第7話 困った時は助け合おうぜ!

 翌日の朝。

 溝口辰樹みぞぐち/たつきが朝起きてリビングに向かった時には、妹の杏南あんなは食事を終えていた。

 既に制服に着替えており、いつでも学校にでも迎える状況である。


 妹が家を出て行った辺りから食事を初め、すぐに済ませると、辰樹も学校へと向かう事にしたのだ。


 今日は、妹の件について相談したいことがあった。

 辰樹はその事について、通学路を歩きながら考える。

 それに関しては早々に解決しておきたかったからだ。

 だが、誰に対して相談すべきか。


 相談すると言っても、そこまで友人関係が幅広いわけでもなく。だからこそ、辰樹の中では大体目星はついていた。


 陰陽寺名子おんみょうじ/なこにでも話そうと思い、学校に到着するなり、辰樹は学校の廊下を歩いて教室に向かう。


 教室に足を踏み込んだものの、八時を少し過ぎた時間帯では、名子の姿はなかった。


 今日は早く来すぎたな。


 そもそも、妹が自宅を後にする時間が早かったのだ。

 もう少しゆっくり目でもよかったかもと、辰樹は思いながらも一先ず席へ向かい、椅子を引いて座る事にした。


 教室内を見渡すが、山崎晴香やまざき/はるかの姿もない。

 教室には、まだ四分の一くらいの人しかいなかった。


 暇だし、名子に連絡するか。


 そう思い立ち、辰樹は席に座ったままスマホを弄るのだった。




 辰樹が席に座っている時だった。


「あ、居たか」


 その声には聞き覚えがある。

 スマホから顔を離すように上げると、教室の入り口付近のところには昔からの友人が佇んでいたのだ。


「お前って、今暇?」


 入り口に佇んだまま、友人の進藤颯しんどう/はやてが話しかけてくる。

 彼は、少し陰キャっぽい趣味をしているが、見た目が明るく爽やかな外見をしている事も相まって、陽キャだと思われているらしい。


「暇だけど」

「じゃあ、ちょっといいか。話したいことがあってさ」


 辰樹は席から立ち上がって廊下へと向かう。


「なんの話?」

「それについては別の場所で話したいからさ」

「重要な話なのか?」

「まあ、そんなもんだな」


 そんなに重要な話というのはどれほどのものなのだろうか?


