28.情報整理

 ───デュランダルからそろそろ寝た方がいいと言われベッドに横になっている。小さい頃に母親に早く寝なさいと促された時と同じ気分だ。デュランダルから聞いたシルヴィの情報はタイミングをみて仲間と共有しよう。


 早く寝ないといけないのは分かっているが頭が冴えて眠気がこない。

 考え事をしている所為だろうな。

 余計な事を考えるなと思いつつも思考は巡る。

 今考えるのは仲間の誰が魔王かという事だ。

 今のところ証拠はない。それでも幾つかの情報を踏まえて人数を絞る事は出来る。

 改めて情報を整理しよう。



 まず1人目『勇者』エクレア・フェルグラント。彼女はまず魔王ではない。俺と同じ転生者という事もあるが、聖剣の担い手というのが何より大きい。

 彼女が使う聖剣『コールブランド』は魔族が反逆を起こした時に神が創ったものだ。聖剣の鞘から刀身まで全てが聖属性を纏っており、聖属性を苦手とする魔族に対する特効武器と言える。

 魔族では聖剣は触るだけダメージを受けるものだ。魔王だとすればあれほど巧みに聖剣を扱えないだろう。

 


 2人目魔法使い、『若き賢者酒乱』サーシャ・ルシルフェル。

 彼女は闇と聖以外の5属性の魔法を使えるトップクラスの魔法使いだ。デュランダルに魔族は闇以外の属性の適正がないと聞いて彼女を容疑者から外したが、ある可能性が浮上しておりサーシャもまた容疑者の1人だ。

 ───魔族は『闇』以外は使えない。

 だが、ある特定の条件を満たせば闇以外の属性が使えるのだと思う。それが魔族以外の血が流れる場合。つまり魔族とのハーフだ。

 それを証明するように魔族と人間とのハーフのダルは『火』と『闇』の属性適正を持つ。

 魔王がハーフだった場合、他の属性を使える可能性が浮上する。その場合は当然闇属性の魔法は使わないだろう。わざわざ魔族とバレるリスクを犯すとは思えない。

 ハーフである可能性を考慮するとサーシャは候補の1人だ。

 彼女個人の動きを見ても酔っ払って暴れた以外に目立つ所はない。サーシャと飲みながら話す事も多いので疑い難い。



 3人目盗賊、『赤毛』のダル。本名はダルフィア・ウォン・フィンガーランド。

 言わずと知れた魔族と王族のハーフの少女だ。魔族しか使えない闇属性を使える事から当初は魔王ではないかと疑ったが、彼女の身元が分かるにつれ容疑者から外れた。

 正直知りたくない情報ではあったが、仲間の中から1人魔王候補がいなくなったのは良かった。彼女の親族である『アルカディア王国』の国王や大臣の存在がダルが魔王である事を否定してくれている。

 勇者と一緒で彼女は魔王ではないだろう。

 恋愛脳の魔王とか嫌だし。



 4人目格闘家、『格闘王』トラさん。本名はトラ・ヴィルカス・ヘルスティム・ノーゼンカズラ・F・タイガー・ホワイト・シルバーファーク。

 『ジャングル大帝』出身の格闘家。最近まで男だと思っていたが実は女性だった。魔力を纏うことで身体を強化して闘う獣人特有の技術『魔闘技』の使い手で、その拳は一撃でドラゴンの頭を吹き飛ばすほど。俺が殴られたら多分死ぬ。

 他の仲間と違い彼女は今までの道中で一度も魔法を使った事がない。俺と同じで使えないのか、闇属性だから使うのを避けているのかは分からない。

 いや、使えない事はないだろう。あの人の魔力量は俺よりも多い筈。使おうと思えば魔法は使える筈だ。

 そういう方向で考えれば不審な点はあるな。

 獣人が元々魔法を好まず肉体を使って闘う事を重視しているので、トラさんもその例に漏れないのだろうか?

 正直判断に迷う。仲間の中で唯一肉体関係を持っているのと、彼女の人柄を知っていると疑いたくないという気持ちが強い。

 それでもエクレアとダルと違い、魔王ではないという決定的なものがないので容疑者として見ておこう。



 5人目神官、『大司祭』ノエル・キリストフ。

 教会に所属するエルフの神官。若くして大司祭の地位に着く才女であり、現在確認されている全ての聖属性の魔法を使用できる唯一の存在。

 過去に人間とトラブルがあったようで人間嫌いだ。近付くだけで舌打ち。話しかけたら罵声なんて事は最初の頃は良くあった。仲間以外の人間に対しては当たりが強いので基本的に対応させないようにしている。

