第19話 今度いっしょに見に行こうよ

「ん~~~~~~~~っ!」


 ハンバーガーを一口食べたかがみは、体を震わせて顔を輝かせて言った。


「おいしいっ! こんなにおいしいものがあったなんて!」


 教えてくれてありがとう七海ちゃん! とお礼まで言ってくる。



 帰りに買い食いをしたことがないというかがみを連れて、私はファーストフード店に来ていた。


 放課後のいまは、私たちとおなじ学校帰りの学生が結構いる。


 買い食いが初体験なかがみは、ファーストフード店に来るのも初めてらしい。



「うん。まあ、喜んでもらえたならよかったよ」


 と言ってポテトを一口。


 うーん、このホクホクしたんじゃなくて、塩! 油! って感じの味。たまに食べたくなるんだよね。



「七海ちゃんはこういうところよく来るの?」


「うん、割とね。石田たちと来るよ」


 気軽に入れるし、ちょっと騒がしくなっても問題ないし。


「私は初めてだから、注文するときドキドキしちゃったわ」


 そういえば、メニュー見てたときも目を輝かせてたっけ。こういうとこかわいいよな。クラスでの印象とは、まるで真逆だ。



「ほかにはどういうところ行くの?」


「うーん、ゲーセンとか、映画館とかかなー。かがみは?」


「げーせん? はよく分からないけれど……映画はよく見るわ」


「そうなの? じゃあ、今度いっしょに見に行こうよ」


 何気なく、軽い気持ちでそう言ってみると、



「本当っ!? 行きましょう!」


 身を乗り出して、手をギュッと握られた。かがみって、手を握る癖あるのかな。


「お、おう。なに見に行く?」


 ちょっと引き気味になりつつ、私はスマホをかがみにも見えやすいように置く。


 操作して話題の映画なんかを調べていった。




 日曜日。私は駅前で七海ちゃんを待っていた。


 服は……大丈夫よね。ちゃんとオシャレできてるかしら。美容院にも行ったし、準備はバッチリ。


 でも、私の心臓はドキドキいっていた。


 それは七海ちゃんといっしょにお出かけするからというだけじゃない。


 これから見に行く映画が、ホラー映画だからだ。



 だ、大丈夫かしら。私、ホラー映画大の苦手なのよね。


 でも七海ちゃんは乗り気だったし。言い出せなかったのよね……



「お待たせかがみ!」


「ぅひゃんっ!?」


 突然話しかけられた私は、その場で飛び上がってしまった。



「ど、どしたん?」


 振り向くと、驚いた様子の七海ちゃんがいた。


「なんでもないわ。ちょっとビックリしちゃって……」


 はー、と息を吐いて気分を落ち着かせる。


 せっかく七海ちゃんとお出かけするんだから、しっかりしなきゃ!



 コホンと咳払いして、


「こんにちわ七海ちゃん。そのお洋服、とっても素敵ね」


「あ、ありがと。かがみもいい感じだよ、うん……」


 七海ちゃんは頬を赤く染めながら言った。




「あれ? なんか人すくなくない……?」


 ポツリと七海ちゃんが言った。


 たしかに、映画館には思ったよりも人がすくない。上映期間が終りかけってわけでもないのに。


 話題作なのに人がすくない。それって……



「たまたまよ、きっと!」


「うんうん、だよね!」


 深くは考えないようにしましょう。それよりも、あんまり怖くないといいな。


 そんなことを考えていたら、フッと電気が消えた。そろそろ始まるみたい。



 私の願いは儚く消えてしまった。


 きゃっ!? ヒィイイイイイイイイッ!? び、ビックリしたビックリした! んひゃあっ!?


 怖い! すっごく怖いわ!


 口を押え、声を上げそうになるのを必死に我慢する。うぅっ、やっぱり苦手だわ。



 七海ちゃんは大丈夫かしら? 隣を見たいけど……ムリだわ。


 もし……もし七海ちゃんの首から上がなくなってたら!? もし顔がゾンビみたいになってたら!?


 うぅっ、怖いぃいいいい……全然内容が頭に入ってこないわ。


 私は泣きそうになりながら、無意識のうちに……




 なんだ、普通に面白いじゃん。映画を見つつ、私は内心安堵していた。


 人全然いないからアレかもと思ってたけど。よかった。まあ、つまんなくてもそれはそれで話のネタになるけども。


 でも、私的にはあんまり怖くないかも……っ!?



 な、なに!? なんか、手に温かい感触が……まさかお化け!?


 ホラー映画なんて見てるから変なのに憑かれた!?


 恐る恐る目をむけると……いた。


 かがみが。


 かがみが、私の手を握っていた。



 なんだ、そういうことだったんだ。あー、ビックリした。


 そっかそっか……


 ……………………


 手ぇーーーーーーーーーーーーーっ!?



 な、なんで!? なんでかがみが私の手をにぎ……握って!?


 いや、何度か手を繋いだことはあるけど……どうーしていきなりっ!?


 やわらかくて温かくて……ていうか、映画館で手を繋ぐって、なんか恋人っぽくない!?



 ああ、ヤバい。全然内容が頭に入ってこない……




 上映後。


「あー、面白かったね」


 ウソです。全然内容覚えていません。


 とはいえ、それを言うわけにもいかない。映画に誘ったのは私なのに。


 このあとどうしようかな。正直に言おうか、それとも適当に話し合わせようかな……



「ごめんなさいっ!」


 突然、かがみはバッと私に頭を下げた。


「じつはね、私ホラー映画苦手なの。だから怖くて、全然内容も覚えてなくて……」


「え、そうだったの? 言ってくれればよかったのに」


「だって、せっかく七海ちゃんが誘ってくれたんだもの。うれしくて」


 うっ。そういうこと言うのズルいって。



「じつはね」


 私は照れを誤魔化すように言う。


「私も内容覚えてないの」


「え? 七海ちゃんもホラー苦手なの?」


「そうじゃなくて、その……緊張しちゃったの。かがみに、手、握られて」



 私たちは顔を見合わせて……すこし笑ってしまった。


 せっかく映画見に来たのに、二人して内容覚えてないなんて。なにしに来たんだろう、私たち。



「七海ちゃん、ハンバーガー食べに行かない? またいっしょに行きたいわ」


「ん。じゃ行こっか」


 予想外の結果になっちゃったけど……



 またいっしょに、映画も見に行けたらいいな。

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