 辰樹は友人と共に階段を下って、校舎一階から出たところにある中庭へ移動するのだった。






「お前は、もう馴染めたか?」


 中庭のベンチに座っている二人。

 辰樹の隣に座っている颯が話しかけてくる。


「いや、まだかな」

「そっか」

「話っていうのは、そういうの?」

「いや、そうじゃないけどさ。俺ら、去年は一緒のクラスだったけど。今年から違うじゃんか。お前の方は大丈夫かなってさ。ただそれだけ」

「いいよ、そういう心配は。それより、君の方はどうなの? 上手くやれてる?」

「そんなこと俺に聞くのか? お前よりは普通に問題はないんだが?」

「だ、だよね」


 友人は比較的明るく、ある程度のスポーツも出来る。

 辰樹よりも知人が多いのだ。


 そんな心配をする必要性もない。

 むしろ、辰樹の方が陰キャ過ぎて、クラスに馴染めるか怪しい感じなのだから。


「まあ、本題に入るとして。これの件なんだけどさ」


 そう言って、颯が水色のデザインをしたチケットを見せてきたのである。


「それって、アトラクションのチケット?」

「そう。俺の知り合いがさ、遊園地を経営してるんだけど。新しいアトラクションをつくったらしいんだ。だから、俺が最初貰ったモノなんだけどさ」

「うん」

「その日、どうしても都合が悪くて行けないんだ」

「それで、代わりに俺に?」

「そう。辰樹は時間的に問題なさそうか?」


 颯から問われ、少し考え込んでみる。


 問題はない。

 むしろ、妹をどこに連れて行こうか悩んでいたからだ。


 これは都合がいいと思った。


「問題はないよ。丁度、どこかに行きたくてさ」

「だったら助かるよ。それで、どこかに行くって誘う相手がいるとか?」

「一応ね」

「誰?」

「妹なんだけど」

「妹か。杏南ちゃんとはどうなったんだ? 関係は改善されたか?」

「いや、まだだけど。少しはよくなった感じ」

「そっか」


 颯は少しだけ難しい顔を見せていた。


「そういや、あの子もこの学校に通ってるんだよな」

「そうだけど」

「昨日、チラッと見かけてさ。もしやと思ってて」

「見かけたの?」

「ああ。他の子とも普通にやれてる感じではあったけどさ」

「妹が?」

「ああ、お前よりな」

「それは一言多いよ」


 辰樹は友人からのセリフにツッコんでおく。


「じゃあ、問題はないな」


 颯は意味深な口調になる。


「何が?」

「いや、こっちの話。それで、杏南ちゃんとの関係性を修復したいならさ、俺も手伝ってあげようか?」


 友人の方から提案してきた。


「俺、昔からあの子とは仲が良かっただろ?」

「そうだけど。でも、今回は俺一人で改善したいっていうか」

「お前一人で改善できたことってあるか?」

「いや、ないかも」

「だったら、俺に頼れって。杏南ちゃんとの関係性を修復するなら、なんでもしてやるからさ」

「ありがと。それは嬉しいんだけど……」


 辰樹は苦笑いを浮かべる。


「他に要望があれば、遊園地の知り合いに伝えておくけど」


 なぜか、颯は優しかった。


 昔から親切な人ではあったが、どこか雰囲気が変わったような気もする。


「それで、遊園地の件は、俺から杏南ちゃんに伝えておく?」

「いいよ。多分、妹の方も他の人には聞かれたくない事だと思うし」

「そっか。じゃ、頼むな。他にわからないことがあったら、俺に連絡してくればいいから」


 友人は辰樹の肩を叩き、ベンチから立ち上がる。


「それでさ。颯の用事って何?」

「それはまあ、色々と」

「え?」

「まあ、簡単に言えば、部活関係の事があるんだよ、練習試合的な」


 颯は中学の頃からずっとサッカーをしている。

 どちらかと言えば、陽キャ寄りの思考をしているのだ。

 なのに、辰樹と会話が合うのは珍しい。


 ただ、颯とは街中のゲームセンターで接点を持ち始め、ゲームで繋がった仲間である。

 珍しいかもしれないが、一応、共通の趣味があるのだ。


「ま、そういう事で! 遊園地のアトラクションについての感想は俺にでも言ってくれれば、後で知り合いに伝えておくから」


 颯はそう言って校舎の方へ向かって歩いていく。


 辰樹の手元には遊園地のチケットがある。


 奇跡というべきか、妹と一緒に行くのには打ってつけの場所だ。


 後で妹の杏南に伝えておこうと思い、辰樹も校舎の方へ向かう事にした。


 校舎の廊下を歩いていると、目の前から隣の席の彼女が歩いてくることに気づいたのだ。


「おはよう、名子」

「おはよう。今日は早いね」

「そうなんだよね」


 階段前でバッタリと出会った二人は話し始める。


「何かあった?」

「いや、たまたま。本当は名子に話したいことがあって。本当はメールで相談するつもりだったんだけどな」

「なに? どんなこと?」


 名子は話に食いついてくる。


「いや、もう解決してて」

「そうなんだー、今日私が早く学校に来てれば相談に乗れたかもって事だよね。私、今日早く出たんだけど。途中で家に忘れ物した事に気づいて、結果的にいつもと同じ時間になっちゃったんだよね」


 と、名子は残念がっていたのだ。


 それから二人は、目の前の階段を上って、いつもの教室へと向かって行くのだった。

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