第2話 俺と黒い影
「なぁつがすーぎぃ、ふんふんふんふふーん」
誰の憧れに彷徨う。まだ全然春なのだが。
そんなことよりも背中かびちょびちょだ。
春休みはずっと家に引きこもっていたので、体が思い出したように仕事をし出した。
道中信号に引っかかりスマホを見た時の27度の表示に度肝を抜いた。まだ4月なのに。
だが帝国領の夏はこれプラス10度に湿度マシマシ。
日本のデスバレーここにありと、確かあいつが地理で習った覚えたての知識を堂々と掲げていたっけ。デスバレーはもっとカラッとしているが。
半透明の自動車が日に茹りながら次々と横を通り過ぎていく。
自宅に行くにつれて情景は簡素なものへと変換され、道行く人も車もいなくなりアスファルトタイヤを切りつけながらする音だけが耳に響いていた。
横切るかぼちゃ電車も誰かが塗り忘れたみたいに白黒だ。
「......ん、あれは」
――そんな世界を平然と歩いていく一つの人影が斜面を登り切ったところに見えた。
俺にとっては不自然なこの風景も、それ以外にとっては至って普通のことなのだろう。
くたびれた背中が近づいてくる。
「おーい、ゴミ島~」
愛自転車のベルをチリンチリンと鳴らすと、通っていた高校を中退して選ばれしエリートのみが入れるわが校の通信制に入ってきやがった自称鬼才――『桐島
奇しくも俺と同じ下の名前だ。
「......何だお前、暇か」
「一人で帰ってりゃ誰だって暇だろ」
どこかすかした野郎だ。おまけにこいつは顔ありのネームド。
俺が放棄しても消えないし、こいつをどうにかしようとしても編集できない
「それでどうですか?通信制というものは」
「ん?最高だが」
桐島が突然カラオケで「ハイハイハイ!重大発表がありま~す!俺は、今年の四月で学校を辞めます!これは、ガチですっ!」と、徹夜明けのおかしな頭でそう言ったときは大爆笑したっけ。まさか本当にガチだったとは。
さすが鬼才、平凡な俺には到底辿り着くことのできない領域にいるのだろう。
「最高か。よかったな」
「ああ。これから毎日あの市立図書館に通える」
俺らが通う帝国立ハイケープ・ハイスクールは市役所とぶっとい川を越えた先にあり、その近くに最近新しくできた図書館があるのだ。だが俺らの自宅からは少し遠くなかなか行こうという気にはならないが、通学の途中で寄れる場所なので桐島にとっては丁度いいのだろう。
「にしてもお前、チャリは?」
クズ島がいつも乗っていた相棒のボロいママチャリの姿が見えなかった。
「ん?俺の『ステファニー号』ならパンクと脱輪して修理に出してるから、歩いていった」
「......頭おかしいんか?」
図書館まで歩いて一時間以上はかかる距離を平然と往復しているとは、さすが鬼才。だが花粉がつらそうに時折鼻をすすっていた。
「まぁ、俺は行くわ。んじゃ、バイバ~イ」
「バ~イバ~イ」
気色の悪い声音で別れの言葉を互いに言い合ってペダルを踏みこんだ。坂を下ると真下を流れるドブ川の生臭くも懐かしい臭いが鼻の奥をくすぐった。
ボタンをすべて外した学ランが一身に風を受けてスーパーマントになった。
自宅まであとちょっと。
変速したら脱輪する我が愛自転車のギアを5にしたまま無心で足を動かした。
――――――
「ただいま~」
自宅に帰るも返事なし。
両親共働き、妹部活、俺暇人、ペットなし。
家の中は外とは違ってひんやりとした心地よい空気を朝から俺のために蓄えてくれていた。
「......」
――そんな現実上では誰もいない家にも、俺の帰りを暖かい眼差しで迎えてくれた存在がいた。
静かな場所に、黒い影が廊下の角で俺を見ていた。だが目を合わせるとそれは音もなく消えていってしまった。
「......今からシャワー浴びるから覗くなよ」
消えた存在に声を掛けたが返事はなかった。
それに、あれに覗くなと言ったところで無駄だろう。そもそもあれは、人ではないのだから。
そんなことは置いといて、弁当を食洗器に入れて、即刻パン一になって、制服を丁寧に掛けて、すっぽんぽんで風呂場へGO。やっとの思いで気持ちの悪い感覚を洗い流した。
