だい 8 話 - いろいろ聞かせてください

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 動物たちが命懸けでつくった数秒によって、アカシとサクイは女王たちを撒き、ジャングルから平原へと出ることができました。


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 サクイはアカシの背中で訊ねます。

「今のうちにおしえてくれよ。このジョウキョウのこと。何がどうなってんのか、オレそろそろ頭がパンクしそうなんだわ」

「いいよ。何から聞きたい? 」

「まず、ここどこなの? あの口のある植物は何? 」

「ここはサクイ君がいた世界とは違う世界。

 君を襲ったのはイーターっていって、よその世界に穴を開けて、その世界の住人をこっちの世界に引きずり込むの」

「まんまと引きずりこまれたのがオレってわけだ」

「そうね」

「じゃあ、次のシツモン。なんでオレのことしってんだ? 」

「あー……アタシ、君の世界の住人だったの。色々あって今はこっちで暮らしてるけど。ワヘイ君のことも知ってるよ」

「マジか! ごきんじょさん? 」にわかにサクイの声が高くなります。

「そういやそうだったかも」彼女も気さくに笑いました。

「なんでアカシは女王にねらわれてるの? そもそも、あの女王って? ほかにも悪そうなヤツらがいたけど、手下なの? 」

「あの女王は、この世界でアタシの次に強いヤツだよ。アイツがよその世界を壊してまわってるから、アタシが頑張って食い止めてるの。アイツはそれが気に入らないってわけ。あのハト男とか巨人とかも手下ね」

「世界を、こわす? 」サクイの毛が逆立ちます。

「そ。真っ白になった本って見たことある? 」

「うん」

「あれはね。実際に存在してた本の世界が、女王によって滅ぼされちゃったってことなの」

「え、それって、どういう」

「そのままの意味。住人が全員いなくなって世界が維持できなくなると、世界は壊れてなくなるの」

 サクイにはその話が急に難しく感じられましたが、なんとかニュアンスは汲み取っていました。

「女王がそれをしてるのか? 」

「うん」

「じゃあ、女王がオレの世界をこわすかもしれないってこと? 」

「そうなるね」

 アカシは、背負っているサクイの体温が急に下がるのを感じました。

「だからぶっちゃけると、サクイ君が元の世界に戻ったとしても何も変わらないの。いつか絵本は全部真っ白になるし、地震でサクイ君の家も壊れる。女王を倒さない限りは、それは止まらない」

「なら……ならオレは、どうすりゃいいのさ」

「アタシと一緒に女王を倒して」

「もし、倒せなかったら……? 」

「全部消える。アタシも。サクイ君も、ワヘイ君も」

「――ワヘイ」

 サクイの脳裏に、丸こいワヘイの姿が浮かびます。

 ワヘイは弱虫です。今ごろ一人でうずくまり、サクイの帰りを待っていることでしょう。真っ白な絵本も、地震も、ワヘイを不安にさせ、追い詰めているに違いありません。

「(それでも、ワヘイは頑張るんだろうな。泣くのをこらえて。むかしからそうだ。ワヘイは、ふだんはすぐに泣いたりビックリしたりするくせに、本当にオレがビビっちまうようなところで……)」

 サクイは首をぶんぶんと振ると、迷いを払ってから、一言で決めました。

「やる。オレは」

 吹っ切れたような瞳です。

「ワヘイのために、まよわない。女王だろうがなんだろうが、こわかないさ」

 アカシは息子を褒める母のように告げました。

「よく言ったね。それでこそ、私のヒーローだよ」

 サクイにはいまいち言葉の意味が分かりませんでした。それはさておき、好奇心旺盛な彼は別の質問を投げかけます。それは、先ほどまでとはうってかわって軽いものでした。

「この世界って、なんで空の色がちがうの? 」

「良い質問だね。じゃあ、この世界の成り立ちを教えてあげる」

 途端に、サクイの目が輝いたのが分かりました。どうやら、スケールの大きな話が大好きなようです。

「全ての世界はね、誰かが書いた物語からできてるの。例えば、サクイ君の世界は、誰かが描いた絵本からできている。同じようにこの世界も、誰かが書いた物語がもとになってるのよ」

「へぇ? 」

「この世界はね、最初、毎日の嫌なこととか辛いことを忘れるために書かれてたの。けど、その嫌な思いが強くなりすぎて、いつしか全てを壊すお話へと中身が変わっていった」

「書いてた人に何があったんだろう? 」

「さぁね」

「じゃあ、その書いてた人が、空をこんな夕方みたいな色にしたってこと? 」

「うん。その人にとっては、空はこんな色だったんだろうね」

 話は変わります。

「アカシってなんであんなにつよいの? 」

「この世界に来てから、先生を見つけて魔法を教えてもらったの。誰かに習えば、サクイ君も使えるようになるかもよ」

「ほんとっ!? 」

「もちろんっ」

「マホウがあれば女王を止められる? 」

「きっとね」

「そっか……オレがマホウを覚えて、ぜったいに女王をやっつけてやるんだ」

「そうだね。絶対やっつけよう――あ、町が見えたよ」

「おーっ」

 アカシは速度をかなり落として、サクイに遠くから町の様子を見せます。

 町の正門には大木がアーチ状にかかっていました。入口以外の町の周囲は高い丸太の柵が取り囲んでおり、さらに柵の外側は堀が囲んでいました。正門には堀を渡る橋がかかっています。

「さっきも言ったように、あのポンポの町はタヌキが作ったの」

「タヌキが、あれを? 」

 サクイの頭の中では、沢山のワヘイがへいこらへいこら土を掘ったり、丸太を運んでいる姿が想像されました。到底、現実味がありません。

「うっそだぁ」

「ホントだよ。後で偉いタヌキに聞いてみよ」

 そうして正門に辿り着くと、正門から奥に向かって様々な商店が軒を連ねているのが見えます。

 ただ不思議なことに、商店にも通りにも、誰もいません。

「けど、だれもいないな」

 アカシがその理由を察します。今この瞬間まで感じ取れなかった魔力が、それも尋常ならざる規模の魔力が、アーチの上から重力を増すかのようにのしかかってきたからです。それは、敵が魔力を隠すことを止めた合図でした。

 アカシの全身から、どっと冷たい汗が吹き出します。


「――いつまで待たせるのかしら」


 その声を受けると、サクイの歯も震えて鳴ります。

「また出た……世界をこわす、女王……! 」

「さすがに、簡単に逃がしちゃくれないよね」





――――――――――

 次回へ続きます。

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