第7話 精霊結晶採掘場 職人としてのお仕事

 採掘の見学した後、広い空間に戻り、ウェンダルは職人としての仕事を始める。最初に獲得した情報を整理する。胡坐をかいて、地図を広げる。


「結晶採掘場の中の、洞窟内は黒い精霊現象は起こっていない。洞窟の外での発見報告しかない。結晶採掘場の地図は……思ったよりも広いか」


 ウェンダルはぶつぶつ言いながら、地図に書きこむ。


「従業員の採掘時間は朝から夜まで。休憩込みの九時間。ランタンを使って、洞窟と住居エリアを行き来している。魔法を使えるのなら、俺に依頼をしないだろうな。そうなると、従業員の中で応用的に魔法を扱える奴がいないと考えた方がいいな。魔道具の仕組みを簡単にすべきと」


 生活用の魔道具は庶民が扱えるように、簡単な仕組みで起動できるようになっている。また、どのような魔道具職人でも修復できるようにする必要もある。どれだけ力があったとしても、他人が干渉できなかったら元も子もない。ウェンダルの眉間に皺ができる。


「スコップやハンマーは有効打にならない。付与しても効果は薄い。黒い精霊現象の弱点は光と熱。それを活かすことが出来るのはランタンか」


 本来、魔道具は一から作る必要がある。ランタンを作りながら、その途中で付与をしたり、強化をしたりする。近くに魔道具職人がいるような住処があればいいのだが、残念ながら地図上では精霊結晶採掘場の周りは山や森や平野が多い。現実を知ったウェンダルはため息を吐く。


「今回は一からの作製は無理だな。そうなると改造するしかない。芯を弄っておきたいが」


 一から作ることが出来ない場合は普通のオイルランタンを改造するしかない。ただし、強度と職人の腕次第では壊れるリスクがある。信用を失うことに繋がる。


「ウェンダルおじさん、これ欲しいの?」

「え」


 フェルズがオイルランタンの芯を持って来ていた。予想外の子供の行動にウェンダルは慌てる。


「いや。その。確かに芯のことは言ったけど」

「大丈夫じゃないかな? 頑丈にしてるって兄貴たち言ってたし」

「取り合えずコルトさんに確認を取ってみるよ」


 ウェンダルは立ち上がろうとした時、


「大丈夫だ。ある程度頑丈にしてるからな」


 コルトから許可を貰った。


「ありがとう」


 礼を言い、職人はオイルランタンの芯の改造を開始する。最初に魔法で強化の付与をし、壊れないように準備をする。次に羽ペンのようなものを取り出し、地べたに魔法陣を書く。常連顧客の魔術師のひとりから教わった詠唱をし、芯に結界の要となる魔法の文字を書く。見た目で分かるわけではない。ただ見ただけでは変化しないものだ。


「フェルズ。こういう地味な作業は退屈するだろ」


 じっと見ているフェルズは横に振る。


「ううん。退屈しないよ。みんなの色が違っていて……面白い」

「そういうもんか」


 深く考えることをせず、ウェンダルはガラス部分に触れる。深呼吸をして、五感を研ぎ澄ます。硝子独特のひんやりとした冷たさを感じながら、ウェンダル自身の魔力を使って、透明の回路を描く。


「ふうー……」


 数秒後、ウェンダルは疲れたように息を吐いた。


「おじさんおじさん。今の何!?」

「ちょっとした細工だよ。とある魔術師が得意としている、新しい時代の魔法陣って奴だ。最新だからな。まだまだ少ないんだよ。使える奴は」

「へー」


 子供のキラキラとした目を見たウェンダルは微笑みながら、頭を優しく撫でる。途中からこっそりと隠れていたコルトは心の中で言った。最新だからではない。難しいから少ないのだと。


「これで黒い精霊現象の対策ができるオイルランタンひとつが完成したよ。どこかで試さないといけないが……夜にならないと試すことが出来ないな。いや。色々作れると思えばいいか」


 ひとつを作ると、他のこともやりたくなる。それがウェンダルの性である。


「コルト、あとどれぐらい改造すればいい?」

「うえ!? ああ。三つは欲しいが……無理するなよ。明らかに負担がデカいじゃないか。って。話を聞いてない! 絶対倒れるから止めてくれ!」


 コルトが嘆いた。魔道具関連になると、止まるという言葉が辞書からなくなる。ウェンダルの悪いところだ。奥様が傍にいたら、言葉だけで止まってくれたが、生憎いない。そうなると……野郎で物理行使して、強引に止めるしかなかった。実際、三つじゃなく四つも改造を施し、コルトと男数人が強制終了させたのであった。

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