外が明るいときに浴びるシャワーというのはこう、どこかノスタルジック?なものだ。
偉大な哲学者や詩人もこんな気持ちで作品を書いている自分に酔いしれていたのだろう。
そんなこんなで髪を乾かし部屋着に着替えて二階へと上がる。
もう少しで前髪で片目を隠せそうだ。そうすればかの怪異譚のお兄さんや生徒会会計役のようなどこかひねくれた感じの男の雰囲気を醸し出せる。まぁ、俺は片側をかき上げるようにしてるからもう少し真人間に見えるが。
夜中こっそり上り下りできないほどの音を軋ませる階段を荷物と共に上って自室を目指す。
俺を待つ存在は催促しているのか気を利かせているのかわからないが、俺が扉に手を掛ける前に静かに扉を開けた。普通の人間からしてみればだいぶホラーだろう。
半開きの扉を押しのけて中へと踏み入れると、一階とは違って日の光に温められた生ぬるい空気が俺をお出迎えした。――だけでなく、真っ黒な影が俺のゲーミングチェアをリクライニングして待っていた。
暗くてよく見えないので明かりを点ける。
「うわっ、眩しっ」
「はぁ。暗いところで画面を見ていると、目が悪くなるぞ。――黒影ちゃん」
俺のパソコンを勝手に使っていた人ならざる存在、通称『黒影ちゃん』は暗い部屋でモニターの明るさを最低にして異世界アニメを見ていた。
文字通りの黒い影で、存在は真っ黒な何かとして視認できるが、人間と同じように見えるのはぐるぐると渦巻いた奇妙な瞳と大きな口元だけ。だが形は人間の少女と何ら変わりないものだ。
耳があるらしき場所に俺のヘッドフォンをわが物のように掛けていた。
「ククク、ひぃくんの冗談が好きなこと。ワタシは人間じゃないのに」
そう言って黒影ちゃんは動画を止めヘッドフォンを首に掛けてくるりと俺の方を向いた。――バコーン、と倒していた背もたれがデスクの上のエナドリにぶつかった。
「「あぁーっ!?」」
見事なフルスイングを見せた背もたれはエナドリを部屋の端から端へと吹き飛ばし、場外俺のベッドの上へと着弾。
徐々にシーツはエナドリ特有の匂いと金色を染み込ませていった。
「......えーと、ごめん」
表情は見えないが、視線を逸らせながら申し訳なさそうに口を開いていた。
「はぁ。......てか、エナドリを俺の部屋で飲むなと言ったよな!飲むならベランダで飲め!俺、この匂いあんま好きじゃねぇんだよ!そんなものが俺のっ......いずれ彼女ができた時に一緒に寝るはずのセミダブルのベッドに染み込んだァ!?冗談じゃない!弁償だ弁償!!」
興奮のあまり心の中の声が一斉掃射。
普段の俺らしからぬ行動はこの部屋の中だけだ。
「......ごめんてばぁ。お詫びと誠意はこれで......。ひぃくんこういうシチュ好きでしょ?」
ぽとりと、立ち上がった黒影ちゃんは着ていたであろう服らしきものをそう言って脱いでみせたが俺にはただの代り映えのない黒いシルエットにしか見えなかった。
なんのありがたみもない、ただの真っ黒な塊だ。
「いつから俺は他者に謝罪として脱衣を強要させる変態畜生に?てかそもそもお前は人間じゃねぇだろ。俺は人外が好きな特殊性癖なんかはもってねぇ......ねぇんだがよ、おい、それは別だ」
「やっぱひぃくんはこっちの方が好みだったかぁ。クク、実はワタシ、ぜーんぶわかってるから」
黒影ちゃんの頭頂部にはシルエットだけでもわかる金持ちが持っていそうなふわふわした猫の耳と、現実上ではありえないほどふわりとしたクッションのような尻尾が生えていた。
今すぐ俺を解き放てと、理性が訴えかけてきた。
「くっ!だが俺は屈しない!てかお前、いつからそのことを知っていた?俺は黒影ちゃんと出会って数年経つけど、一度たりともその素振りを見せたことはないぞ?」
そうだ。俺は今まで表向きには成績優秀品行方正運動神経抜群のエリートとして生きてきた。それは黒影ちゃんの前でも同じだ。
そんな俺の完璧な立ち回りのどこに穴があったのだ?
