第6話 精霊結晶採掘場 見学

 コルトの案内でウェンダルは採掘場の現場に向かう。職人で商業都市に引き籠っているような人なので、森や山の道に慣れていない。体力を消耗し、洞窟の入り口付近で座り込んだ。


「大丈夫か?」

「どうにか」


 ウェンダルはそう言い、顔を見上げて、周りを見る。涼しい風に穏やかな日差し、生命力を感じさせる濃くて鮮やかな緑色に感銘を受ける。また、こういうことなのだと納得する。


「ここが精霊になった者の終着点か。納得がいく」

「だろ? ここは空気が良いし、水も良いし、土の質だって優れている。濃い魔力が集まっているからな。とりあえず少しぼーっとするか」


 コルトも座り、少しだけ休息を取る。数分の沈黙。ウェンダルは商業都市では見られない景色を堪能した。


「よし。洞窟の中に入るぞ」


 二人は立ち上がって、洞窟に入る。狭い通路の階段のように下り、明るくて広い空間に入る。木の棚に食器や予備の道具が置かれ、地べたには寝袋のようなものが雑に置かれている。


「ここが簡易拠点だ。休憩を取ったり、仮眠を取ったり、道具の整備をしたりする。作業はここでしてくれ。もう少し奥に進むぞ」


 二人は洞窟の奥に進む。更に幅が狭く、歩くところが不安定になっていく。コルトが持つランプがあるため、まだ歩けている状況だ。


「ウェンダル。この辺りは精霊結晶が発生しづらいところだ。かといって、最深部はリスクが大きいから、その間で取っている。着いたぞ」


 暗い空間から明るい空間に入る。そこは透明で神秘的なたくさんの結晶が光り輝いている。結晶というより、柱という表現が正しい。いくつもの太い結晶の柱が天井まで突き刺さっている。小さい隙間には従業員らしき者が削っていた。ウェンダルは感動をした。


「ここまで大きいものは初めて見た」

「まあな」

「柱ごと持ち帰ることは出来るのか。ここは狭いから無理だと思うが」


 ウェンダルのぶっ飛んだ質問にコルトは笑う。


「あっはっは! 無理だよ。他所のとこでも似たような感じだからな。それに重いし、空間転移は高度過ぎて俺達の手でやれる代物じゃねえ。こんだけデカいと扱いづらいだろ」

「それもそうだ」


 ウェンダルも笑う。実際、知り合いの術師から空間転移の術の説明を聞いた時、無理だと感じたことがあるためだ。


「コルトの兄貴! こちらに来てたのですね!」


 誰よりも幼い子供がやって来た。日に焼けた肌に茶色のぼさぼさとした髪。人懐っこく、初対面のウェンダルにも近づいてきた。


「おじさんがいるんだ! ここで働くの?」


 ウェンダルはしゃがんで対応する。


「いや。別のお仕事でこっちに来たんだよ。坊主、名前は」

「フェルズ!」

「俺はウェンダルだ。君はここで働いているのか?」


 ウェンダルから見たら、フェルズという子供は五歳程度にしか見えていない。王国の法律上、労働可能な年齢は十歳からだ。それを知っており、かつては父親だったので、やや心配そうに聞いてしまった。


「ううん。遊びに来てるの!」

「そうか」


 子供の無邪気な答えにウェンダルはホッとした。


「ねえねえ。コルト兄貴。怪しい人とか、真っ黒のこと、伝えたの?」

「ああ。怪しい奴を対処するお兄さんは数日で来るはずだよ」

「じゃあウェンダルおじさんは?」

「真っ黒をどうにかするためにこっちに来たんだよ。ここからはお仕事の時間だから、しーっできるかな」

「うん」


 コルトとフェルズは全く似ていない。しかしやり取りは親子そのものだ。血を繋がっていなくても、こういう関係を築けるものなのだと、ウェンダルは微笑ましく見守った。


「ベモート」

「うぃーっす」


 コルトはベモートという男を呼んだ。細身の金髪の男で、珍しく指輪をしている。指輪には魔法が施されている。職人としての癖で、ウェンダルは男の指輪を見る。


「コルトさん。此奴新入りっすか。それならもうちょっと若い方が」


 採掘場の従業員らしい発言がベモートの口から出てきた。


「ウェンダルは職人として、例の仕事を引き受けただけだ」

「ああ。そういうことっすか。俺の指輪に反応してるのも納得っすよ」


 納得したベモートはウェンダルに向けて言う。


「ウェンダルさん、事情は聞いてるっすよね。なら掘っているところを間近で見て、感じてくだせえ」


 ウェンダルはベモートの手元を凝視する。数々の道具を駆使して、大きい結晶から削っていく。欠片とちょっとした粉が出るだけだ。削ったところは布で拭き取り、削った時に出てくるものを柱の近くにまとめて移動させる。祈りのような言葉を言い、取れた結晶を腰のポーチに入れた。その繰り返しだ。退屈になる人がいるだろう。しかしウェンダルはずっと見る事が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る