第4話 約束だからね、お兄ちゃん!
そして、左隣にはクラスメイトの春香がいるのだ。
同じベンチに座り、昼食をとることになったのである。
女の子の弁当を食べるのは、人生で初めてかもしれない。
心を躍らせながらも、弁当の内容に少しだけ期待を膨らませていた。
「今日のお弁はこれね!」
晴香は彩の良い、サンドウィッチを作って来たらしい。
綺麗に並べられた状態で、弁当箱の中に引き詰められていたのだ。
「これどうかな? 辰樹くんはサンドウィッチ好き?」
「うん、好きな方だね、どちらかというと」
「よかった♡」
晴香は笑顔を見せた後、弁当箱からサンドウィッチを右手で取り出し、辰樹の口元へと近づけてきたのである。
「一人でも食べられるから」
辰樹は焦り、全力で拒否する姿勢を見せた。
「でも、私が食べさせてあげたいんだけど」
「それは嬉しんだけど。やっぱさ」
周りを見渡してみると、さっきよりも多くの人がいる。
クラスメイトの誰かに見られているかもしれない状況で、彼女から食べさせてもらう事には抵抗があった。
「そんなに恥ずかしがる必要性はないよ」
「けどさ」
「いいから」
意外と晴香は強引だった。
積極的にサンドウィッチを辰樹の口元へと押し付けてくる。
辰樹はしょうがないと思いながらも口を開いて、サンドウィッチの端を少しだけ噛み、口内に含んだ。
辰樹は咀嚼する。
こ、これは――
「どうかな?」
隣に座っている彼女は首を傾げ、辰樹からの評価を求めているようだ。
「普通に美味しい気がする」
「でしょ」
「でも、なんでこんな上手なんだ?」
「私、家が料理関係の仕事をしてて。昔からね、両親から料理の作り方を教えてもらっていたの」
「そうか……だからか。味付けも、サンドウィッチの中にある具材もそうだけど。普通に美味しいし、食べ応えがあって後味もいいからさ。プロ並みだなって」
「よかった! そこまで評価してくれるとは思っても見なかったから。それね、結構な自信作だから、褒めてもらって嬉しいかな♡」
晴香は満面の可愛らしい笑みを見せてくれた。
「まだあるから、もっと食べてもいいからね」
そう言って、彼女は積極的に食べる事を進めてくる。
誰かの手作り料理を食べさせてもらうのも悪くない気もした。
最初は周囲の視線もあり、内心恥ずかしく感じていたのだが、今では、その緊張感も程よく心を温めていたのだ。
「沢山あるから、気にせず食べていいからね」
晴香の膝元に置かれている弁当箱を見やると、他に五つほどのサンドウィッチがある事に気づいた。
今、辰樹が手に持ちながら食べているのが、タマゴが入ったサンド。
他には、シーチキンサンドや、レタスサンドが視界に入る。
彼女が作るサンドウィッチは一つ一つのクオリティが非常に高く、一つ食べても満足感を得られるほどだ。
辰樹は十二分に咀嚼した後、ゴクンと喉を通すように飲み込む。
「ね! あとね、私のお兄ちゃんになる事は? そこに関しては決めてくれた?」
「えッ、んッ!」
突然の問いかけに、辰樹は喉を詰まらせてしまうのだ。
「大丈夫? お茶飲む?」
「うん」
辰樹は彼女からお茶と記されたラベルが張られたペットボトルを渡された。
それを飲んで、喉を潤す。
ゆっくりと胸元が楽になってくるのが分かった。
「でもさ、急に、そんな事を言われたら驚くから」
「ごめんね」
「あと、お茶、ありがとね」
辰樹は胸を落ち着かせた後、お礼を言った。
「んん、大丈夫だよ。それ、辰樹くんにあげるよ。それに、そのお茶、私が一度口をつけたモノなんだけどね」
「……え?」
辰樹は手にしているペットボトルを二度見してしまう。
それから、隣にいる彼女の方も二度見どころか、三度見してしまうのだ。
「これで、間接キスになるね」
春香は意味深にウインクしてくる。
「……⁉」
辰樹の心臓は震えていた。
辰樹からしたら今日出会ったばかりの子と口づけを交わしたのだ。
衝撃的な真実に、それが現実だと受け入れられずにいた。
「これで、辰樹くんは私のお兄ちゃんになってくれるよね? 私の唇を奪っておいて、逃げないよね? よね?」
辰樹は怖さを覚え、少々俯き状態になっていた。
「私のお兄ちゃんになってくれるよね?」
彼女は何度も問いかけてくるのだ。
その度に、辰樹は心を震わせながらも顔を上げ、隣にいる晴香を見やる。
さっきまでは至って普通のクラスメイトだった。
けれど、今では兄を弄りまくる妹のような雰囲気を醸し出していたのだ。
彼女は人当たりが良く、明るい印象があったが、今の彼女の表情には少しだけ陰りが見え隠れしていた。
という事は、最初から仕組まれていた?
辰樹が選べる選択肢というのは、最初から一つしかなかったのだろう。
顔が青ざめていく。
これは現実として受け入れないといけないのか。
「でも、悪い事じゃないでしょ? 辰樹くんは私の美味しい料理を食べられて。私はお兄ちゃんになった辰樹くんと楽しくゲームが出来る。これはWINWINな関係じゃないかな?」
そうかもしれないが、すぐに同年代の彼女の兄になるという現実と向き合えずにいた。
辰樹は、それからというもの、その昼休み中は何を食べたのかわからくなっていたのだ。
その日の放課後。
授業終わりのHRを終えると、辰樹は晴香と共に教室を後にしていた。
先早に校舎の昇降口へ到着したものの、運の悪い事に、ほぼ今朝と同じ状況に追いやられていたのだ。
デジャブなのだろうか。
目の前には、妹の
辰樹の隣には春香がいるのだ。
家族の妹と、同世代の妹の板挟みになっていた。
「なに?」
急に妹の杏南からぶっきら棒な言い方をされた。
杏南は、今の辰樹の状態に不満があるようで、ムスッとした顔つきを浮かべていた。
「こ、これには訳があって」
「いい、私帰るから!」
杏南は気の強い言葉を残し、辰樹から視線を逸らし、昇降口で外履きに履き替えていた。
今日中には、
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