「――だってひぃくんのいいね欄、ほとんどがこんな感じのイラストばっかりだったんだもん。それにしても、あそこまで露骨なのは意外だったなぁ。ククク」
黒影ちゃんがスクロールする画面に映るもの、それは墓場まで持って行くはずだった俺の秘蔵の画像集だった。
「......」
――享年十六。古谷秀樹は自身の癖が人外にバレたとして、自身に絞首刑を命じた。執行役として古谷秀樹が担当。刑はつつがなく執り行われる――ことにはならず、古谷秀樹はエナドリが染みついたベッドの上で力なく倒れこんだため、刑は保留となった。
「......染み込んだエナドリと共に染み込みたい」
「あぁ、どう考えてもワタシのせいでひぃくんが。ほら、これで元気出して」
――もふっ。さわさわと、俺の頭をベッドに上がった黒影ちゃんの尻尾が撫でていた。
影であるため温かみはなかったが、少しだけ心が無理やり温められているような気がした。
「そういえば、黒影ちゃんの分身体が俺のところまで来ていたぞ。そんなに俺に会いたかったのか?」
ベッドに顔を突っ込んだままそう尋ねた。
「ん?だって久しぶりに世界が書き換わるのと思ったらワクワクしちゃってね。クク、でもまさか浪川ちゃんと別れるときに早速使っただなんて」
そう言って黒影ちゃんはエナドリの染み込んだベッドの上に転がり込んだ。影には現実世界がどんな状態であろうと関係ない。何故なら影だから。
「あれは......。まだ、浪川には気づいてほしくないんだ」
「浪川ちゃんは気づいていたけど?ククク」
俺は一度、世界の構想を練るのをを止めた。
止めた時点で俺の考えが及ばない要素は次第に概念や実体が変化していき、その結果、顔無き顔や不自然な現実が蔓延することになった。――だが、それでも存在を誇示する者たちがいた。
――それが文脈異常。俺らは彼らのような存在を、――『
彼らは俺が創造を放棄した世界でもその存在を強く保ち、また、俺と同様に世界を書き替える能力を有している。
だがそのことに気づいている者は誰一人としていない。いないはずだったが、浪川だけは例外だった。
――あいつだけ、俺にも迫る改変能力を有していた。
理由はわからないが、浪川はこの世界という物語のメインヒロインだった。
だが所詮、浪川も俺が創った世界の登場人物の一人にすぎない。俺の野望を妨げる行為をするようであれば、容赦なく改変を施すまでだ。
「まぁ、あれだ。俺は決めたんだ。
物語の結末を見届ける。そう表現するのも悪くないだろう。
それには何年かかるかもわからないし、結末すらないまま終わるかもしれない。だが、俺は人を知るために必要なこととしてこの計画を突き進める予定だ。
「まぁ、ひぃくんがそう決めた時は驚いたよ。クク、まぁ、アタシも何だかんだ楽しみなんだ」
「だろ?俺はこのことを考え着いた時に自分のことを天才過ぎるだろって思ったさ」
既にベッドに染み込んだエナドリは消えていた。
この世界で起きることは全て俺が書き止めた時点から勝手に進行していった成れの果て。それを書き換えるのはおちゃのこさいさい。息をするように考えるだけでできる。
ベッドから勢いよく起き上がってパソコンの前へと向かっていった。
「そんじゃ俺はこれからあいつとゲームするから、黒影ちゃんはテキトーにふらついてきな」
「まぁ、これ以上のことは今日の時点で起きないだろうし、ワタシはゆっくり寝るよ」
そう言って影無き影は俺の影の中へと入り込もうとした。
「――おい、誰の許可で俺の中に入り込もうとしてるんだ」
俺は俺の影を削除した。
「ちえっ、やっぱりひぃくんは用心深いこと。クク、でも、それが正解だよ」
こんな現実ではありえないことを平然とやってのける俺でさえ、この黒い影の正体はわからないまま。
わかっていることは、
