

 魔物を死に追いやった何者かは、そうした強力な燃やす力を持っている......



 ......考えが至ったその瞬間。

「慣れないこと、した甲斐があったわ」


 突如、はるか後方から声が響いた。

 高めの耳に響く声質は、わたしのものでもコルパのものでも、ない。


「まさか、こんな罠にも満たない罠に引っかかってくれるなんて」


 じゃあ誰だ。決まってる。

 魔物を瀕死のまま放っておいた者、燃やす力を持った者。


「今朝の魔物、倒したのはあなたでしょ」


 ゆっくりと振り向く。

 遠巻きながら。

 路地裏の入口にて、逆光で浮かびあがってる人の影。


「困るのよね、野良の魔法少女に考え無しで暴れられると」


 背丈はおおよそ女子のもの、同い年。

 大きなツインテールのシルエット。


「だから、協会所属のこの私が......」


 そういえば、何者かの正体には見当をつけていた気がする。

 覆面変身ヒーローか、あるいは......


「......躾として、少々痛い目に遭わせてあげる!」


 燃やす者、人影が杖を構えるのが見えた。


 ......わたしと同じ、魔法少女!

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