7.胃痛フレンド
フリーの傭兵として活動する俺だが、拠点を置く場所として一応所属している国がある
それが『火の王国アルカディア』。
魔王の脅威をどの国よりも早く理解し、対抗する為に世界各地から名の知れた実力者を集めた、言うなれば勇者パーティー発端の国だ。
国としての特徴を上げるならその名の通り『火』。
国民の殆どが魔法の属性適正が火属性であり、火属性を使う優れた魔法使いも多く在籍する。
火属性最強の魔法として知られる『メテオレイン』扱えるバリバリの武闘派、ガラティア・ウォン・フィンガーランドが治める国として知られている。
「念の為、ダルの父親の名前を聞いてもいいか?」
出来れば嘘であって欲しい。
ただでさえ胃が限界なんだ。これ以上胃痛の種は増やしたくない。
頼む!違ってくれ!
「我の父の名はバルディア・ウォン・フィンガーランドじゃ」
自慢気に語るダルの発言に目眩がした。
大臣の名だ。王様の弟で、敏腕で知られる大臣の名だ。
認めよう彼女は王族だ。愛人の子であるから庶子として扱われるだろうが…。
そこまではいい。良くないないけど、まぁいい。
問題なのは母親が魔族だと言うことだ。
魔族と王族の間に産まれたハーフの王女。どう考えても国としてトップシークレットな問題だ。
ただでさえ魔王が復活し、魔族の脅威に世界が怯えている状況なんだ。
彼女の存在が知られれば国を揺るがしかねない。
「なぁ、ダル一ついいか?」
「なんじゃ?一つと言わず幾らでも聞いてくれて構わんぞ
カイルの質問に我が答えよう!」
少し前までの緊張感はどこへやら。
違った意味での胃痛が俺を襲っているので、今のやり取りも少し苦しいが気にするな話を進めろ。
「ダルはアルカディア王国の王女で間違いないか?」
「公のものとしては公表はされてないが、王様は我も王族の一員として扱ってくれているぞ!」
「王族である事を明かすなとか言われてない?」
「うむ、父と王様が万が一があるから本当の名前は名乗らずに行けと言っていたな。」
「魔族のハーフだと言う事はバレないようにって注意されなかったか?」
「それについては父や母、それと王様にも言われたな」
「そうか…」
「うむ!」
───なんで俺に言った。
いや、聞いたのは俺だがこんな情報なら知りたくなかった。
なんでこんな形で国の秘密を知るんだ。小庶民が知っていいような情報じゃないぞ…。
一応勇者パーティーではあるけど、所詮フリーの傭兵だぞ俺。
「カイル、我も一つ聞いてよいか?」
「あぁ、構わないぞ」
不安気な表情だ。これ以上何を言う気だこいつ。
「我は魔族とのハーフじゃ。カイルはそれが怖くないのか?」
違った意味で怖い。
もしこれが他国にバレた時が特に怖い。
「怖くはないさ。ダルが魔族のハーフだろうと、魔族であろうとこれまで一緒に闘ってきた仲間だ
信頼してるよ。これからもずっと」
それは嘘偽りない俺の本音だ。ダルは信頼していい。
痩せ我慢でダルに微笑めば彼女は目を見開き、両目に涙を貯めていた。
不安だったと思う。
明るく話してはいたが、無理をしているのが分かった。こちらに向けてくる視線に恐れがあった。
彼女が怖ったのはきっと拒絶だ。自分の事を仲間に受け入れて貰えない。それが1番怖かったんだと思う。
「カイルぅぅぅぅ!」
バッとベッドに座っていたダルが飛びついてきた。
身構えていた事もあり、2人揃って倒れるような事にはならなかった。
「カイル…」
「どうした?」
俺の胸に顔を埋めながらダルが俺の名を呼んだ。鼻水とか涙が俺の服に染み込んでいるが気にしないようにしよう。
「本音を言うと我は怖かったのじゃ。魔族の血を引くことを人に、カイルに打ち明けるのが…」
「ごめん、無理をさせてしまったな」
「良い、カイルに嘘をつくのも騙す事も我はしたくなかった。カイルには正直でいたかった…」
「ありがとうダル。辛いのに俺に打ち明けてくれて」
「こうしてカイルに受け入れて貰えた。それだけで我は満足じゃ」
少し涙声ではあるが、声は明るい。
彼女の不安が取り除かれた証拠だろう。俺には現在進行形で不安の種が出来たのだが…。
「この事は誰にも言えないな」
「うむ。王様にもキツく言われておるからの」
なら、なんで俺に言った。
「ふむ!我とカイルの2人きりの秘密じゃな!」
厳密に言えば王様やダルの家族も知っているから2人きりではないが、正直に重たい言葉だ。
なんというか、責任が重たい。
ただでさえ魔王を探すのに苦労しているのに、それに加えて俺は彼女が魔族の血を引く事を隠し通さないといけないらしい。
ダルが魔族の血を引くことがバレた場合のリスクは俺の想定よりデカイだろう。
出来ればサーシャに打ち明けたい。なんというかこちら側に巻き込んでやりたい。あいつが原因だし。
そういえば、なんでダルは魔王討伐に参加したんだ?
