第8話 精霊結晶採掘場 職人、無茶をする

 採掘作業が終わり、男達は住処に戻る。既に太陽が沈み、星の空が覆う。それでも暗い。コルトはオイルランタンを使い、道を照らす。ウェンダルは先頭にいるコルトに聞く。


「使い心地はどうだ」

「悪くない。というか寧ろよくなってるな」


 コルトの感想にウェンダルの頬が緩む。


「ランタンを持つ者は使え。それと夜は獣が多い。警戒をしておけよ」


 商業都市は基本的に獣と無縁なところだ。壁が侵入を防ぎ、知能があるドラゴンが空からの侵入を防いでいるからだ。経験のないウェンダルは何もせず、ただ彼らに付いて行く。


「コルトさん?」

「例の不審人物だ」


 その途中、コルトの足が止まった。先頭が止まったため、皆の足が止まる。


「コルトさん、囲まれてますぜ!」


 ウェンダルの目に気の影に隠れている奴が映っている。コルトはすぐに指示を出す。


「ダイン! 至急、緊急連絡をしろ!」

「はい!」


 ダインと呼ばれる者は筒を出し、火を導火線に付ける。何かが筒から出て、赤色のものが夜空に解き放たれる。ウェンダルはしゃがんで、腰のポーチからトンカチを取り出す。


「おい。何すんだ」


 職人は周りの声に反応しない。耳を遮断し、視界を遮断し、トンカチを持っている右手に集中する。少しずつ魔力をトンカチに送り込む。トンカチが暖かくなったと思い、ウェンダルは付与魔法を使う。その後は地面を叩く。釘を打つように、リズミカルに打つ。職人は魔力の波を感じながら、ただひたすら打つ。


「土が盛り上がってる」

「結界か。かなり固い。魔法もそう簡単に通らない」

「こんなの俺……初めて見ました」


 周りの従業員が様々な反応をする。ウェンダルは目を開け、無事に発動が出来たと確認し、意識を失った。大事な道具のトンカチを手放すぐらい、限界を迎えていた。


「職人! コルトさんを呼ぶから!」


 ウェンダルが目を覚ました時には木の天井が見えていた。白いバンダナの男がコルトを呼びに出て行く。それと同時に、暖かい人の手がウェンダルの額を擦る。


「随分と無茶したね」


 優しい男の声を聞いた職人は寝返りをする。金髪をポニーテールにし、女性が黄色い歓声を送る程の顔立ちの良さを持つ男が傍にいる。


「魔術師」


 未だに回復しきれていないため、ウェンダルは傍にいる男の名前すら思い出せていない。男はため息を吐く。


「その内のひとりのフェテラだよ。これを飲むことだね。起き上がれるかい? 出来ないなら手伝うが」


 フェテラという男はウェンダルに緑色の液体を見せる。


「自力で」

「ん。やっぱり無茶してるね」

「すまない」


 ウェンダルはフェテラの手を借りて、身体を起こす。コップに入っている緑色の液体をぐっと飲む。


「みんなは……無事か」

「ああ。全てお前のお陰さ」

「そうか」


 ウェンダルはホッとした表情をフェテラに見せる。


「魔術師ならもっと簡単に出来たと思うが……どうにか出来て、限界が来て、どうなったのだろうと気にしていた。これなら安心して休んで寝られる」

「いやああいう術は高度な分類だからな。しかもアレンジして発動出来る辺り、センスはやっぱぶっ飛んでるよ。これなら数年前に無理やり引き込むべきだった。っておい。寝るな寝るな!」


 ウェンダルは爆睡し始めた。置いてけぼりのフェルトは呆れたような笑みで、寝ている職人に癒しの魔法の詠唱をする。歌うようなもので、睡眠の質を高くし、魔力の回復の促進を狙う。終わった後、フェルトは微笑みながら、ウェンダルに言う。


「これでいいかな。職人としても。人としても。お前は無茶をするな。我が相棒のひとりよ」


 誰かが駆けつけて静かに見て、安心してどこかに向かう。その繰り返しだった。商業都市でも、ギルドでも、旅先でも、職人の傍に誰かがいてくれる。ウェンダルが応えようとする理由はそこにある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る