第25話 マサカリ担いだ市原 楓

かえで、ティッシュ」


「はい、由佳ゆか。最高級ボックスティッシュ「鼻ファビュラス」よ。

 セレブも驚く柔らかさでバラの香り付きよ」


 楓は片膝をついたプロポーズ姿勢で、恭しくボックスティッシュを由佳に差し出した。

 由佳はティッシュを1枚抜き取ると、盛大に鼻をかんだ。


叡斗えいと、ゴミ箱」


「ここに構えてる」


 叡斗はゴミ箱を傾け、由佳がチリ紙を入れやすいように、ゴミの投入口を由佳の方に向けた。


静子しずこ、ココアのおかわり」


「かましときっ。すでにおかわりは電子レンジで温め中や。あと15秒で出来上がるしな」


 おかわりが出来上がると、由佳は笑顔でココアを楽しんだ。


「どうやら由佳の機嫌も直ったようだな」


 狗巻いぬまきは、心底やれやれといった様子だった。


「狗巻、あとアレを買ってきてよ。ココアを飲むならアレがいるじゃない」


「アレってなんだ?」


「狗巻君、由佳がゆうてるんわバタークロワッサンや。購買に売ってる高級スイーツパンの」


 静子がそういいながら、早速、買いに行こうとしたので、狗巻が制した。


「静子、行かなくていい。

 おい、由佳。調子に乗るな」


「なによ~。ちょっとくらい調子にのったっていいじゃない。

 今まで皆も神様が《視える》こと内緒にされてたんだから、これくらいいいじゃない」


 由佳は両足をバタバタして駄々っ子をしたが、狗巻は無視して会議を始めることにした。


「由佳、そのことについて今から改めて説明する。しっかり聞けよ。

 まず俺、鞍馬 狗巻くらま いぬまきだが、俺も神様が《視える》。但し、神様と話はできない。

 特技は式神を使えることで、安倍晴明の生まれ変わりだ」


 狗巻の説明が終わると、楓が挙手をした。


「はい。次はわたし。市原 楓いちはら かえでです。

 わたしも神様が《視え》ます。でも神様とお話はできません。

 特技は金剛力の持ち主で、どんな重い物でも軽々と持ち上げることができます」


「ほな次はうちやな。二ノ瀬 静子にのせ しずこです。

 うちも神様が《視え》るんよ。そやけど神様とお話はできへん。由佳は神様とお話ができるんやろ? すごいわ~。うちも神様とお話してみたいわ。

 特技は先祖代々から伝わる管狐を従えていること。

 あとうちは紫式部の力を受け継ぐ一族の家系や。そやし、うちは言葉や文字に、強い力を込められる。具体的には言葉や文字で人を動かしたり、感情をゆさぶることができるんや。

 あと、うちんちは平安時代から続く貴族の家柄で、旧華族のはしくれなんよ。今でも家では昔ながらの風習を大事に守ってる。子供の事は、面倒くさいこっちゃと思っとったけど、今はこうした風習を守るっちゅうことが、どれだけ尊いことか、ようわかってる」