庶子とはいえ王様に王族と認められているなら、参加をそもそも止められる筈じゃ?
「ダル…」
「なんだ、カイル」
服から顔を話してこっちを見上げるダルの顔は笑顔だ。
その笑顔が憎たらしい。
「ダルはどうして、魔王討伐に参加したんだ?」
「それは…」
「それは?」
「……カイルと一緒に旅をしたかったから……」
何て言った? 喋ってる途中で服に顔を埋めたからはっきりと聞き取れなかった。俺の名は聞こえたが、どういう事だ?
ゴニョニョ言ってて何を言ってるか分からん。気が付けば耳まで赤くなっている。
「俺が、なんだ?」
「…………」
「ダル?」
少しプルプル震えている。これは怒っているんだろうな。そんな気がする。
ガバッと再びダルが顔を上げた。
「民を傷付ける魔王が許せなかった!だから参加したのじゃ!」
吐き捨てるような言葉だった。これ以上追求しないのが吉だなこれは。
「そうか。ダルは王族だが王様達に反対されなかったのか?」
恐らくされたと思う。
王様やダルの家族の気持ちを考えると国を出てバレるリスクを増やすより、国にいた方が安全だし余程の事が無い限り隠し通せるだろう。
「うむ、反対されたが駄々をこねて振り切った」
「…………。」
何も言えなかった。
王様の気持ちを考えると特にそうだ。
ダルは言ってしまえばアルカディア王国にとって特大の爆弾だ。
その爆弾が自分の手を離れて外に出ようとしている。それはもう困っただろう。
今振り返ってみれば、俺たちを送り出す王様の顔は青ざめていたような気がする。
さぁ行ってこい我が勇者達よと、送り出した時王様の手はお腹に当てられていたような…。
そうか
急に親近感が湧いてきた。
王様もダルの秘密がバレないか毎日ヤキモキしているだろう。そこに俺も仲間入りだ。
タイミングを見てサーシャも巻き込んでやる。今決めた。あいつも目星は付いてると言っていたし問題ない筈だ。
「カイル」
「どうした?」
「我の、本当の名をカイルに知って欲しいのじゃ」
そう言えば彼女の名前は本名でなかった。王族である事を隠す為に彼女はただの盗賊ダルとして旅をしていた。
「我の名はダルフィア・ウォン・フィンガーランド」
「ダルフィア…」
「うむ!今まで通りダルと呼んでくれて構わん。でも2人きりの時はたまにで良い、ダルフィアと呼んで欲しい」
「分かったよ」
ダルが、ダルフィアが嬉しそうに笑った。
色々と胃痛は増えたが一つ問題は解決した。
彼女が魔王である可能性は限りなく低い。ここまでの話全てが嘘で、俺を騙しているとは思えない。
何より
あの時の辛そうな王様の表情が俺を安心させる。
「本当の名前は信頼出来る者にだけ打ち明けていいと言われているのか?」
「いや、バレるリスクが増えるから王様から絶対に言うなとそれはもうしつこく言われた」
必死だな
「でも、誰にも言えないのは辛いだろうと我の母が説得してくれてた。1人にだけ話して良い事となった」
「そうなのか? という事は俺にだけか」
「うむ!生涯の伴侶として添い遂げたい相手にだけ話して良い事になっておる」
───なんで俺に言った。
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