ラスト没案『動画のキセキ』

【注意】この話は、『Me at the aquarium』のラストの、正真正銘ボツボツの「没案」です。バッドエンドなので、ご注意ください。ハッピーなエンディングのイメージのまま終わりたい方は、閲覧をお控えくださいませ。私加賀倉は言いましたよ? 何があっても、自己責任で、よろしくお願いいたします。(つまりはセルフレイティングがあるのはそういうことです)


 

 __伝説のコラボから五年後__

 

 現在、あの誘拐ドッキリの全容と、二人のYouTuberとしての歩みを記したドキュメンタリーが、映画化されて大ヒット中だ。そんな中、とある映画館にて。



 俺はK。


 今日は、B子という、俺の好みの顔の女の子と、映画デートに来ている。


「『動画のキセキ』、面白かったね!」


 と、B子。


「だな! やっぱり俺の言った通り、面白かっただろ? みっちりと調べたからな」


 というのはウソウソ。前に本命彼女のA子と見に来たからこの作品が面白いのは折り紙つきなんよ。


「うん本当に! K君、チョイスのセンスあるよ! すごい!」


 やっぱりバカな子は流行りの映画を見せとけば、ちょろいもんよ。この後は適当にディナー、その後は真の目的である……

 


 ♪ ぴろりん ぴろりん♪


 ♪ ぴろりん ぴろりん♪


 ♪ ぴろりん ♪


 

 と、着信音。


 げっ、A子からだ。


 今出るわけにはいかないな。


 他の女の声が聞こえたり、誰かと映画館に来てるのがバレたら、まずい。適当に誤魔化そう。


「K君、どうしたの?」


「ああ、大学の教授からだよ。今度研究を手伝ってくれって、うるさいんだよなぁ。まぁ俺の手にかかればちょろいから、手伝ってあげようと思ってはいるけど」


「ならどうして、すぐ電話に出てあげないの?」


「そりゃぁ、舐められたら困るからさ。俺はそんなに軽々しく利用できる存在じゃないぜって、わからせないといけねぇ。教授が相手でもね」


「そっかぁ、やっぱりK君ってすごいや。あたし、K君となら……」


 キター! 確定演出キタコレ! でも油断は禁物、念には念を入れて、今日はいっぱい飲ませちゃおうっと。まぁ俺より酒に強い子なんていないだろうからな。ましてやB子は、こんな可愛い女の子だし。


 

 __数時間後__


 

 ホテル街に近い、とあるバー。


 気づけば、目が、視界がぐるぐる回っている。


 俺のグラスには、並々注がれたテキーラ。


 B子の周囲には、何十もの空いたグラス。


 酔いで、どうにかなってしまいそうだ。


 もう、意識が朦朧もうろうとして……ぶっ倒れてしまいそ……



 

 ***


 

 

 Kは気を失った。


 B子は依然ケロッとしている。


 B子は、Kを揺さぶり、完全に意識を失ったのを確認すると、彼女の目の色がギラリと変わった。

 

 彼女は、慣れた手つきで、Kから財布やら、アクセサリーやら金目かねめのものを全て奪い取ると、お返しに会計の札を、彼のズボンの後ろポケットに突っ込む。


 すると、バーのマスターが寄って来て、厚い封筒を手渡す。


 彼女は素早くそれをバッグにしまうと、そそくさと、バーを後にして、闇夜に消えていった。


 そう、B子は、ぼったくりバーとカモ客を結びつける、ヤバめな斡旋あっせん業者だったのだ。



 __翌朝__


 

 A子は、駅前で誰かを待ちながら、イライラしていた。


「もう、K君ったら遅いわね! いつまで待たせる気よ、LINEにも既読つかないし……」


「そうだ、あいつの友達に連絡してみよっと、Lとか暇そうよね」


♪ プルルルル プルルルル ♪

 

 発信音。


「あっ、もしもし、L? 今暇? 聞きたいことあるんだけどさ」


「おいA子! あの件聞いたぞ、大変なことになってるよな?」


「何の話? そんな深刻そうに、どうしたの?」


「深刻も何も、大事件だろ? 大学中に広まってる噂のことだよ! Kがヤバい集団に誘拐されて、酷い目に会ってるらしいって……」


「何それ、私知らないわよ? K君が、誘拐? えっ、どうしよう……」


「とにかく、みんなでKを探しに行くぞ!」


「って、自分たちで探すの?」


「それしか方法がないんだよ! 警察には掛け合ってみたけど、学生の言うことだしイタズラで流れた噂じゃないのかって、信じてもらえないんだ」


「そ、そんな……」


「今どこにいるんだ?」


「家の最寄りの駅前だけど……」


「ならすぐ俺が車で迎えに行くから、待ってろ! 変な気起こすんじゃないぞ?」


「うん、わかった……」



 

