24.恋愛脳

 どうやら俺はダルと相思相愛らしい。

 それを否定しようとは思わない。思いの差はあるだろうがダルに対して好意を持っているのは事実だ。

 異性というより仲間としての好意の方が強いだろうが、変わっていくのが人間である。

 好意を真正面から伝えられて嬉しく思ってる時点でアウトだろう。

 サーシャの好意に対しても嬉しく思ってたな俺。クズじゃないか!カスと言っても過言じゃないぞ!

 このままでは可憐な女の子達を泣かせるゴミクズに成り果てる気がする。

 彼女達の好意に対して真摯に向き合うべきだ。でも魔王の事もどうにかしないといけない。胃が痛い。


 タケシさん、貴方は痴情のもつれで刺されたんですよね? どうやら俺もそうなると可能性が高いので、出来ることなら対処法を教えて欲しいです。

 今すぐにでもデュランダルに相談したい所ではあるが、今俺の前には心配そうにこちらを覗き込むダルがいる。


「大丈夫かカイル? 何やら苦しそうじゃが?」

「大丈夫だ。少しばかり不安事があってな。考えていたら顔に出たんだろう」

「不安事か?それなら我に打ち明けたらどうだ?

家族には隠し事をせずしっかり話すのが夫婦円満のコツだと母が言っていた!」


 もう夫婦という事になってる。

 俺断ったよな? 魔族の問題が解決するまではって遠回しであったけど。

 言い方を間違えた気がしてならない。今のうちに訂正しておこう。このままでは取り返しがつかない気がする。


「ダルフィア、俺たちはまだ夫婦ではないぞ」

「カイルは我に好意を持っていて、我もカイルを好いておる。

魔族の問題が解決すれば我とカイルは伴侶となるのだ。今のうちに練習しておいても良いと思うぞ!」

「すまない。はっきりと伝えなかった俺の落ち度だ。怒ってくれて構わない。

俺はダルフィアに好意を抱いていると言ったが、異性と言うよりも仲間に対してと意味なんだ」

「うむ」


 嬉しそうな顔が一変して不満そうな顔だ。

 間違えたか? いやここでしっかり否定しておかないと不味い。攻めろ俺。


「将来的にはダルフィアを好きになるかも知れないが今はまだ分からなくてな。すまない」


 頭を下げて謝る。必要なら土下座もしよう。

 最悪殴られても構わない。ダルの好きなようにしてくれ。

 30秒くらい経ったか? ダルは何も言わないし、動いた様子もない。心配になって顔を上げると視界には不満そうなダルの顔が映る。


「カイル、我は不満だ」

「俺のせいだな、すまない」

「だが許す。我は気が長いのだ!

まだカイルが我を好きか分からないのなら、我を好きにさせるまでよ!」

「好きになるか分からないぞ」

「既に仲間として好意を抱いているのじゃろう?