「最後はオレだな。三宅 叡斗みやけ えいと

 オレも神様が《視える》。でも神様と話はしたことない。試したことないけど、できる気がしないからたぶん無理だと思う。

 特技は完全記憶能力フォトグラフィックメモリーで、一度見たもの絶対に忘れない。

 あとオレは蘆屋道満あしや どうまんの生まれ変わりらしい」


蘆屋道満あしや どうまんって、確か平安時代に安倍晴明あべの せいめいとライバル関係にあったっていう陰陽師おんみょうじだよね?」


「そう言われているな」


 自分のことなのに叡斗は後ろ頭に手を組んで、他人事のように言ってのけた。


「すごいね。みんなそうした人達の生まれ変わりだったり、一族だったりするんだ。

 あれ? でも楓は? 楓は誰の生まれ変わりなの?」


 そう訊かれると、楓は急にムスッとした表情になった。


「そのことはあまり言いたくない」


「え? なんで、どうしたの?」


「わたしがそのことを言うと、みんな笑うんだもん」


「笑われる? そうなの?」


 由佳は、狗巻や静子、それに叡斗を見渡した。

 全員、身に覚えがあるらしく、苦笑いをした。


「私は笑わないよ。絶対に笑わないから楓が誰の生まれ変わりなのか教えてよ」


 みんなが笑うなんて、いったい誰の生まれ変わりなんだろうと由佳はとても興味を覚えた。


「絶対に、笑わない?」


 楓は不信感が露わだったが、由佳はどうしても知りたいという強い好奇から、「絶対に笑わない!」と安請け合いで断言をしてみせた。


「じゃあ、言うね。わたしは坂田金時さかた きんとき金剛力こんごうりきの継承者なんだって」


「…えーっと、坂田金時さかた きんとき?」


 その人名に思い当たるところがなく、由佳は小首をかしげた。


「平安時代に鬼や妖怪退治で有名な源頼光みなもとのよりみつっていただろう」


 由佳は源頼光みなもとのよりみつの名前には聞き覚えがあった。


「その人は知ってる。確か「頼光らいこうさん」と呼ばれて、とても親しまれている平安時代の武将だよね?」


「その頼光らいこうさんには4人の有力な家臣がおるんよ。いわゆる「頼光らいこうの四天王」っていう人たちやけど、そのうちの一人が坂田金時さかた きんときさんや」


頼光らいこうさんの四天王には大江山おおえやま酒呑童子しゅてんどうじの腕を切り落とした渡辺綱わたなべ つなもいるぞ」


 渡辺綱わたなべ つなは由佳も大いに知っていた。

 その為、由佳はとても納得した。


「そうなんだ。楓、すごいね。そんな四天王のひとりの力を継承してるんだね。

 …あれ? でも、それじゃあ、なんでそんなに楓は笑われるの?」


 由佳は頭上に疑問符が3つくらい灯った。


「由佳、お前はまだわかっていない」


 狗巻がさらに説明を続けた。


「坂田金時は金剛力の持ち主で、幼い時分からとても力持ちだったんだ」


 狗巻の説明を由佳は真剣に聞いた。


「幼少期の坂田金時には数々の伝説や逸話がある。由佳も絶対に知っている話ばかりだぞ」


 そう言われたが由佳には思い当たる話がなかった。


「え? そうなの? うーん…。あまり思い当たらないけど。本当に私も知ってるお話なの?」


「ああ。絶対に知っている。

 だが、由佳が思い当たらないというのは、とてもよくわかる」


 由佳がそうして疑問に思うことはもっともだと狗巻は頷いて見せた。


「だが坂田金時じゃなく「金太郎」なら知っているだろう?」


 そういわれると由佳は表情を輝かせた。


「もちろんっ。金太郎を知らない人なんていないくらい有名だし、当然、私も知ってるわよ」


 由佳のその反応に、狗巻は満足そうだった。


「ならばその金太郎こそ、坂田金時の幼少期の名前だ」


「えっ? そうなの? なんだ、そうだったんだ。じゃあ坂田金時さんが金太郎なのね。知らなかったよ~。

 あれ? でもじゃあ、つまり楓は金太郎ってこと?」


 その事実に気付いた由佳は、まじまじと楓を見やった。


「その言い方には語弊があるけど、まあ、そういうことね」


 楓は、ため息交じりに答えた。その表情や態度には「ついにバレたか…」という感情がありありと滲にじみ出ていた。


 由佳はその刹那、楓が赤い腹掛はらかけをして、マサカリを担ぎ、クマにまたがって闊歩する姿が脳裏に浮かんだ。


「…由佳。あなたが今、何を考えてるかわかるからね」


 楓は苦々しい顔をした。

 由佳は「絶対に笑わない」と誓ったが、思いっきり声をあげて笑ってしまった。




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今回のお話はどうでしたでしょうか?

(,,•﹏•,,)ドキドキ


皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります୧(˃◡˂)୨

私の小説を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

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