25.蓄積のデメリット
「タケシさんはそんな大乱闘になったのか?」
「女性たちに揉みくちゃにされて、青痣だらけになってましたね。刺されはしなかったですが」
「つまり刺されたのは別の時か?」
「その後になりますね。その時の大乱闘した女性以外にエルフの女性と仲良くしてまして、その人に刺されてました」
つまり5人か!? タケシさんめちゃくちゃモテてるじゃないか?
5人か。俺もパーティーのみんなから好意を寄せられている場合同じになる。流石にそれはないだろう。
「タケシさんは上手く立ち回れなかったか」
「前のマスターは女性にだらしない方でしたからねー。以前モテなかったから我慢出来なかったなんて言ってましたね」
「悲しい男の性だな」
以前、つまり前世か。
その結果5人の女性と関係を持って大乱闘と刺される程の修羅場か。怖いな。
俺もそうなる可能性が少なからずある。気を付けよう。ほんと気を付けよう。
「デュランダル。聞きたいことがあるんだがいいか?」
「レグ遺跡と魔力の蓄積の件ですね?」
「そうだ。話が早くて助かるよ」
「一緒に聞いていましたからねー」
こういう時変に説明しないでいいから助かる。
後でデュランダルに相談する時も一緒に聞いているから、非常にスムーズに進める事が出来る。
俺が聞きたいのは3つ。レグ遺跡の封印について。シルヴィが復活したのが俺が原因かそうでないのかが気になって仕方ない。
もう1つは魔力の蓄積について。それが本当に可能なのか? そして今まで何故言わなかったかを聞きたい。
最後に聞きたいのはタケシさんの事だ。勇者パーティに参加していたのもそうだが、女性との交友のアドバイスを貰おうと思ったが期待出来そうにないので、勇者パーティとして活躍していた時の話を聞きたい。
「まずはレグ遺跡についてお話しましょうか」
「あぁ頼む」
「マスターが懸念されている事から答えますね。結界についてですがマスターが抜く前から破られてました」
「そうか」
良かった!ほんとに良かった。
俺のせいで四天王が復活してクレマトラスを襲っているなんて、正直シャレにならない。
前に聞いてはいたが改めて安心した。
「デュランダルが覚醒したのは俺が抜いてからじゃないのか? 結界が破られたとかそういうのが分かるのか?」
「私は結界が礎としてあの地に刺されました。言ってしまえば私は結界の土台です。その上にある結界が消えれば直ぐに分かります」
「そういう事か。誰に破られたかは分かるか?」
「申し訳ありません。そこまでは分からないです。ただ純粋な
四天王を封じるほどの結界を無理矢理か。やはり魔王の可能性が高いか?
魔王もまた先代の勇者によって封印されていた筈だ。魔王が自力で破ったのかそれとも誰かが解いたのか。
それについても追々、確認しないといけないな。一つ俺の中の不安事が消えたから良しとしよう。
「魔力の蓄積についてだが、俺に言わなかったのは何故だ?」
「それに関して私の認識が間違えていたと思います」
「認識の間違い?」
「はい。私はマスターは魔法を使わない方だと思っていました。私を抜いてから5年ほど経ちますが1度も魔法を使った事がなかったので、魔法を使わない前衛なのだとばかり」
「タケシさんは? 彼も魔力が少なかったと聞くが」
「前のマスターの場合は魔力は少ないですがちょっとした魔法が使えましたので、蓄積の能力を使ってみてはどうかと提案しました」
「そういう事か」
魔法を使わない者にわざわざ魔力の蓄積を提案しないか。
俺はもう魔法が使えないものと判断していたから、魔法を使う努力すらしてなかった。
剣を使って闘う姿しか見てないデュランダルがそう判断するのも仕方ないか。
一つ疑問に思った事がある。確かに俺は魔法を使わないが、魔力を使って斬月を飛ばしたりはする。蓄積した魔力があればより効率的に使えたんじゃないか?
