第4話 紹介された相手はオネエさん!?
登録してしまった。帰って一度考える、くらいはしてよかったのかもしれない。
相談所を出ると急に現実の戻った気がした。
西原の熱意に押された。と、言ってしまえば詐欺みたいに聞こえてしまうかもしれない。
だが、決断したのは紗奈子だ。
普通の結婚相談所よりも費用が結構安かったというのもある。お試しで入会してみるのもいいかと思ってしまった。西原は入会したからにはしっかりサポートさせて頂きますと自分のことのように意気込んでいた。最初は業務的に接する人かと思ったが、話してみれば、親身になってくれそうな人だった。相談するには良さそうかもしれない。結婚相談所はカウンセラーとの相性も大事だと書かれていたのを見たから、その点については外れではないと信じたい。
システムとしては、相談所側が検討した上で条件が合うと思った会員を紹介してくれる。大手のように自分で相手の検索が出来るわけではない。紹介された相手と、お互いに会いたいと思えば相談所の中でお見合い(?)が行われる。
そこから、合っていないと思えば断りを入れ、お互いに納得出来ると思えるような相手ならそこから何度か会ってみて、お互いに合意が出来れば結婚に進む。婚姻届を出すか出さないかは話し合って決める。結婚にあたって必要であれば、契約書も交わす。これは相談所が仲介もしてくれるから安心だ。
後はどんな人が紹介してもらえるのかだ。不安ではあるが、ちょっぴりだがわくわくもする。これは結婚に対する気持ちではなく、あれだけ紗奈子に寄り添ってくれるようなことを言っていた西原に対する気持ちだ。
とにかく、一歩は踏み出してしまったのだ。
もう悩んでいても仕方がない。
◇ ◇ ◇
紗奈子は戸惑っていた。
入会して数日後、西原から条件に合う人がいるので一度相談所まで足を運んでもらえませんかと連絡が来た。おおざっぱなプロフィールはその時にわかったのだが、詳しい情報は個人情報の観点から直接相談所でしか教えてもらえないことになっている。
で、来てみたはいいのだが、
「ええと?」
今、見せられている写真がどうにも頭に入ってこない。最初は西原が間違えたのだろうかと思った。しかし、プロフィールにある名前は確かに男性のものだ。もしかして、名前と写真が間違えて登録されているのだろうか。歳は紗奈子よりも一つ上の二十九歳。さばさばしていそうで、友人として付き合ったら楽しそうなのは写真から伝わってくるだが、
「あの、この写真。とてもお綺麗な方ですね」
「私もそう思います」
西原と顔を見合わせて、にっこりと微笑み合う。
間違えているのなら、きっと最初にカウンセリングしたときのように慌てるところだ。ということは、間違っていないということで、
「この方、男性ですか?」
「その通りです」
西原は当たり前のように答える。
「なるほど」
それで、紗奈子も当たり前のように頷いてみた。
言われなければわからない。どう見ても、お見合いの相手として紹介されている写真には女性が写っている。男性だと言われて、失礼かなと思いながらもまじまじと観察してみる。
「クオリティ高いですね」
思わず唸る。
「とてもお綺麗ですし、条件としても本田様とはかなりマッチしていると思います」
「は、はあ」
さすがに面食らった。テレビでたまに見る実はドッキリでした、みたいなオチがあっても今なら信じられる。
確かに綺麗だ。それに、相手の容姿に関しては清潔感がある方がいいとしか言っていかなかった。それでも、突然こういう相手を紹介されるとは思わなかった。
「ご友人のように付き合える方がいいとおっしゃっておりましたので、性格的にはとても合うと思うのですが」
確かに言った記憶がある。最後に付け足した、契約として以外の条件だった。一緒にいて不快にならない人という条件。あれから西原と更に話して、友達のように付き合える人がいいと希望を出したのだった。
これは親を安心させたいというのとは別で、どうせ一緒にいるのならそうやって付き合える人がいいと思ってのことだった。一人でいると時々さみしくなる感覚。そんなときに、誰か一緒にいてくれる人がいてくれればいい。そう思ってのことだった。
想像を超えていた。
これまでの紗奈子の人生では、そういう男性とは今まで会ったことがない。
しかし、
「あの、一度会ってみてもいいでしょうか?」
思い切って口に出してみた。
「本当ですか!?」
ぱっと西原の顔が輝く。
「はい」
紗奈子は即座に頷いてしまう。
「しっかりした人なんですよね?」
「それはもちろん!」
念押しすると、弾んだ声で西原が答える。
「話してみると、とってもいい方なんです。お仕事もしっかりなさってますし」
プロフィールに目を落としてみると、職業には美容師と書かれている。確かにしっかりしている。パッと見ではおかまバーなんかで働いているかと思ってしまった自分が情けなくなった。偏見はよくない。
別にこの人と前のめりに契約結婚まで進む気があったわけではない。ただ、興味を抱いてしまった。
それに条件がぴったり合う人というのはなかなか難しい。
西原と話していてわかったのだが、契約結婚と言っても条件は様々らしい。恋愛感情はなくても子どもは欲しいとか、まあ色々だ。人によって様々な事情があるのだろう。だから、条件が合う人の中から更に性格も全て合う人、というのはかなり難しいと知った。
思ったよりも道は険しいかもしれない。だが、まだこの紹介所には入ったばかりだ。せっかく入会したのだから、普段は会えないような人に会ってみるのも面白いそうだ。
それに、西原が冗談で紹介しているようには見えない。一度も会わないで断ってしまっては、相手のこともわからない。
とにかく、紗奈子は彼に会ってみることにしたのだった。
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