だい 9 話 - 吾輩の十八番

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 逃げた先。ポンポの町に再び現れた女王カイハ。

 絶体絶命のアカシとサクイに微笑むのは救済の天使か、それとも破滅の悪魔か。


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「手下のハトたちはどうしたの。なに? 一人ぼっち? 」

「お馬鹿さん。この世界の破壊も既に始まってるの。アナタをここに止めるのと並行して、連中には他の種族を滅ぼしてもらっているわ。特に龍族とエルフは抵抗が激しいみたいね」

「そっちにもタイムリミットがあるってわけね。ずいぶん急いでるみたいじゃない」

 アカシの剣呑な表情。眉間に力がこもり、眼光は鋭く女王を刺しています。

「ふふ。そんなもの無いわ。ただアナタを消すより世界を滅ぼす方が早いというだけよ。もっと自信を持って? 」

「チっ。光栄だわ」

 雰囲気が殺伐としてくるにつれ、サクイはそこから逃げ出したい気持ちに駆られます。

「(ワヘイ……オレやっぱむりかも……)」

 思わず女王から目をそらしたサクイは、町の奥に、誰かの影を見つけます。どうやら、影はこちらへ歩いてきているようです。

 アカシもカイハもその気配に気付いたのか、そちらを向きます。

「誰かしら。

「カイハ、今アンタ、なんて――」

「だから、この町はもう滅んでるの。二度も言わせないでくれる? 」

 絶望に息を飲むアカシをよそに、影はとぼとぼと近づいてきます。

「あら。生き残りがいたのかしら」

 背丈が二メートルはあるでしょうか。とても大柄なタヌキです。頭には菅笠をかぶり、緑の羽織をまとって、手にはパイプを燻らせていました。

「どうやら、一杯食わされたようじゃの。娘っ子」

「悔しいけどそうみたいね」

 そのタヌキは風流なため息をつきます。

「どれ。もう一つ化かしてやろうか」

「タヌキっ! にげろっ! 」

 余裕のタヌキとは対照的に、サクイは心配のあまり怒号を飛ばしました。ワヘイの姿が、どうしてもそのタヌキにも重なるのです。

「やかましい子猫じゃのお。案ずるな、やかましい」

 サクイは二度もやかましいと言われ、思わず「むっ! 」と声をあげました。

「で。私がアナタを撃ち抜く前に、何か芸を見せてくれるの? 楽しみだわ。他のタヌキは皆、私を愉しませずにこの世界からいなくなってしまったもの」

「馬鹿。撃たせると思わないで」

 アカシも臨戦態勢に入りますが、それもタヌキは一蹴します。

「結構じゃ。こんな娘に遅れを取る吾輩ではない。なぜなら吾輩は、このポンポの町長であり、タヌキ族の族長――スエキチ様じゃからのぉ! 」

 そう宣言して、大きなお腹を「ぽぽん」と叩きます。なるほど、ワヘイよりはるかに大きな音と響きです。サクイは「おぉ」と声を漏らしました。

 そんなスエキチの口上を無視して、カイハはアーチから降り立つと。

 日傘の先端をスエキチに向けました。

「今のが最後の言葉でよかったのかしら? 」

 心臓を抉るような、冷気に満ちた言葉です。アカシの額からも、いつの間にか冷や汗が流れていました。

「最後の言葉ぁ?

「バンっ」

 女王はすっとんきょうに唱え、日傘から、を放ちました。

「――あら。確実に心臓を抜いたと思ったら、面白い魔法ね」

 そう言うと微笑んで、女王は日傘を閉じます。

 その様子にアカシとサクイは違和感を覚えました。

「(な、なにがおきてんのさ)」

「(わ、分かんないわよ)」

「そこのニンゲンと猫。逃げよ。吾輩が足止めをしよう」

「へぇ。アナタが時間を? 」

「お転婆娘には、この町で少し遊んでいってもらうとしよう。ほら、二人ともはよ走らんか」

 アカシはサクイを背負うと、言われるがままにカイハの脇をすり抜け、町の奥へと消えました。

 カイハは日傘で二人の背に狙いを定めますが、いつの間にか霧が出て、彼女とスエキチを包みこんでいます。

「だいそれた魔法を使うのね。たしかタヌキの中には、幻覚を見せる個体もいるとか」

化術ばけじゅつはタヌキの十八番じゃよ。とはいえ、吾輩の幻には実体がある。稀有にして最高の技術に裏打ちされた、タヌキの中でも最も――」

「この霧はアナタを倒せば晴れるのね? 」

「んなチャチな代物ではないわ。この霧の中では、お互い一切攻撃ができんようになっとる。正しくは、攻撃したとしても通らん」

「困ったわね。なら、どうやって脱出すればいいのかしら」

「吾輩と一試合、何かを賭けてゲームをする。そのゲームで勝てば、お前さんはここを出ることができる。賭けるものは同価値でなくてはならん」

「私、ゲームは好きよ。何を賭けようかしら」

「案外と乗り気じゃの。どれどれ好きなモノを言うてみい。金か? 菓子か? 」

「んー……じゃ、お互いが知るを賭けましょう。私は私の根城の場所。アナタは? 」

「さっき逃げた二人の居場所を賭けよう」

「話が早くて助かるわ。私って今、急いでいるから。ゲームの内容は自分で決めるのかしら? 」

「そうじゃ」

「なら、推理ゲームはどうかしら。お互いが頭の中に想像したものを、質問して当てっこするの」

「いいじゃろう。そのゲームは同胞としたことがある。その時のルールを適用しよう」





・――――――――――――――


 推理ゲームのルールは以下の通りとなります。


 ・ゲーム中の魔法、及び術は使用禁止.

 ・ゲーム中の暴力禁止.

 ・質問に対して嘘をつくことは禁止.

 ・思い浮かべる単語は、双方が必ず知っている単語でなくてはならない.

 ・質問一つにつき、回答できるのは一度まで.

 ・正解までに行った質問が同数の場合、そのゲームはドローとなる.

 ・ルールを破れば大いなる災いが降りかかる.


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 GWの毎日連載は以上になります。

 次回の更新は5月中です。

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