3章

第24話 ハラハラドキドキ☆由佳の機嫌を直せ!大作戦

「それでは会議を開始する」


 苗蘇高校びょうそこうこうの生徒会室のホワイトボードの前で、狗巻いぬまきが宣言した。


 しかし、すかさずかえでが挙手をした。


「はいっ! 狗巻議長っ!」


「楓会計、なんですか?」


「由佳副会長のご機嫌が直っていませんっ! とてもご立腹で、怒りのオーラに満ちていますっ! 副会長がこの状態のままで会議を進行するのはいかがなものでしょうかっ!?」


 由佳は生徒会室のソファで両手両足を大の字に広げ、とても太々しい態度で応接スペースを占拠していた。

 目は泣きはらして真っ赤になり、鼻はぐずって赤らんでいた。


「怒りで肩に力が入りまくりだ。ぜんぜん肩もみができない」


 由佳の肩をもみながら叡斗えいとが弱音を吐いた。

 狗巻は溜息をついた。


「由佳。俺たちが《視える》ことを黙ってたのは悪かったが、いい加減に機嫌を直せ」


 そう言われると、由佳はギロリと狗巻を睨みつけた。

 その目はとても据わっていて、不機嫌さがあらわになっていた。


「しょうがない。叡斗、由佳の肩もみを続けるんだ。由佳は肩もみされるのが何より好きだ」


「わかってるさ。だからやってるけど全く効果がないんだよ」


「楓、足つぼマッサージを続けろ。由佳は足つぼマッサージをされると、とてもリラックスする」


「わかってるわよっ」


「もっと強く。全力でツボを刺激するんだ」


「わたしが全力を出したら、由佳の足の骨が砕けちゃうわよ!」


「いいからふたりとも続けるんだ。

 大丈夫。もう少しの辛抱だ。望みはある」


 由佳の機嫌はかなり斜めだったが、狗巻にはそんな由佳の機嫌を直す秘策があった。

 正直にいうと、由佳の大好きな「肩もみ」と「足つぼマッサージ」で、ここまで効果が見られないのは予想外だったが、それでも狗巻は最後の「望み」に絶大な信頼があった。


 そしてその時、静子しずこが生徒会室に飛び込んできた。


「えらい遅くなってかんにんやでっ」


「静子っ! 遅いよっ!」


「途中で女生徒に捕まってしもて、なかなか振り払えへんかったんや。かんにんやで」


 静子のすぐ後ろには4人の女生徒が迫っていた。


「生徒会長! 待ってください~!(女生徒A)」

「どうしてそんなに急がれるんですか~!(女生徒B)」

「急いでおられる生徒会長もステキです~(女生徒C)」

「もっとお話、させて欲しいデス(女生徒D)」」


 間一髪のところで静子は生徒会室のドアを締め、女生徒たちをシャットアウトすることができた。


「静子、ご苦労さん。だけどこっちはもう限界だっ」


 懸命に由佳の肩をもみながら叡斗が叫んだ。


「静子、例のモノは手に入ったか?」


「ちゃんと手に入れてきたで。これがあれば由佳の機嫌もすぐに直るはずや」


 そういって静子は懐ふところに大事そうに抱えていたペットボトル飲料を取り出した。

 それは「濃厚☆ミルクたっぷり♪あま~いココアのマーチ」だった。


「ナイス! 静子!」

「いいぞ! 静子!」


 楓と叡斗は歓喜した。


「ありがとう、静子。これがあれば由佳の機嫌もきっと直る。早速、由佳に飲ませてやってくれ」


「まかしときっ!

 ほら、由佳、あんたの好きなココア買ってきたで。これ飲んで気持ちを落ち着けて、どうか機嫌をなおしてぇな」


 静子がココアを由佳に差し出したが、由佳は横目でギロリと一瞥すると「それ、ホットココアじゃないじゃない」といってプイッと顔を背けた。


「か、かんにん! かんにんやで由佳!

