第11話 魔法都市フンフ・エレメント その②

 ようやく本題に入る。ウェンダルは街灯の魔法の設計図を見て、目がキラキラと輝かせる。興奮気味にフェルトに言う。


「これほど綺麗な魔術の回路は初めて見た。太陽の光を吸収し、エネルギーに変換させ、循環させる仕組み。画期的だ」

「そうだろ? 自然を使ったエネルギーという選択しかない王国の大きい計画のひとつさ」


 王国は面積が小さく、精霊結晶ぐらいしか資源を持たない。世界各国の争いに一歩負けている。新聞などを読むウェンダルもそれぐらいは知っていた。


「だが資源は輸入で賄えるものではないのか」

「精霊結晶と違って、限りがあるからね。それに害が大きい」

「水と空気と土の汚れ。祟り。黒い雨の噂は聞いていたが」

「恐らく弊害があるってことだよ。確証はないが、王国としてはなるべく自然を綺麗に保っておきたいというお考えだ」

「なるほど。だからか。とはいえ、ここまで完成度が高いと俺の出る幕はないだろ?」


 フェルトは楽しそうに笑う。


「それはあくまでも設計図だからね。まだ作製段階ではない。君も待機しておくべきだとは思う。いくつかの話し合いと許可を貰うから、その間に君は旅路を楽しむとよい。ついでに自分の価値を知っておくべきかなと思うよ。うん」


 皮肉が混ざった魔術師の発言に職人はムキになる。


「待て。それだとまるで俺が世間知らずみたいな言い草じゃないか。これでも新聞を取っているし、顧客から外の様子だって聞いている。これでも客観的に見ることができるぞ」

「ほお? ならば思い知るが良い。七日間行われる、魔法都市のお祭りで偉い人達が来るからね。存分に知るがよい」


 魔術師が言うお祭りは最新の魔法の研究や古代文明の遺跡の発表をしている傍らで、美味しい屋台料理が提供される催しのことを指し、一般的な祭りとは大幅に異なっている。発表の場のため、貴族や騎士など位の高い人達が集まってくる。ざっくりと知っているウェンダルはため息を吐く。


「だから俺はあくまでも職人だ。金を貰って、それ相応のものを提供する。周りと変わらない。仮に貴族と会っても、魔道具職人という認識しか出てこないだろ。普通は」

「謙遜というか、ただの無知だよね。君の場合は」

「失礼なことを言うな」


 フェルトはウェンダルのクレームを無視して、好き勝手に言う。


「好きで魔道具職人の世界に入り、そのまま継続している。古いやり方に固執せず、新しい技法を取り入れる。それはまさしく一流の域に入っている。状況に合わせることも可能で、高度な魔法だって扱える。時には新たな時代の土台となる技術を生み出すこともある。それのどこがただの職人だって言うんだい?」

「研鑽は当然のことだ。依頼者に品を出すだけではなく、状況に合わせたり、出来る限り要望を叶えさせたりすることも、職人として当然のことだ。ギルドにいた俺の師匠や歴代のマスターはそう言っている。俺はその教えに従っているだけだ」


 フェルトは頭を抱える。そういえばウェンダルが所属している職人ギルドは猛者ばかりだったと。


「これだからあのギルドは」


 ウェンダルは当然だと言わんばかりの表情をする。


「歴代優れた職人が集まるからな。そもそも継承するために次の世代を育成しないと。ああ。そうか」


 ウェンダルは発言しながらある事に気付く。まだ職人としてやれていないことがあったことを。


「継承をしてなかったな。娘に」


 男性ばかりの職人の世界に突撃した、ウェンダルの一人娘に教えて来なかったことを。


「ザビーネか。心配いらないんじゃないかな。常に君の様子を見ていたし、いくつも仕事をこなしているのだろ?」


 ウインクをする魔術師の台詞に、ウェンダルは静かに頷く。


「それなら心配いらないさ。積極性のある子だ。かつての君のように模索をしながらやっている。君は何かがあった時に支えてやればいいのさ」

「それでいいのか」

「ああ。継承する流れは時代に合わせて変わっていく。どこも似ているさ。それにあのギルドは強い。だから君は旅路を続けて、学んだことを仕事に活かせばいい。まあとりあえず祭りを楽しめば?」


 フェルトを見たウェンダルは呆れた顔になる。


「単に屋台制覇したいだけだろ」

「大正解!」

「はあ……付き合おう」


 大人同士が朗らかに笑う。旅路というものは食べ物が欠かせない。それを知っている職人は祭りではただのウェンダルとして楽しもうと決意をしたのであった。

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