なら、我の良さは知ってる筈じゃ。後は女としての魅力を魅せるのじゃ!」


 腰に手を当ててハッハッハとダルが笑う。いつもの調子だ。

 100点ではないが、誤解は解けたから60点って所か。あのまま否定してないよりは遥かにマシだ。

 否定しなかった場合のトラさんとサーシャがどういった行動を取るか予想出来ないから怖い。

 そういえば、ダルに言わないといけない事を忘れていた。早めに共有しておかないとな。


「ダルフィア、話は変わるが俺から一つ言いたい事があるんだ」

「む? 我に対する愛の言葉か?」

「すまないが違う」

「そうか…」


 口を尖らせて不満そうだ。

 言っては悪いが彼女は随分と恋愛脳だ。俺たちの目的は魔王討伐の筈なんだが…。

 真剣に考えているのはもしかして俺だけか?そんな事はないと信じたい。


「今日、ノエルに会いに教会に行ってきた」

「ノエルか!元気にしておったか? ずっと引き篭っているから我も心配していた」

「あぁ元気そうにしていたよ。そこでノエルと情報の共有をしてな、5日後に町を出発する事になった」

「という事は何か分かったのじゃな」

「そうだ。クロヴィカスの居場所が分かったらしい。

ノエルが今情報を整理してくれているから、前日に教会に集まって方針決めてから動くつもりだ」

「クロヴィカスか…」


 形のいい眉がつり上がっている。共通の認識としてクロヴィカスに対していい感情を持っていないようだ。

 彼女の場合はベリエルに思うところがあるのかも知れない。

 殺されたのは彼女と同じ魔族と人間のハーフの子供だ。魔族と人間のあり方と対立関係を嫌という程見せつけられた筈だ。

 この先ダルは魔族の血と向き合わないといけない。出来れば俺はそれを隠し通したい。

 ダルに不幸になって欲しくないし、何より俺と王様胃痛フレンドの為に。


「それともう1つ。サーシャと俺が聞いた情報で、改めてノエルに伝える事がある。

それを先にダルも聞いておいて欲しい」

「四天王の事か?」

「あぁ、そうだ。情報屋から四天王の姿を見たと聞いた」

「我も聞いたぞ!」

「そうなのか?」


 どうやらあの酔っ払いの情報屋は色んな所にいたらしい。お酒を奢ることでダルも教えて貰ったのだろうか?

 何にせよ説明を省く事が出来るのは助かるな。一応念の為に聞いておくか。情報に相違がないなら情報屋の話は信じてもいいと思う。


「ダルの聞いた四天王の情報を教えてくれないか?」

「うむ、構わないぞ」


 俺と同じ情報ならデケー山脈で四天王の1人『赤竜』のドレイクを見かけたというものだ。


「我が聞いた情報ではクレマトラスで『不死の女王アンデットクイーン』シルヴィ・エンパイアを『レグ遺跡』で見つけたそうじゃ」


 知らない情報だ。聞いた事がある名前が聞いた事がある場所にいる情報だ。

 俺がデュランダルを抜いたせいで解放されたとされるシルヴィの情報じゃないか! いや、既に結界は破られていたって言ってたよな?本当か?教えてくれデュランダル。

 聞いた所でダルがいるから答えてくれないか。

 そうだデマの可能性はないか? 真偽をまず確かめよう。


「その情報は信用出来るものか?」

「うむ、我が国の諜報部隊が掴んだ情報らしい。既にクレマトラスにも伝えているそうだ」

「そうか」


 ドレイクの情報より間違いなく正確なものだろう。クレマトラスにもわざわざ伝えるのだ。真偽をしっかり確認しただろう。

 つまりクレマトラスにシルヴィがいることになる。ドレイクがデケー山脈にいる情報も正しい情報なら、不味い事態だ。

 今まで情報も掴めなかった四天王が動き出した事になる。魔族も大きく動くつもりか?

 どうする、どれから対応すればいい?

 クロヴィカスは放っていけないだろう。だがおとぎ話でも聞かされる四天王の強さは並大抵のものではない。対抗出来る戦力は限られるだろう。


「ダル、俺たちが掴んだ情報は赤竜のドレイクをデケー山脈で見かけたというものだ」

「む!という事は同時に四天王が2人見つかった事になるのか?」

「そういう事になるな。ノエルの情報を整理してからになるが、次の闘いは厳しいものになる可能性が高い。

5日後に出発出来るようにしっかり準備しておいて欲しい」

「うむ、分かったのじゃ!」


 これでダルには伝えた。後はトラさんだな。今日伝えに行くには少し遅いか。

 明日の朝にトラさんの部屋に行こう。あの人は起きるのは早いから部屋に行けば会える筈だ。


「カイルが寝るまで傍にいて良いか?」

「別に構わないが、寝る時は部屋に戻ってくれると助かる」

「一緒に寝てはダメか?」


 上目遣いで甘えてきてる。可愛いと思ってしまった。この誘惑に乗ってはダメだ。

 理性を保て俺!


「俺の理性が持たないから勘弁してくれ」

「襲っても良いのだぞ」

「正式にお付き合いしてからで頼むよ」


 ダルは不満そうだ。ほんと勘弁してくれ。

 体の関係なんて持ったら結婚までノンストップじゃないか?

 今はそれどころじゃない。


 1度情報を整理してみるか? 魔王の証拠ははっきり言って掴めていないが、人数を絞り込む事は出来る筈だ。

 魔族が大きく動こうとしているのだ。それまでに候補を絞っておこう。魔族の動きに合わせて魔王もまた動きを見せると思う…。


「カイル、それならキスして欲しいのじゃ」


 とりあえず目の前の彼女は違う気がする。こんな恋愛脳の魔王がいたら嫌だ。


「正式にお付き合いしたらな」

 

 俺の返答に不満そうな声を上げるダルに思わずため息をつく。

 俺が寝るまでというより、ダルが満足するまで付き合う羽目になった。





「マスターも前のマスターと同じ末路になる気がします」


 ダルが出て行った後、沈黙を保っていたデュランダルが言った。

 ───どうやらタケシさんは4人の女性と関係を持って大乱闘を巻き起こしたらしい。

 タケシ!

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