だが自身に世界を改変する能力はないらしく、かと言って俺の能力では存在を編集することができない、極めて不可解な存在だ。
その正体は、この世界の俺以外の観測者なのか、この世界の存在を脅かす悪魔なのか、現状俺の計画の邪魔はしてこないのでほったらかしにしている。
「いつか悪さでもしたら消すからな」
「ククク、できもしないことをキリッって恰好つけながら言っちゃうひぃくん可愛い」
そう言って黒影ちゃんはベッドの下の影へと吸い込まれるように消えていった。
本当に、俺からしてみれば不気味すぎる存在だ。
不思議と、あの影に勝てる気はしないのだ。多分俺なんかよりも遥かに上位の存在だ。
過度に敵対視しないで興味を満たすようにしていれば危害を加えてくることはないだろうが、いずれ手を打たなかったことに後悔するときが来るかもしれない。
でも、それもそれでいいと思っている。それも、この俺の物語の一つの結末だ。自分が手に負えない超存在を前にしてどう立ち向かうか、王道的でいい物語じゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので。
「――さて、浪川はどっちを選ぶかな」
今回のメインヒロインは『浪川来藍』。
俺との二人きりの漫研生活を選ぶか、橘を加えた三人での賑やかな方を選ぶか、場合によっては更に人数が増えたりすることもありそうだ。
俺はそんなことを考えながら肘掛けにある赤いヘッドフォンを耳に掛け通話開始ボタンをクリックした。
すると相手側はたった数秒のワンコールで通話を始めた。
「はやっ、どんだけ暇なんだよ」
そう言って俺は年下の可愛い後輩と銃声の絶えない殺伐とした世界へと飛び込んでいった。
――――――
誰がこんな時間に登校するんだと言いたくなるほど早い時間に、俺は筋肉痛に耐えながら油切れの『シューティング・スター号』を一人走らせ学校へと向かっていた。
休日というのはどうしてこうもあっという間に終わってしまうのだろうか。心当たりはあった、有佐だ。
俺は基本的に一人に焦点を当てて世界の成り行きを見届けようと考えているが、対象の
その結果、俺は自転車で当てもなく朝から晩までサイクリングロードを突き進むこととなった。
体力お化けというのは、有佐のことを指すのだろう。
見た目だけではどこかのファンタジーに出てきそうな貴族令嬢のようなのに、その実未知の領域をを物理的に探求することに目がない変わり者だ。
特にすることもなく、暇が大嫌いな俺は渋々了承して土曜日が終わった。
そして日曜日。この日は久々にこれまでの出来事を振り返ってそれらを文章として纏めた。
最近のクラウドサービスは便利なもので、アカウントにログインすれば別端末からでも文の続きを書くことができる。
いくら都合よく世界を改変できる俺とはいえ、文面はいちいち覚えていられないのでこの機能は本当にありがたい。いい時代になったものだ、俺が創ったのだが。
「――ん、早速か」
意思を感じた。
必然的に、俺はどうしようもなくアイスが食べたくなってきた。
引き寄せられるまま、俺は学校近くのコンビニへと寄り道していく。
「――いらっしゃっせー」
気だるげな店員の暖かなお出迎えと共に、アイスコーナーへと吸い込まれるように突き進んでいく。――するとそこに、どのアイスを食べようかと迷っているふりをしている改稿者がいた。
「ん、浪川じゃん」
「おっ、古谷だ」
俺の声に気づくと、この世で最も尊いとされている存在の肩書を持つ女生徒、浪川が白々しくも返事をした。
「にしても、朝早くからアイスってどうなんだ?」
「古谷はわかってないね。美味しいものはいつ食べたって美味しいんだよ」
わかっていなかったのは俺の方だったらしい。どうやら俺はそんな理由で朝早くからアイスが食べたくなったらしい。
