第2話:悪魔アスタロト。

「アスタロト?・・・呪文に書かれてあった名前?の人?」

「悪魔さんなのね」


「人間が呪文を唱えるなんて何百年ぶりの出来事だよ」

「長い歴史の中で呪文もこの世から消え去っているものと思ってたがな」


「この本の裏表紙に書かれてあったんです・・・」


「なるほどアルダリウスの書か・・・そんな骨董品よく持ってたな」

「焼失したと聞いたが・・・」


「私のおじいさんが、持ってたものです・・」


「おまえのじいさん、侮れない人間だったようだな」


「まあ俺も呼ばれた以上、無視はできないからな・・・」

「地獄になんかいたら悪魔だって腐っちまう・・・人間界のほうがよっぽど

ましだ」

「だから、俺を呼び出してくれて感謝してるよ、お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃん・・・名前は?」


真真まま


「じゃ〜真真・・・俺を自由にしてくれたお礼に・・・」


「もしかして私を食べるの?」


「人間なんか食うかよ・・・」

「俺に対してどういうイメージ持ってんだ?」


「でも、あなたアスタロト?って悪魔でしょ・・・堕天使なんですよね」

「悪魔ってとっても怖い存在だってどの書物にも載ってますよ」


「まあ、昔は俺だって天使って呼ばれてたこともあったけどな・・・

神に逆らったのは事実だし・・・悪魔ってのも本当だ・・・今思えば魔が

差したんだろう・・・」

「天使の3分の2はが堕天使になったからな・・・今じゃ天使より悪魔の

数の方が多いぜ」


「だが恐れることはない真真」


「あの、悪魔さんって日の光に弱いんでしょ?」


「いちいち話の腰を折るな、おまえ」

「日の光に弱いって、それ誰からの情報だよ・・・俺は日中でも行動はできる。

日の光に弱いなどそんなことは間違った情報だ」

「昼間でもおまえと散歩にだって付き合えるぞ」


「だからアルダリウスの書に書かれた呪文によって俺を呼び出した者、つまり

おまえと俺はこれから終生をともにする」


「俺はおまえだけのために尽くす・・・」

「決して誰も真真に害を加えることはできない」


「今後、おまえに降りかかるだろう危機や災難は俺が全力で防ぐ、俺の命に

代えて真真を守る・・・」


そして悪魔アスタロトは自由にしてくれたお礼だと言って真真に薬をくれた。


その薬を飲んだ時から、真真は魔魔となり20歳から歳を取らなくなくなった。

そして戦時中、戦いに巻きこまれた魔魔一家を守ったのがアスタロト。


いつしか魔魔はアスタロトに恋心を抱いた。


その後、戦争が終わって世の中に平和が訪れるとアスタロトは自由を求めて

どこへともなく旅立って行った。


アスタロスがいなくなって何年経ったのか?

実は魔魔さんの古民家には一人の死神が住み着いている。

本当なら魔魔さんは、とっくに寿命が来てるはずだから、死神が魂を

取りに来たんだが、魔魔さんが死なないから、魂を持って帰ることができずに

いる。


「あなたの寿命が尽きるまで、このカフェで待たせてもらってもよろしいで

しょうか?」

「置いていただけたら、なんでもしますから・・・魔魔さんの、お世話させて

いただきます」

そう言って古民家に住み着いてしまった・・でヒマなので、今は店の中で

バーテンダーなんかやっている。


死神ってやつは骸骨に黒いフードを被って、デカい釜なんか持ってるってイメージ

だけど、こいつは、どっかの金持ちの執事みたいな格好をしていて大きめの

蝶ネクタイがやたら目立っていた。

髪は真ん中でスケベ分けにしてある・・・若い時のタモリさんみたいだった。


「ここでヒマしてないで、他の人もところに魂でも貰いにいけば?」


「管轄外です、人のテリトリー犯すとルール違反になりますから」


「いく待っても私の魂は持ってはいけませんよ」


魔魔さんの寿命は20歳のままつきることはないから、持ってはいけない。

は献身的な死神はいつのまにか魔魔さんに支えて、もやは本物の執事と

化していた。


魔魔さんは、自由を求めて旅立った悪魔アスタロトが帰って来るのを今でも

待っている。


好奇心と興味でアルダリウスの書の封印を解いた少女。

少女の頃はアウタロトがいてくれたおかげで生き永らえてこれたとも言える。

悪魔と人間、信頼と愛情によって結ばれた稀有な関係。


人間の長い歴史の中で今も悪魔と生きたのはおそらく魔魔さんだけだろう。

今の魔魔さんはカフェに来るお客さんに親しまれ、平和な毎日を送っている。


カフェには今朝から、近所の広告代理店の社員「西岡 達郎にしおか たつろう」が仕事をサボってコーヒーを飲みに来ていた。

コーヒーを飲みに来たのもそうだが、彼の目当てはもちろん魔魔さん。


可愛くて愛想のいい魔魔さんは、若いお客からも引っ張りだこだった。


だけど魔魔さんは誰のものでもない。


今日も古民家カフェ「マグノリア」には商店街の画廊のおやじや、写真屋のおやじ、その他店のおやじどもが入れ替わり立ち代わりカフェにやって来て賑わっていた。


おしまい。



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魔魔さんは誰のものでもない。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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