第10話 魔法都市フンフ・エレメント その①
魔法都市フンフ・エレメント。魔法の研究や教育のために作られた都市で、国家戦略として重要な立ち位置を持つ。街の見た目は商業都市と変わらないが、細かいところを見ると、違いが分かる。占いの出店や使い魔の数が多い。
「ぶ」
実際、ウェンダルは使い魔らしき蝙蝠と激突していた。当たったところは顔だ。それを見たフェルトは吹き出した。
「あっはっは。これが魔法都市の名物、使い魔との激突事故だよ」
「意味分からないぞ」
「面倒な輩が多いから、使い魔を飛ばして、買い物をするのさ。だから使い魔というか、小動物が多いし、飛び交うから、ぶつかるのさ。法律で禁じられているものとかはあるけど、対策だって限界がある。よーし。着いたぞ」
ウェンダルは目的場所の建物を見上げる。塔だ。古い時代に作られた土のブロックで積み上げたものに強力な付与の魔法がかかっている。職人はそれを理解する。
「恐ろしいな。これほどのものはそう見ない」
「王国最古の魔法学校だからね。入って入って」
建物の中に入る。魔法で光を灯している。内部にも小動物がいて、本当に人が住んでいるところなのかとウェンダルが疑うほどだ。
「連絡所があるからね。この辺りは使い魔が多い。二階からはちゃんと人がいるから安心して。その代わり、物理法則が乱れてるけども。こんな感じで」
「……頭が痛くなってきた」
二階のフロアからは外部の見た目よりも広くなっている。空間を魔法で弄りまくった結果で、図書館や実験室などがある。
「俺の研究室へようこそ。ちょっと見てもらいたいものがあるんだ。ちょっと待ってて」
ようやくフェルトの研究室に辿り着く。棚に書物が置かれ、粘土で出来た板は棚の傍に置かれている。ウェンダルが気になるところは光り輝く何かが浮遊していることだ。
「フェルト、これは」
「妖精だよ。人と別のところに住む世界から来た旅人とも言う。ちょっとした協力者でね。効率の良い灯りをどう作るのかという話をしてるんだ」
ウェンダルは妖精と呼んだ輝く何かを観察する。
「……何も話してこないが」
「そりゃ特殊な言語習得が要るからね。良かったらウェンダルも学ぶかい?」
ウェンダルは数秒で察する。
「遠慮する。特殊な魔法技術が要る匂いしかしない」
「大正解!」
フェルトは羊皮紙を取り出す。
「これが街灯の魔法の設計さ」
さり気なく渡されたウェンダルは反射的に返す。
「機密だろ」
「なあに。お前ならいいってお偉いさんも言ってたから、大丈夫だよ!」
「どこが大丈夫だどこが」
ウェンダルは「はあ」とため息を吐く。フェルトは穏やかな顔をしながらも、真剣に職人に助言を送る。
「君はもう少し自覚しておいた方がいい。動くだけで。作るだけで。この王国が変わることだってあるってことをね」
商業都市と職人ギルドの世界しか知らないウェンダルは真剣に考える。果たして自分は何か変わることをやったのだろうかと。
「変わるか? 俺はただの魔道具職人だ。しかも生活用だぞ。感謝を貰うことがあっても、貴族たちから感謝されるようなことは」
数秒の思考の末、ウェンダルは分からないと結論を出した。ごそごそと何かを探し終えたフェルトは羊皮紙数枚を職人に渡す。
「これが今まで君が関わったことさ。覚えてるかい?」
「ちょっと待て」
ひとつひとつ目を通す。東方の魔法技術を取り入れた下水のシステム。家庭を守る防犯。頑丈な金庫。昔やったなと思うぐらいの認識でしかない。魔道具職人として、淡々とやっていたことが、騎士や貴族から感謝されるようなものではない。それが仕事だから当然という意識が強い職人だからだ。
「覚えてはいるが。だからどうした」
「うん。君はそういうところあるよね。魔道具職人としてぶっ飛んでいる腕を持ってる自覚ある?」
「代表格の魔術師に言われたくないが……振り返ることが出来たという事実はあるな」
職人は振り返る。商業都市で作り上げ、他の都市に送り込んだ魔道具を。創意工夫を施し、修復しやすいように組み上げたものが活躍している。子供の活躍を知って喜ぶ父親のようだと、職人は少し嬉しそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます