だい 4 話 - まかい
※今回にはややグロテスクな表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
―――――――――――
サクイが穴に引きずりこまれた直後。
「どこだよ、ここ……? 」
ツタで両腕を拘束された彼の視界にとびこんできたのは、あたり一帯に木々草花が生い茂るジャングル。空ですら、どこか赤みがかって不安を誘うような色合いです。
サクイは、自分を縛るツタの根本まで目で辿りました。そこには。
「(ありゃなんだ……口か? )」
ツタの根本にあるのは巨大な白色球体。球体下部に裂けた穴からツタは生えていました。その裂け目は上下に牙をそなえた口であり、サクイの目にはそれが嗤っているように見えました。
球体は太い木の幹に寄生しているようです。
「■■■■。■■■■」
植物が喋ると、寄生した木が揺れて葉や実が落ちました。
「オレをくうのかよっ! おいしかねえぞ! 」
「――食べませんよ。貴方は餌なんですから」
「……だれだよ、もしかしてニンゲンか? 」
球体の上にはニンゲンが立っています。
燕尾服姿にシルクハットをかぶり、白い手袋にステッキをついた、まるで執事のような身なりの、声からして恐らく男です。
ただ一つ奇妙なのは、男の顔が見えないことです。サクイの視線を遮るように、男の顔の前には鳩が一羽、滞空しているのです。よく見れば、男の口の動きに合わせて、鳩が口を開閉しているのでした。
「こっのハトやろう! はなせよこれ! 」
「ふむ。まだ彼女は現れませんか」
それから男は指をあごに当てて考えると、思いついたように言いました。
「いいでしょう。イーター。両腕を喰らいなさい」
男が指を鳴らしてイーターという植物に指示します。
「え、お、おい……まじで、言ってる……? 」
サクイはみるみる持ち上げられ、異臭を発するイーターの口元へ運ばれていきます。
「くっさ! 息かけるな……やめろってば!! 」
小さな顔をぶんぶんと振り回し、歯を食いしばって男を見上げ、力強く睨みつけます。
「ワヘイに手だししやがったら、ゼッタイ許さねえからな……」
「えぇ。彼女が来さえすれば、ワヘイさんにも手出しはいたしません」
なぜか、鳩で遮られた顔であっても、男が皮肉っぽく笑ったのが分かりました。
今やサクイには、イーターの涎が糸を引き、歯の隙間には動物の骨や毛まで挟まっているのが見えます。
「だ、れ、だれか、たす、た、たすけて」
とうとう恐怖がピークに達します。悲鳴と、助けを呼ぶ声も、もう意味が無いのだと分かりません。彼の両腕に牙の先端が触れ、痛みをこらえるべく目をつむります。
痛み。刺すような、痛み……。激痛。
「うぐっぁッ……」
腕に牙が食い込み、サクイの腕に血が伝います。
「いィッ……あっ、いっだぃ……! 」
「可哀想に。同情するわよ。サクイ」
鳩男の隣に降り立つ、黒いゴシックドレスに黒い日傘を差した少女。着地する足取りは優雅で、すぐに少女が男の主なのだと判りました。
「アカシがすぐに来ていれば、アナタは血を流さずに済んだ。痛みに悶え苦しむことも、憎悪の感情を理解しなくてもよかったのよ」
「アぁッくぅ……も、もう、やめて……」
「駄目よ。やめてあげないわ。アナタは餌。獲物をおびき寄せるための餌でしかないの」
サクイは気が付きようがありませんでしたが、上空に誰か敵がもう一人。さらに、雲を貫く山を彷彿とさせる巨大な敵が一体、離れた所で来たる相手を待ち構えています。
痛みのあまり気を失いそうになっているサクイが、鼻をすんと鳴らしました。
「におい、がする」
「フォヴロ。誰のか分かる? 」少女は鳩の男、フォヴロに訊ねます。
「無論」
男はステッキの柄を引き抜き、仕込み刀の刀身を閃かせます。上空で控える者も、山のような巨人もまた、その気配を察知したようです。
少女が気配に意識を巡らせ、ある方向から凄まじいエネルギーが飛来するのを感じ取りました。
ジャングルの木々の隙より、光の散弾が少女らを爆撃。
イーターは穴だらけになり力なくうなだれ、少女は日傘で防ぎ、フォヴロは刀で着弾寸前に弾いていました。
「女王陛下。お下がりください」
「そ。なら油断しないことね」
「はっ」
女王。そう呼ばれた少女が消えると同時。
彼らが標的とするアカシは、救出したサクイを抱きかかえ、遂に姿を現したのでした。
――次回へ続きます。
フォロー、応援よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます