鉄道

 フランス国鉄の木造客車列車は、大型のディーゼル機関車に牽引され、リヨン方面へと向かう。

 貨客混合型列車は、前方に重装甲列車を連結している。

 63式重装甲列車、ヴェルサイユ条約の裏で開発された、要人護衛用の車両で、分厚い鉄板を重ねた鋼の装甲、戦車を一撃で撃破できる低反動キャノンを装備しており、機械人形への警戒が厳重になっていることが分かる。

 アランはデスカの誘いに乗って、列車に揺られながら、要人の警護に回ることになった。

 食堂車に誘われたアランは、デスカからナチュレについての説明を受ける。

 「獣人族?」

 「ああ、かつてフランスには獣人族が多数、存在したとかっていう噂だ。そのナチュレは人間に滅ぼされた後、フランス各地の地下で身を潜め、各地で奇妙な殺人事件や兵器の強奪などを繰り返していたようだがね」

 「ラムジンやキャルのことを考えると、おとぎ話とは思えなくなってきた」

 デスカは葉巻を吸った。

 「だろうな、やつらは機械人形の情報を収集し、試作開発中の兵器の奪取に成功した。そしてジャン・クロードが・・・・・・」

 「ああ、殺された・・・・・・」

 アランは俯く。

 あの時、隊長を守れなかった悔しさ、自分自身の無力感、アランはすべてを背負っていることを再認識した。

 「そんなアラン君には、託したい力がある」

 「力?」

 デスカは図面の書かれた書類を見せる。

 ガトリング砲の図面、携帯用のガトリングガンだとアランは見抜く。

 「対戦車ガトリングガン『ジョワユーズ』だよ。戦車の装甲をハチの巣にできる最高の威力を有する、軽装歩兵用の装備だ」

 「これを僕に?」

 「アラン君しかできないことだ。君だからこそ託したい。それに君は機械人形とナチュレとの戦闘を経験している君だからこそ、私はお願いしているんだよ」

 アランは『ジョワユーズ』の虜になっていた。

 対戦車用ガトリングガンM151『ジョワユーズ』、軽装歩兵が携行できるようダウンサイジングされたガトリングガンで、対戦車用徹甲弾を採用しており毎分200発もの弾丸を発射することができ、ドイツの軽戦車を撃破することが可能な威力を有しており、対戦車ライフル以上の高い威力を有する。

 ホチキス機関銃と違って、機械人形の装甲を貫通できる徹甲弾を採用しているのが強い。

 「理論上は機械人形を撃破できる高威力を有しているみたいだが、この曲者を使いこなせるのはアラン君が最適かなと思ってね」

 アランは驚いた。

 軽装歩兵用のガトリングガンがあることも驚きだが、それ以上に『ジョワユーズ』が機械人形を撃破できる威力を有していることに驚いた。

 これなら隊長の無念を晴らせる。

 無力じゃない以上、自分の使命を果たすとアランは誓う。

 「ありがとうデスカ」

 「お礼を言われるまではないけどね。何せ処分に困ったものでね」

 デスカは笑みを浮かべながら、葉巻を吸う。

 その時、列車の振動とは違う、不快な揺れと爆発音が響く。

 「大佐!機械人形が!UEの盗賊までも!」

 車窓からはゴリラの形をした機械人形『デクレシェンド』がバギー・バイクに乗ったナチュレの暴走族風の女たちとともに接近する。

 ナチュレの暴走族はみんなキャルみたいな見た目の猫の怪人だった。

 「ヤッハー!ホーホー!」

 改造バギー・改造バイクから奇声を発しながら、機関銃を乱射していた。

 一方の『デクレシェンド』はゴリラ型機械人形とあって、一色で赤く塗られた重厚な装甲、両肩の低反動キャノン砲のよる高い威力、鉄輪式のタイヤ、まさにゴリラを形にした機械人形が列車に近づこうと爆走していた。

 戦車2両分もの装甲・火力を有するだけあって、頑丈そうだ。

 「地球人ども、我は真の貴族、『アルスバッハ』ゴリ!すぐさま列車を停車させよ。させなければ皆殺しだ!」

 あいつもナチュレの怪人か。

 「アラン君、『ジョワユーズ』は食堂車の隣の車両にある木箱に入っている。好きに使ってくれ!」

 「ああ!」

 アランはすぐさま食堂車を飛び出し、隣のラウンジカーへと向かう。

 連結面からラウンジカーへと移る彼、デスカの言う木箱はラウンジカーのソファーにおかれていた。

 アランは木箱の中を開ける。

 白銀に輝くガトリングガン、装填済みの弾薬、携帯できるように肩掛けもあり、高い機能性を持ちながら、芸術品のような美しさを誇る高威力のガトリング『ジョワユーズ』、アランに託された新しい力、無力な自分と決別する力、アランは『ジョワユーズ』を手にする。

