27.封印の経緯

 何がどうなったら敵である魔族の、それも四天王と呼ばれる者と肉体関係を持てるんだ!?

 破天荒にも程があるだろ!

 タケシさんは魔族について調べていたからなぁ。前世の倫理観を持つなら魔族を敵として見れなかったのかも知れない。

 それにしても女性関係にだらしなさすぎるが。


「タケシさんは四天王だと気付いていたのか?」

「いえ、前のマスターは最後まで気付いていなかったと思います。人に化けてシルフィと名乗っていましたので」

「だとしたら何故、四天王のシルヴィと気付いたんだ?

いや、そうか。デュランダルは封印に関わっていたな。それなのにタケシさんが知らないと言うことは」

「マスターの想像通りです。前のマスターはシルヴィの封印に関わっていません。

彼女を封印したのは勇者パーティーの魔法使いです」


 やはりそうか。タケシさんが封印に関わっているなら知っている筈だ。

 最後まで知らないということは魔法使いの独断の行動。封印した後もタケシさんに言ってない可能性がある。

 仲間には相談したか? どうだろうか。してないのだとすれば…。薄ら寒いものを感じるのでこの話は後で聞こう。


「封印する事になった経緯は後で教えてくれ。気になる事が一つ。タケシさんは魔王と闘っていた筈だ。四天王であるシルヴィと敵対しなかったのか?」

「敵対どころか一緒に魔王と闘いましたよ」

「え?」

「『妾の知らない所でタケシが死ぬような事は認められない。タケシの為ならこの命も惜しくない。妾も共に闘わせて欲しい』と」

「…………」

「シルフィとして接していた時に彼女の実力を知っていたので勇者パーティーの皆さんは闘いへの参加を認めて一緒に魔王と闘いました」

「……………」

「魔王が潜んでいる場所も彼女の情報のお陰で分かりましたよ!何か言いたそうにしてた魔王に対して『タケシと妾の将来の為に、邪悪なる魔王よここで果てるがいい』と宣言して闘いが始まりました」


 魔王可哀想。話の流れだとシルヴィが勇者パーティーを裏切ったとかそういうのはなさそうなんだよな。そのまま魔王と闘ったみたいだ。

 信頼する部下に居場所をバラされたあげく殺されるなんて悲惨だな。宿敵ではあるが同情するよ。

 それにしても敵も味方も恋愛脳の奴が多すぎないか? これがこの世界でデフォルトなの?

 シルヴィに関しては許せない存在だろ? なんで愛し合う関係までいっているんだ。タケシさんが凄いのか? なんなんだあの人は。

 タケシさんの為ならこの命惜しくないってお前死なないじゃないか。ふざけんな。


「この闘いがきっかけで魔法使いはシルヴィの正体に気付いたようですね。

魔王を倒した後も誰にも言いませんでした。密かに封印の準備をしていましたが」

「誰にも言わなかった?」

「はい、誰にもです。全ての準備が終わった後でしょうね。

前のマスターに『四天王の1人の居場所が分かった。気付かれる前にその潜伏場所ごと封印したい。その為にデュランダルわたしが必要だから譲って欲しい』と言いに来ました」


 なんだろうか四天王だから封印するという訳ではなくて、恋敵として邪魔だから封印する。そんな印象を受ける。

 四天王として脅威になるから封印するという事なら仲間にも相談するだろう。それが出来ないほど勇者パーティーとシルヴィの信頼関係があったのか? 魔法使い1人の独断の封印なら私情の割合が大きいと思うが。


「話が逸れるがシルヴィへの勇者パーティーの信頼は魔法使いが相談出来ないほど強かったのか?

それで魔法使いが1人封印するに至ったとか?」

「魔王と共に闘ったのもあってシルヴィに対する信頼は強かったですが、魔法使いの私情だと思います。

『これでタケシの周りをウロつく邪魔な奴が1人消えた』って封印する時に言ってましたので」


 怖い。想像はしてたがデュランダルに言われると本当に怖い。

 背筋がヒヤッとした。大乱闘が起きたりやタケシさんが刺されるほどだ。みんな仲良くとは思ってなかったが、人知れずに処理するほど関係は冷えていたのか?

 魔法使いがヤバいだけか?


「話は戻るが、それでタケシさんはデュランダルを手放したのか?

