だい 6 話 - 逃走のさなか

――――――――――


 「バンっ! 」


――――――――――


 。それがアカシの肩を撃ち抜いたのです。

「うぁッ……!? 」

 女王は肩部を抑えて呻くアカシの眼前に再び現れます。アカシは吐き捨てるように言いました。

「知らない……こんな魔法……っ」

「悲観しなくていいのよ。凡人の知識なんてそんなもの。今さら驚くことではないわ」

 絶望的状況を前にしてもなお、アカシはサクイに力強く宣言します。

「絶対逃げきってみせるからね」

「だいじょうぶ。たぶん。今はオレのこと気にしないでくれよ」

 サクイは唾を飲み、毛を汗で湿らせながらも気丈に言ってのけます。

「アタシはアカシ。よろしくね」

「オレはサクイ。よろしく」

「後で、ゆっくり自己紹介しよう」

「おうとも」

 女王は日傘の影で休息しながら上品に訊ねます。

「覚悟は決まって? 」

 アカシの両脚に蒼炎が立ち昇ると陽炎が浮かび、女王の視界が大きく揺らめきました。

「かけっこ勝負なんていつぶりかしら。懐かしい。せっかくだから、私が号令をかけてあげようかしら」

 女王はほくそ笑んで片手をあげます。さながら陸上の号令のように。

「よーい――」

「――どんッ! 」

 女王の合図を待つまでもなく、アカシはその場から姿を消しました。

「つれないのね。まぁ、律儀に待たれても困っていたけれど」


 *


 アカシは逃走の最中、頭に策を巡らせます。

「(移動速度ならこっちに分があるけど、あの狙撃……速さだけじゃどうにもならないか)」

「はやややややや」

 背中のサクイは風圧で発声もままなりません。

「(一か八か、? )」

「あっおいアカシ! 前っ!」

「えっ!? 」

 アカシの視界が眩く光り、反射的に彼女はブレーキを掛けました。

「ぶえっ」急に止まったことで、サクイの顔がアカシのうなじにへばりつきます。

「最悪っ……ジャングルごとアタシたちを焼き払う気だわ」

 光の発生源は、同心円状に焼け野原になっていました。その焼け跡には、動物の亡骸がいくつも横たわっています。アカシは目を覆いたい思いでした。

 上空にて、さらに女王が次弾を創りはじめています。

 アカシは焼け跡を迂回し再び走ります。彼女の目指す場所は既に決まっていました。

「どこへにげるんだっ!? 」

「ポンポの町! 」

「ぽ、ぽん、なにって!? 」

「ポンポの町! ワヘイ君と同じタヌキがいる町よ! 」

「このセカイにもタヌキがいるんだな! 」

「そ!」

 目的地は定まりました。ただ、先ほどのフォヴロや黒いローブの敵、巨人までもが、ジャングルの破壊活動を始めています。これほどまでの虐殺が目の前で起きれば、アカシには見過ごすことなどできません。

「なんて酷い、こんな……こんなの酷すぎるよ」

「サイテイだ、こんなの! 」

 二人は燃え盛るジャングルの中を抜けていきます。

「オレ、何もできないんだ、なんの、力もない」

 サクイから力が抜けていきました。

 アカシも歯を食いしばり、逃げ惑う動物たちの悲鳴を、ただ通り過ぎて行きます。

 ――このまま逃げるということは、ジャングルの生物を囮にするという事。そんな事は、彼らの内なる正義感が許しません。とはいえ、真っ向から戦えば無事では済まないでしょう。サクイに至っては、命を落とすかもしれないのですから。

 どうしようもなく迷いに苛まれていたアカシたちに、ある声が投げかけられます。


「アカシよ」


 木々に反響する、深く低い声でした。

「だれだ? 」

 サクイはその声を知りません。

 二人が声の方を向くと、木々の間を縫うように現れたのは、数十メートルはあろうかという巨大なガエルでした。深緑の皮膚に黒い縦縞がいくつも入り、目ヤニのたまった、色素の薄い眼で二人を見下ろしています。さらに、足元には何百、何千という大小様々な動物たちを従えていました。

 そのカエルが何者であるか、アカシは知っています。そして、今このタイミングで彼に会うことが何を意味するか、彼女はその重大さをも理解していました。





――――――――――

 次回へ続きます。

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