  __昨夜未明、バーにて__


 汚物にまみれたKは、長い眠りの後、ようやく目を覚ました。


 辺りをキョロキョロ見渡すも、自分の置かれた状況が飲み込めない様子。


「おぅ、坊主。やっと起きたか」


 と、スキンヘッドの、ムキムキの大男が言った。


「誰だお前……あれ、B子ちゃんは?」


「B子ちゃんだぁ? なぁにまだ寝言言ってやがる。 早くお勘定を済ませな!」


「はぁっ? おっさんこそ何言ってんだ。俺はこのあと……」


 ドカッ!


 スキンヘッドの男が、Kを殴りつける。


「いってぇ! 何しやがんだ!」


「あぁ? 目覚ましだよ。まだ寝ぼけてるみたいだからな。で、ほら、早く勘定。勘定だよ」


「ったく、B子の野郎、食い逃げかよ。ついてねぇな……ってあれっ?」


「どうした? 財布はそれじゃないのか?」


「それって、どの?」


「ケツポケットのだよ!」


 Kは、ズボンの後ろポケットから、硬い板を取り出す。


「何だこの紙? えーっと……ひゃくまんえん!?」


 バーのマスターが、皮のキャッシュトレイを持ってやってくる。


「では、お支払いの方を」

 と、マスターは不気味な笑みを浮かべながら言った。


「いやいや! そんなの大学生が持ってるわけ……」


「だが坊主、お前は実際に飲み食いしたんだ。そこのテーブルを見ろ」


 と、スキンヘッドの男は、Kが飲んでいた席を指差す。


 ようやく全てを理解し、恐怖のあまり、失禁するK。


「ゲロまみれの坊主が、今度は小便小僧か! ガハハハ! これは傑作だ! あとで自分で、責任持って片付けな」


「お願いだ! 掃除でも何でもする! 命だけは取らないでくれ! 頼むよ!」


 今度は涙で顔がぐしゃぐしゃになるK。


「命は取らんよ。俺たちもそこまで鬼じゃねぇ。なぁ、マスター?」


「えぇ、その通りです。お代さえしっかりお支払いいただければ、ね」


「そんなの払えないてってぇ! 俺はごく平凡な大学生なんだよ!」


「いやぁ、払ってもらわないとこっちも困るぜ。監視カメラに動画と音声の証拠だって残ってるぞ? 警察もきっと、こっちの味方だぞ?」


「そんなのどうせ警察もグルだろうよ!」


「おいおい、決めつけで警察様をグル呼ばわりしちゃあいけないぜ、俺たちの、ダチの警察様をよぉ」


 と、スキンヘッドの男は、マスターに示し合わせる。


「おっしゃる通りぃ!」


 と、マスター。


「「アハハハハハハハ!!」」


「どうしたら……許してくれるんだ?」


 もう流す涙も枯れそうなK。


「だから、払えば済むと何回言ったら……」


 スキンヘッドの男が腕を振り上げ、再び実力行使に出ようとする。


「ちょっとお待ちを」


 マスターがそれを制止する。


「えっ? 助けてくれる……」


「シィーッ!」


 と、マスターは間髪を容れずにKを黙らせる。


「大学生ですよね? ご実家は?」


 マスターは、尋問を始める。


「なんで実家の話になるんだ? 関係ないだろう?」


「大アリです。ご実家は、一軒家ですか?」


「そうだけど……」


「所在地は?」


「代官山……」


「ご両親のお仕事は?」


「母さんは専業主婦だけど」


「お父様は?」


「大企業の……偉い人」


 スキンヘッドの男とマスターは、同時に悪い笑みを浮かべ、顔を見合わせる。


「偉い人とは? 課長? 室長? 部長? 執行役員? 常務? 専務? それとも社長?」


 マスターは立て続けに質問する。


 が、Kは首を横に振る。


 なんだ、と悔しそうな顔をする二人の悪人。


「あまり期待してませんが……具体的なお立場はわかりますか?」


 マスターは、一応そう尋ねる。


「……詳しく知らないけど、CEOってやつ」


 二人は再度ニヤニヤし始める。


 そして、特に会話もせず、ただ黙って、全身汚物まみれの坊主を抱えて、どこかへ消えていった。

 

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Me at the aquarium 加賀倉 創作(かがくら そうさく) @sousakukagakura

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