「一ついいか? 確かに俺は魔法を使わないが、戦闘で魔力は使うぞ。
蓄積しておけば魔力不足に困る事がないと思うのだが」
「それに関してですが、今までマスターが戦闘で魔力切れを起こした事がないのが大きいです。
私が提案するまでもなく、マスターは魔力コントロールが上手だったので戦闘では常に魔力に余裕がありました」
「魔力を使うと言っても剣術の方がメインだったからな。戦闘で全て使う事はなかったな」
「はい。それと今から蓄積を使うマスターには言い難い事が一つ」
「言い難い事?」
デュランダルに言われると凄い嫌な予感がするんだが。
なかなか言い出さないのも不安になる。
「蓄積は便利ではあるのですが」
デュランダル言い淀んだ。これは不味い事か?
「その、脱力感が凄いです。」
「脱力感?どういう事だ?」
「蓄積はマスターの魔力を少しだけ貯めるのではなく、持っている魔力全てを貯める形になります。
体全体から魔力を引っ張っていく形になるので、全力疾走をした後みたいな疲労感が襲う事になります」
「少しだけは出来ないのか?」
「すみません、細かい調整が出来なくて」
「つまり、蓄積をする度に全力疾走した後みたいに疲れるのか?」
「そうなります」
なるほど。デュランダルが言い淀む筈だ。
俺に考慮しているのもあるか。魔法を使う為なら提案しただろうが、余裕を持って魔力を使って闘ってるならわざわざ持ち主が疲れるような提案はしないか。
「どれくらい疲れるか感覚が分からない。1度蓄積を使ってもいいか?」
「物凄い疲れますが、大丈夫ですか?」
「構わない。どの道使うつもりだった。それが早いか遅いかだ」
「わかりました。では私のグリップの部分を両手で握ってください」
デュランダルに言われた通りにグリップを両手で握る。
「いきますよ」
デュランダルの言葉と共に頭の毛から足のつま先まで体の至る所から、グリップに向かって魔力を吸い出されるような感覚が俺を襲う。
目眩がするほどの疲労感に体が崩れそうになるが、デュランダルを杖にしてどうにか耐える。
「マスター!大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…思っていた…より…キツイな」
喋るのも正直しんどい。全力疾走と脱水症状を同時に味わっているようなそんな感じだ。
体から魔力を吸い出されるのがこんなにキツイとは思わなかった。
「普段、人は意識せずに魔力を体内に巡らせて身体の補助をしています。
蓄積を使えばその補助に回している魔力まで全て吸い取る形になるので、疲労感は凄まじいと思います。」
「魔力がスッカラカンの状態が…これか…」
「通常の魔力切れとは少し違いますが、似たような感じですね。正直マスターを傷付けるみたいでこの能力は好ましくないです」
「デュランダルの配慮が…よく分かったよ…。
すまない、少し…時間をくれ」
「はい。ゆっくり休んでください」
甘くみてたのはあるな。ここまでキツイとは。
デュランダルを杖にしながらベッドまでどうにか歩き、倒れるように寝転がる。
体を動かす元気すらない。このまま寝てしまいたい程だ。蓄積をする時はこれからベッドの上でしよう。
疲れる果ててそのまま寝るくらいでいい気がする。戦闘がある時は絶対に出来ない能力だな、これは。
時間にして5分、あるいは10分くらいか。魔力が少し回復したのだろう。先程までの疲労感が嘘のように消えた。
今のが魔力切れの感覚なのだろう。正直もう味わいたいものではない。だが『メテオ』を使う為にはこれを何度もしないといけない。
すまないサーシャ。魔法を使う前に心が折れそうなんだが。
タケシさんはこれを何度も行ったのか?
彼が勇者パーティーの一員になれた理由が分かった気がする。これを耐えられるだけの精神力を持っていたのだろう。
寝ている状態から起き上がるとデュランダルが話しかけてきた。
「前のマスターも蓄積を使う度に疲れ果ててました」
「タケシさんもか」
「はい。前のマスターは『この疲労感はダイエットに効く』と喜んでいましたが」
───タケシさん。俺は貴方がよく分からない。
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