俺がタケシさんなら手放したくないが」

「前のマスターは私の事を大事にしてくれていました。長い付付き合いでもありましたので、私を手放す事は出来ないと反対してくれました」


 デュランダルが嬉しそうに語る。大事にしてくれていたのは本当だろうな。

 俺もデュランダルを手にしてから他の剣が使えなくなった。使えはするがどうしてもデュランダルと比べてしまう。

 それに普通の剣と違い彼女は自我があり知識がある。仲間に相談出来ない事もデュランダルに相談出来ることは大きい。デュランダルのお陰で俺の胃の負担も大分和らいでいる。


「それでも愛し合う関係であった魔法使いに言い負かされしまいまして、譲るのではなく封印するまで貸すという形で魔法使いの手に渡りました」


 魔法使いは封印の詳細を詳しく話していないんだろうな。デュランダルを封印の礎として使う。つまりは結界の土台として使うという事だ。そうなればデュランダルを後で返す事はまず出来ない。

 タケシさんが知っていたら貸さなかっただろう。早い話、魔法使いの借りパクだ。


「魔法使いは私に自我がある事も、前のマスターが私に相談していた事も知っていました」

「デュランダルが魔法使いと会話したとかそういうのではないよな?」

「はい。昔から私はマスターとしか会話はしなかったので。前のマスターも私が喋れる事は皆には言っていませんでした。私がお願いしたのが大きいですが」

「どこかでデュランダルとの会話を魔法使いに聞かれていたという事か」

「そういう事だと思います。シルヴィを封印する前に私に対して『タケシに変な事を言われると困るのよ。邪魔だからここで眠っていなさい』と言っていたので」


 なんて言ったらいい。言葉に詰まる。

 女性が怖いという事だけは分かる。

 魔王という一番の脅威が消えた。今までと同じなら魔族は1度潜むだろう。彼らは無理な闘いはしない。タイミングを伺う為に人に紛れる。

 つまりその間は魔族との争いは起こらず世界は平和になる。

 そうなるとタケシさんと誰が恋人になるか、家族になるかという問題に突き当たったんだと思う。その結果が女性同士の潰し合いだ。


 この世界でも基本は一夫一妻だ。全員を養って幸せに出来るというなら文句はないだろうが、世間の目は優しくないだろう。

 それに彼らは勇者パーティーだ。その後の彼らの動向を気にしている者もいるし、勢力下に置こうと考えた国もいるだろう。

 色んなしがらみがあった筈だ。これに関しては将来的に俺も直面する問題だ。他人事ではない。

 タケシさんに選ばれる為に女性同士で色々な駆け引きがあっただろうな。


「デュランダル一つ聞きたい。タケシさんと関係を持っていたエルフ王女の名前は覚えているか?」

「メリル・ウォン・テルマリアだったと思います」

「2年前に殺されたエルフの女王だな」

「そうなります」


 タケシさんが生きていたのは勇者ロイドの時代だから今から500年ほど前だった筈だ。

 エルフは長寿だから生きている可能性に賭けて名前を聞いてみたが、ダメだったな。

 王女と聞いていたからもしかしてと思ったが。メリルが女王になったのは300年ほど前に魔族に先代を殺されたからだ。

 跡を継いだメリルが300年テルマを統治していた事になる。そんな彼女も魔族に毒によって殺されている。

 魔族によって二代続いて女王が殺されているのもあって、エルフの魔族への憎悪は強い。


「メリルの殺害にシルヴィが関与していると思うか?」

「その可能性は少ないと思います。彼女の性格からそんな回りくどい戦法を取らずに真正面から潰しにいく筈です。それが可能な強さと軍事力を持っていますから」

「強さは分かるが軍事力?」

「シルヴィは死体を操ります。魔族や魔物によって多くの人が死んでいますからね。操る死体に困りませんよ。

かつては万を超えるアンデットを軍隊として駆使したと聞きます」

「とんでもないな」


 それが四天王の強さだとするとこれから俺たちは万を超える敵と闘う覚悟をしないといけないのか。


「タケシさんがいれば良かったな」

「流石に死んでますよ」

「そうだな。シルヴィについて分かってる事を教えてくれるか」

「はい!」


 タケシさんに惚れ味方となった四天王も今は敵だろう。魔法使いがした事を彼女が許すとは思えない。彼女は敵だ。

 なら、対策を練って倒すだけだ。今日も遅くまで起きる事になりそうだ。

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