 その瞬間、ラウンジカーが蒸発する。

 アランがいた場所は難を逃れたが、車両の側面は跡形もなく吹き飛ばされた。

 「イヤッホー!」

 緑色の長髪が目立つ猫の怪人が乗り込もうとする際、アランは『ジョワユーズ』の銃底部で吹き飛ばそうとする。

 「あああああああああ!」

 呆気なく吹き飛ばされた怪人、アランは『デクレシェンド』を探す。

 「近距離じゃないと、『ジョワユーズ』の威力が無意味だ!」

 アランは考えた。

 「フェリシア!」

 ボーイッシュな猫の怪人が、友人だったんだろうか、心配していた。

 アランはすぐさま、『ジョワユーズ』を右肩に背負い、ダメ元でボーイッシュな猫の怪人の乗っているバイクに飛び乗ろうとする。

 アランはバイクに飛びつき、ハンドルを切ろうとする瞬間、猫の怪人は「いやああああああ!」と断末魔を上げながら、車両から転げ落ちる。

 アランはハンドルを持ち直し、スロットルを全開にして、『デクレシェンド』への接近を試みる。

 装甲列車は、砲撃を始めた。

 弾着と同時に怪人たちの乗るバギー1台が撃破された。

 『デクレシェンド』も反撃の砲撃を繰り出す。

 『デクレシェンド』から発射された砲弾は木造客車1両を木っ端みじんに粉砕する。

 アランは何とか『デクレシェンド』に張り付こうとフルスロットルで接近を試みる。

 「自分こそが真の貴族ゴリ。所詮、人間の貴族などこんなものだ。このアルスバッハこそが選ばれし貴族ゴリ」

 怪人の声が聞こえる。

 ラムジンやキャルと同じ幹部レベルの怪人かもしれない。

 アランは怒りを覚えながらも、高速走行する『デクレシェンド』に接近を試みる。

 しかし『デクレシェンド』は、走行中に反転し、バック走行でアランに照準を定めようとする。

 低反動キャノン砲でアランを吹き飛ばすつもりか。

 「金髪の軽装歩兵?このアルスバッハ様がラムジン男爵の無念、晴らさせてもらうゴリ!」

 この怪人はアルスバッハを名乗る怪人のようだ。

 『デクレシェンド』の低反動キャノン砲から大型の榴弾が放たれる。

 激しい弾着、衝撃とともに地面が蒸発する。

 黒煙の中を切り抜けるバイク、アランはあの砲撃を回避できた。

 「なんと!」

 アルスバッハは予想を裏切られた。

 アランはすぐさま、『ジョワユーズ』を構え、セーフティロックを解除し、引き金を引いた。

 激しい反動、アランは必死にこらえながら、200発もの弾丸を『デクレシェンド』に浴びせた。

 頑丈な機械人形の装甲を連撃が襲う。

 走行中の『デクレシェンド』はハチの巣にされ、 穴と亀裂だらけの姿になり、アルスバッハの「ゴリいいいいいいい!」という断末魔の後に蒸発してしまう。

 鋼鉄のゴリラを一気に破壊した『ジョワユーズ』の威力にアランは驚いていた。

 一瞬で機械人形を葬る威力、恐ろしささえ感じていた。

 爆発の際に何とか脱出しようとしたのか、ゴリラの怪人が蒸発する『デクレシェンド』から放り出される。

 血だらけの貴族の服を着用したゴリラの怪人、異様な魔物の姿はやはり恐ろしささえ感じる。

 アルスバッハは野原に放り出され、大量に出血し、意識がない。

 アランはバイクを停車させ、アルスバッハへと向かう。

 ナチュレの他の怪人たちは、アルスバッハを逃げ捨てるように、遥か広がる野原の先まで消えていった。

 列車も逃げ切るように、消えてしまった。

 アランはアルスバッハの死亡を確認したその時、せき込みながらもアルスバッハが息を吹き返す。

 「金髪の騎兵・・・・・・。残念ゴリ・・・・・・。我らナチュレは、地球の名ばかり貴族どもを追い出して、真の貴族国家を作るはずだった・・・・・・。いつか、フランスは我らナチュレの国になるゴリ・・・・・・」

 「ナチュレの国を作る?どういうことだ!」

 アルスバッハは息絶えた。

 答えより疑問を残した死、アルスバッハの死から得られたものは何なのか。

 今はアルスバッハが死んだという事実だけを、アランは受け入れる。

 曇天の空へと変わった風景、冷たい涙雨がアランに降り注ぐ。

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