 魔族が苦手とする聖属性の使い手であり、エルフという事もあって彼女を容疑者から外して見ていた。ハーフである可能性を考えれば彼女が魔王という事もありえる。

 が、俺が傭兵団に所属していた時に出会ったエルフの少女がノエルではないかと最近考えている。今から13年前だ。その子がノエルなら魔王である事は時系列から有り得ない。

 俺が今一番にする事はノエルに昔の事を確認する事だろう。ただ昔の事を聞くと機嫌が悪くなるので、どうやって聞くべきか悩んでいる。



 5人中2人は魔王ではないと確信している。ノエルは要確認だな。確信を持てるまではノエルも一緒に容疑者として見ておくべきだろう。

 出来れば油断したくない。

 俺が容疑者として見ておくのはサーシャ、トラさん、ノエルの3人になる。


 『審判』を使えば楽なのだろうが、あの魔法はエルフが豪語するほど万能ではない。

 神にその身を捧げた者のみしか使えない。下卑た話だが性行為をしていたら使えない。処女か童貞しか使えない魔法という事だ。


 そして神への信仰が試される魔法でもある。魔力や属性適正が足りていても神への信仰が足りていなければ『審判』の魔法は使えない。

 その上対象と出来るのは1人だけで、対象となる者が悪意を持つ者か邪な者でなければならない。魔族の場合は問答無用で当てはまるので対魔族という意味では『審判』は有用だ。だが善人に対して使った場合、『審判』は術者に返ってくる性質を持つ。冤罪は許さないという事らしい。

 魔族と疑った者に対して『審判』を使ったエルフが逆に焼かれたという話を聞いた事がある。『審判』を使うのならその対象が罪人、ないし魔族であると確信を得てからでなくてはならない。

 それもあって神官は『審判』を使いたがらない。


 エルフが何を持ってこれが魔族に効くと豪語するのだろうか? 使い勝手は最悪だろう。

 邪悪な存在を裁く事が出来るという意味で見れば神聖な魔法なのだろうが。

 仲間に対して使うにしても決定的な証拠がなければ神官は『審判』を使ってくれないだろうし、容疑者の仲間がどういう反応するのかが読めない。なしだな。

 ほんと使えないな審判の魔法この魔法


 3人には絞れた。それでも魔王だと確信出来る証拠はない。ノエルの件を早めに片付けておけば疑う対象が減って楽になるな。

 時間があれば明日でも顔を出してみるか?

 そうしよう。単純に疑う仲間が減るというのは心労が減る。胃が楽になるだろう。


 それでもサーシャとトラさんを疑わないといけない。どちらも俺からすれば善人だ。困った人たちではあるがどうしても悪く見れない。

 四天王やクロヴィカスが動こうとしている以上、世界の情勢が大きく変わる事も有り得る。

 出来るだけ被害が出ないように頑張るつもりだが、同時に起こされると手が回らないのが本音だ。それに四天王の強さがどれ程のものかまだ知らない。デュランダルが語る通りだとすれば魔王を探す以前に俺が殺られる方が高いか…。

 いや、死ねないな。勝とう。勝って魔王を探そう。

 騒ぎに乗じて魔王が動くと考えるなら、サーシャとトラさん念の為ノエルから目を離さないようにした方がいい。

 怪しい動きがないかチェックしよう。


 仲間という意味ならデュランダルが魔王という事は…ないな。彼女はシルヴィを封印する為に500年の間レグ遺跡に刺さっていた。

 その事は本にも乗っていた筈だ。

 デュランダルに魔王の事を聞きそびれたな。4代目魔王の情報で何か分かる事があったかも知れない。明日にでも聞くか。


 やる事が多いな。朝起きたらトラさんと話に行こう。ノエルの所に顔を出す前に旅の準備をした方がいいか。何もしてない状態でいけばノエルに嫌味を言われる気がする。

 昼過ぎ、夕方になる前にノエルの所に顔を出せたらいいだろう。なんて聞こうか? 聞き方を間違えたら今までと同じように機嫌を損ねるだけだな。会う前に考えておこう。

 それから夜にデュランダルから4代目魔王ロンダルギアについて聞こう。5代目と関わりがあれば良しだが、期待はしない方がいいだろう。



 考えが纏まったからか眠気が襲ってきた。デュランダルに促されてから随分時間が経った気がするがどうだろうか?


「マスターダメです…私とマスターの関係は…むにゃむにゃ」


 剣も寝るんだなとデュランダルの寝言を聞いて思った。どういう夢を見ているのだろうか?

 今度聞いてみるか。





 ───13年前に出会ったエルフと約束を交わした気がする。とても大事な約束を。それが何だったか思い出せない。

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