だい 11 話 - ポンポの町

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 まんまと女王を幻の推理ゲームによって出し抜いたスエキチ。

 アカシとサクイの二人は、本物のスエキチに導かれ、延々と続く坑道を歩いています。

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「どうじゃ。吾輩の化術にかかれば、追手を撒くなどお茶の子さいさいなのだ」と、お腹をひと叩き。

 スエキチは女王に「ルールを破れば災いが降りかかる」などとハッタリをかましてゲームに持ち込み、さらに霧でアカシとサクイの姿をくらませることで、逃げる時間を鮮やかに稼いでみせたのです。

 当の逃がしてもらった本人たちは、長々と続く坑道のほうが気にかかっているようでした。

「ここはどこにつながってるんだ? 」

「暗いよぉ怖いよぉ痛いよぉ」

「いいから。黙ってついてこんかい」

 追手を警戒して消灯しているため、夜目が効くサクイやスエキチと違い、アカシは岩肌剥き出しの壁や低い天井に難儀しています。

「教えてくれたってバチはあたんないだろ」

「そうよそうよ」

 ニャーニャーわーわーと不平を垂れる二人に根負けして、スエキチは渋々目的地を告げます。

「この先に、本当のポンポの町がある」

「ってことは、さっきの町は偽物なの? 」

「あれはかつての町の幻じゃ。本当の町が別にあることを隠すためのな。女王の軍勢は我々を完全に滅ぼしたと思いこんどるが、その実は違うのよ」

「あんな大規模な幻をずっと維持してるの? 」

「それすごいのか? 」

「凄いなんてもんじゃないよ。とんでもない技術と精神力がないと無理だ」

「へぇ」

「おい猫。もう少し驚いてみせんか。吾輩が言うのもなんじゃが、そのニンゲンの言う通り凄いことじゃぞ。女王からも助けてやったのに」

「なぁスエキチ。ワヘイって知ってるか? 」

「んぉ……無視ときたか。しかも呼び捨てとは厚かましい。そもそも、ワヘイというのは何者じゃ? タヌキか? いずれにせよ知らん」

「呼びすてでいいだろ? そんなに小さいんだし」

「お前の世界では体格で立場が決まるんかえ? 」

 今のスエキチは、化術を解いてサクイと同じくらいの大きさでした。

「だからよろしく。スエキチ」

 権威や地位に理解がないサクイにしてみれば、ワヘイと話すのとなんら変わらないようです。

「よ、呼び捨てなんぞ何百年ぶりかの。逆に許せてくるわい」

 アカシも出し抜けに質問します。

「なんで大きく化けてたの? さっきさ、二メートル近くあったじゃん」

「ふん。外道の輩に正体を明かすつもりはない。この術があるのに吾輩自ら動く必要もない。基本は、幻の吾輩に活動させておる。なんせ実体がある幻じゃからの」

「なるほど。本当に凄い魔法だよね」

「魔法ではない。化術じゃ。二度と間違えるでない」

 ぷんすかしたスエキチは、アカシの肩に跳び乗ると、それから町に着くまで自分で歩こうとしませんでした。

 途中からはサクイも肩に乗り、アカシは結局、両肩に二匹の動物を乗せて移動することになったのです。

「あぁ、たまらん」

 そうしきりに呟くアカシは気味の悪いものでしたが、二匹は歩きたくない思いが勝り、ほうっておくことにしました。

 しばらく歩くと、サクイのお腹がきゅるると鳴ります。

「オレおなかがすいたよ」

 サクイは「そういえば」と、地上の町の堀に川が流れていたことを思い出します。あそこにはどんな魚が泳いでいるんだろうかと、サクイは口元をゆるめ妄想したりました。そうすると心なしか、肉を焼くような良い香りもしてきた気がします。 

「えへへ、にく、さかな、えへへ」

「何を笑うとるんじゃ。こやつは」

「きっと町のご飯が楽しみなんだよ。おいしい料理がいーっぱいあるといいね」

 アカシも期待に胸を膨らませます。


 *


 遂に到着しました。アカシの頭には、天井の隆起にぶつけた無数のたんこぶができています。

 スエキチはふんすと鼻を鳴らし、腹をぽんぽこ叩いて自慢げに言い放ちました。

「見よ。これが真のポンポの町。れすとらんも酒場もある。ここでしばらく休息をとるがよい」

 そこはまるで、アリの巣のスケールを大きくしたような地下空間。

 空間には、棚田のように段差があり、段ごとに建物が軒を連ねています。建物の屋根から屋根へとロープが渡され、それに赤い提灯が吊るされていることで、全体が優しい明るさに満ちていました。

 天井から浸潤した水は、ため池めがけて滴るようになっています。池は、蛍でも棲めそうな澄んだ水で満たされていて、四方には支流があり、別の場所の水も集まってくるようになっていました。きっと、ここから生活の水を確保するのでしょう。

 それに加えて。

「凄い音。お祭り? 」

「タイコとか、あとはフエ?」

「これは我らの日常よ。タヌキはどんちゃん騒ぎを好むでな。毎日こうして酒を酌み交わし、仲間とともに踊りあかすのだ」

 どこからか聴こえてきますのは、太鼓や笛、篳篥から、「それそれ」「えんやこら」という掛け声でした。肝心のタヌキこそまだ見当たりませんが、きっと隣り合う所にいるのでしょう。

「とりあえず見物は後にしろ。吾輩の住まいへ案内する。そこで夕食にあずかるとしよう」

 二人は顔を見合わせ、再びスエキチを見ると、口の端から涎を垂らして、同時に叫びました。

「やったぜ!! 」





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 次回へ続きます。

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