8.デュランダル先生の魔族講座
───自分が何を言ったか理解したのか、顔を真っ赤にしたダルが部屋を飛び出ていった。
つまりそういう事なんだろう。
俺も別に鈍い方ではない。
ダルは俺に好意を寄せてくれている。
何も考えずに受け取るならその好意を俺は嬉しく思う。
彼女は美少女だ。
そんな彼女が顔を赤らめながら微笑んでくる姿に何も感じないと言えばそれは嘘になるだろう。
正直に言おうグッとくる。
男というものは単純なもので、自分に好意が向けられていると思うとそれを悪く思えないらしい。むしろ嬉しく感じてしまう。
とはいえ聞いた内容が重すぎる。
デカすぎる胃痛の種だ。
「道理で彼女の名前を知らない訳だ。国が秘蔵していたのだから当然か」
「王族と魔族のハーフというのはそれだけ重大な問題ですよマスター」
2人きりの秘密と言っていたが、実はもう1人この話を聞いていた
ダルはデュランダルが喋る事も自我がある事も知らないから仕方ないだろう。
そもそも2人きりの秘密じゃないしな。
「デュランダル、お前が考えうる限りでダルの正体がバレた時のリスクはなんだと思う?」
「そうですねー、まず間違いなく隣国である『クレマトラス』は騒ぐと思いますよ。
あの国は魔族によって王妃が殺されていますからね。魔族に対する憎しみは人一倍強いと思います」
「クレマトラスか」
魔族の存在は数年前まではお伽話のような存在だった。ベリエルやダルの母親のように昔から人に扮して身を隠していた魔族も大勢いたようだ。
5年ほど前に魔王が復活したらしいが、それを機に今まで存在自体疑われていた魔族が動き出した。
僅か数年で与えた魔族の被害は人々の心に大きな傷を残した。
それだけに
「クレマトラスの王妃を殺した魔族は長年仕えた侍女だったらしいな」
「はい、国王が赤子の頃から仕えていたらしく国王もその侍女を信頼していたそうです。
王女の世話も任されていたのでその信頼が伺えます」
「それだけ信頼していた侍女に裏切られて王妃を殺されたのか…。やるせないな」
フリーの傭兵として活動していた時にクレマトラスに滞在した事がある。
流石に多少名が知られてる程度の傭兵でしかなかったので、国王に会う機会はなかったが国民たちから国王や王妃が慕われているのは十分に分かった。
それだけに王妃を殺した魔族への憎しみは大きく、国全体が魔族を憎んでいると言ってもいい。
「クレマトラスに知られるのは不味いな」
「不味いですね。ハーフとはいえ魔族ですからね。
こちらの事情なんて知った事ではないですし、彼らにとっては憎むべき敵でしかありませんので。
彼女を殺す事を望むと思います。最悪の場合は彼女を巡ってアルカディアと戦争になる可能性も」
思わずため息が出た。
その可能性があるのなら尚更知られる訳にはいかない。クレマトラスにも、魔族にも。
魔族に知られるのが最悪のパターンだ。奴らがダルの秘密を知れば人同士で殺し合いが起きるように煽るのが目に見えている。
「それとエルフの治める『テルマ』も要注意ですよ
彼らは魔族を不浄のものとして扱ってますから」
「となると神官だな…。」
教会に仕える神官の殆どはエルフだ。
彼らが信仰深い種族であるのもそうだが、神官になる条件に属性適正が『聖』属性でなくてはならないというのがある。
これに付いては免除する事も出来るのだが、その場合は神への信仰を示す試験を受けないといけないらしい。
話が逸れるのでそこは省くとして、エルフの神官が多いのは彼らの種族が聖属性の持ち主が産まれやすいからだ。
エルフ全体で言えばおよそ9割が聖属性の使い手だと言われている。
それ故に神に選ばれた種族だと、彼らは公言しているのでタチが悪い。
差別的な発言も目立つし、聖属性を使えない者を見下す傾向がある。
光の対である闇を扱う魔族を特に毛嫌いしており魔族は世界にとって不浄な存在であり、この世界に存在してはいけない種族だとエルフは決めつけている。
まず間違いなくハーフの存在は許さず殺そうとするだろう。
下手したら異端審判なんてものが行われて公開処刑まで有り得る。
「ノエルさんは大丈夫だと思いますが他の神官には注意を払った方が良いと思いますよ。」
「そうだな、俺の方で気を使うよ」
俺たちの仲間にもエルフの神官がいるが、彼女は大丈夫だろう。
人間の事を嫌ってはいるが、一緒に旅してきた仲間に対しては情があるみたいだし。
それでも教会の上の指示があったら何が起きるか分からないから最低限の注意は払っておいていいだろう。
「あのツンデレエルフさんに魔法を使う所を見られずに済んで良かったですね」
「ツンデレなんて言葉をどこで知ったんだ?」
「前のマスターから教わりました!」
───タケシ!
デュランダルが言うように魔法を使う所をノエルに見られなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
あの時彼女は風邪を引いて宿屋で休んでいたからな。逆に言えばあの時ノエルがいればダルが魔法を使う必要はなかったかも知れない。
あの戦闘では明らかに1人足りてなかったのが大きかった。
「ダルさんの魔法をハッキリと見ていたのがマスターとサーシャさんだけですからね」
「見てしまった事を今後悔してるよ」
「諦めましょう!」
あの時の戦闘は良く覚えている。
回復役の重要性を嫌というほど身に染みた闘いだ。
俺と一緒に前衛を務めるトラさんは敵の攻撃から勇者を庇って気絶したし、ダルの魔法がなければあの時サーシャは間違いなくやられていた。
ダルの魔法で相手が怯んだからこそ、勇者の聖剣が相手に届いた。
苦い思い出だ。
「さて、マスター。一応幾つか上げましたが基本的には魔族のハーフに対しては友好的な反応を示す方は少ないと思いますよ」
「やっぱり、そうなるよな」
「はい。ベリエルのような魔族もいない訳ではないですが圧倒的に少数派です。
それに大多数の魔族が齎した被害が大きすぎて、魔族は世界の敵というのが共通の認識になっていますから」
ダルに『闇』属性の魔法は今後一切使わないように言っておかないとな。
幸い魔法さえ使わなければ魔族とバレるリスクは格段に減る。
人と魔族のハーフだからかダルには魔族の特徴的な尻尾や翼はない。
魔法以外でダルの正体がバレるとしたら、神官の使う『審判』の魔法をくらった場合だろう。
───魔族はその姿を人に擬態し人の中に紛れている。
人に紛れた魔族を見つけ出すのは非常に困難だ。
誤って魔族ではない無関係の人間傷付ける訳にはいかない。数少ない判別手段として神官の魔法が挙げられる。
神にその身を捧げた者のみが使えるとされる魔法『審判』。
邪な感情や悪意を持つ者のみを傷付けるとされる裁きの光で対象を焼き払う魔法だ。魔族には必ず効くとエルフは豪語している。
実際に『審判』を使って幾多の魔族を見つけ葬ってきたので間違いであるとは言えない。
「魔族は共通の敵か。なぁ、デュランダル 。
何故、魔族は
「それは魔族がかつて、人間やエルフ達に虐げられたからですよ」
ん?
「今ほど力を持たなかった魔族を人間やエルフは奴隷として扱い、国の発展や繁栄の為に酷使したとか」
あー、はい。なるほどね。
「不当に扱われ、尊厳すら踏み躙られその苦しみに耐え続けている時に魔王と呼ばれる先導者が現れ、人間やエルフに反逆したのが始まりだったと思います」
───人間とエルフの自業自得じゃないか。
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