 あんたが好きなんはアイスココアやのうて、ホットココアゆうんは百も承知や。

 でもな、でも今は7月やろ? ホット飲料は学校の購買には売ってへんのよ」


 静子はすがるように由佳に訴えたが、由佳はツンとした様子で顔を背そむけ、取り付く島がなかった。


「静子っ! マグカップだ!」


「そうよ、静子! マグカップよ!」


 叡斗と楓に言われた静子は、はっと気が付いた。


「そや! その手があったわ! おおきに! ふたりとも!」


 静子は生徒会室の給湯スペースの棚を開けた。

 中には大小さまざまなマグカップがずらりと並んでいた。

 そのどれもがクマやウサギ、ネコやネズミなどの動物キャラクターがプリントされていて、とてもメルヘンでファンシーなマグカップだった。


「どれやろ? 今の由佳の気分はどのマグカップやろ?」


 静子は迷った。

 この数々のマグカップはすべて由佳のコレクションだった。

 由佳はその日、その時の気分に合わせて動物キャラクターのファンシーなマグカップで、お茶やココアを飲むのが何よりの楽しみだった。


「ク、クマじゃないか? 違う。そのツキノワじゃなくてヒグマの」


 叡斗が数あるクマのマグカップの中から、特に由佳がお気に入りの灰色のヒグマのマグカップを指さした。


「ちがうっ! 今はウサちゃんよ! 静子っ! 3段目、右から5個目の片耳を垂らしてるウサちゃんを使ってっ!」


 楓にそういわれて静子はウサギのマグカップを手に取ったが、狗巻はその瞬間の由佳の様子を注意深く観察していた。

 そして由佳がその時、なんの反応もないことをしっかりと確認していた。


「待て。静子。違うようだ。ウサギじゃない」


 狗巻は静子を制して、ウサギのマグカップを棚に戻させた。


「ほなどれなんや狗巻君…? 今の由佳の気分に合うマグカップはどれなんや…?」


 静子は100個近くあるマグカップを前にして、途方にくれた。


「静子がウサギのマグカップを取った時、一瞬、由佳の目線が斜め下に移動した」


 狗巻は鋭い観察眼で、由佳の軽微な目の動きを見逃していなかった。


「斜め下…? …そうかっ! それなら、アレだ! 間違いない!」


「そうよ、アレよ! きっとそうよっ!」


 叡斗と楓は、どのマグカップか正解がわかったらしい。


「そうか。これか」


 狗巻も正解がわかった。


「ほんまや。これやね」


 静子は1つの古びれたマグカップを棚から取り出し、大事そうに両手で持ち抱えた。


「このマグカップ。

 由佳がマグカップ収集を始めるきっかけになった、一番最初のマグカップ」


 それは由佳が小学生の時、苗蘇神社びょうそじんじゃの夏祭りで買った、苗蘇神社オリジナルのネコとネズミのマグカップだった。

 苗蘇神社には「びょうびょう」「」でネコとネズミのマスコットキャラクターがいたのだ。


「静子、それにココアを入れて、電子レンジで温めくれ」


「まかしとき狗巻君。生徒会室の電子レンジを使わせたら、うちが学校で一番や」


 何が一番で、何を誇っているのか不明だが、静子は胸を張って答えた。


「500wで2分30秒だぞ、静子」


「わかってる、叡斗」


「お砂糖は? 追加のお砂糖は入れなくて大丈夫?」


「楓、心配せんでええ。のココアは、甘さがようさんあるココアや。甘党の由佳も十分満足する甘さがこれだけで十分ある」


「よし。では静子。やってくれ」


 狗巻に促され、静子はマグカップにココアを注ぐと、電子レンジの中央にセットし、出力を500w、時間を2分30秒にセットして、スタートボタンを押した。




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いつもお世話になっております。柳アトムです。

(⋆ᵕᴗᵕ⋆)


3章に突入しました~!(ノ*>∀<)ノ


ここまで読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

引き続き、「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。

(๑•̀ㅂ•́)و✧

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