4月30日(火)

 今日は朝から家族の弁当を作った。普段は作らないので、坂道を転がるおにぎりのように時間が過ぎて、慌ただしい朝だった。

 おにぎりといえば、昔、遠方に住む祖父母の家に遊びに行くと、帰り際に祖母がおにぎりを必ず持たせてくれたのを思い出す。

 昆布のふりかけがまぶされた、自家製の梅干しが入れてあるおにぎりと、殻つきのままのゆで卵。そしてアルミホイルに包まれた、ゆで卵用のお塩。この三点セットが定番だった。

 祖母の漬ける梅干しは、どこか妖艶な、深い紫蘇の色をしていた。そして、当時はちみつ梅で甘やかされた舌からすると、恐ろしいほど塩辛くて、一口食べるたびガツンと目が覚める感じがした。梅干し入りおにぎり一個に対して、白米を茶碗一杯おかわりしたいぐらいの塩辛さだ。今思えば、塩分過多な気がする。

 けれど祖母が元気だった頃、たまに送られてくるこの梅干しを、私は「しょっぱいんだよなーこれ」と言いながらもいそいそと食べていた。

 多種多様な梅干しがどんなにずらりと並んでいても、パブロフの犬のように私の口の中によだれをあふれさせるのは、今でも記憶の中の祖母の梅干しだけなのである。

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