浪川の改稿能力で朝食にアイスが出てくるのが当たり前な世界にならなければいいのだが。
「まぁ、俺はこの一番安いアイスバーでいいや」
「おっ、わかってるじゃん。私これのイチゴ味にしようかなって思ってた」
今度の俺はわかっていたらしい。よかった、見栄を張って高級カップアイスを選ばなくて。
「じゃあ決まりだ」
そう言って二人アイスをつまみ上げるとセルフレジへと向かっていった。
最近になるとキャッシュレスだけでなく店員すら不在で買い物ができるようになっていた。
俺が途中までしか書いてない世界も、俺の知らないところでちゃんと進展を遂げていた。
思わず口にしたくなる決済の完了音を二度聞いてコンビニを後にする。二人外に並んでアイスを口にした。
「はぁ、今日から学校かぁ」
「春休みが恋しいな。ん、染みる」
知覚過敏の俺にとって、少し肌寒い曇りの朝に食べるアイスはなかなかしみじみとした乙なものだった。
隣に美少女、口にアイス。あとは帽子と葉巻があれば完璧な詩が詠めそうだ。
そんな何気ない静かな朝が、ゆっくりと過ぎていく。
「古谷、当たった?」
浪川は既にアイスをぺろりと食べ終えていた。
「食べた直後のアイス棒を渡されても店員困るだろ」
「えっ、トイレで洗うに決まってるじゃん。それよりどう?」
催促されるまま残りのアイスを棒から一気にむしり取った。そこに書かれていたのは――
「――はずれ、だ」
「ありゃりゃ、私と一緒だ。へへ」
もし仮に当たったとしてもそもそもここで交換できるのか、そしてもう一本は体が冷えて仕方ないので遠慮しておきたい。
浪川が当たりの棒が出るように仕向けなくてよかった。
そのまま二人外れくじを燃えるゴミへと投げ入れて、自転車に鍵を差し込んだ。
「ひまりちゃん、来てくれるかな」
「さぁね、どうだろうか」
それを決めるのは浪川自身であるのに。いや、もしかしたら浪川は展開を改稿することなく事の成り行きに任せるかもしれない。
今のところ、アイスのこと以外浪川が世界に干渉してきた感覚がない。
「そうだ、部室の鍵を貸してくれないか?皆が来るまでそこで寝てたい」
「ちょっと待って。――はい」
学校前の難所、中々渡れない横断歩道の洗礼を受ける俺らはその場で鍵の授受を済ませた。
鍵には以前ではついていなかったシロイルカの小さな人形が取り付けられていた。
「......これ、いつか真っ黒になりそうだな」
「私、古谷がモテないのってそういうところがあるからだと思う」
こればかりはこう言った俺が悪い。でもありがたい言葉ありがとうございます。デイリーノルマはこれにて完了です。
「ま、これが汚れることはないか」
「......ん?」
浪川なら無自覚の内にこういった細々としたものに能力を使うことだろう。
変化を急激に行わなかった改稿に関しては俺は気づけない。
もしかしたら、知らず知らずのうちにこの世界がどこかの
難所を抜け、俺たちは校門近くの駐輪スペースを一番乗りで占拠した。
「浪川はこのあと部室に?」
「いや、私は教室に行くよ」
浪川が誰もいないほど早い時間に登校している理由がよくわからなかった。
だが、何か思うことがあるのなら俺はそれを見守るまでだ。
俺はあくまでも浪川という主人公が創り出す物語の登場人物に過ぎない存在。過度に自分の意思を反映させてはいけない。
「そんじゃ、またホームルームで」
「ん、じゃあ」
浪川から受け取った鍵をくるりと回して俺は別館にある漫画研究部の部室へと向かっていった。
その途中、黒い影が俺の到着を待つように誰もいない部屋の窓からこちらを覗いていた。
相変わらず、ホラーチックなことはやめてほしいものだ。
瞬きをすると黒影ちゃんは消えていた。
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