第8話 世界情勢
ライソンを追いだしてリゾムのギルドを牛耳っていた男はドネス・バックランという男だった。
驚いたのはヤツの経歴だ。
ギルドの応接室でライソンからその話を聞かされた時は耳を疑ったよ。
「ドネスは王立魔法学園を卒業後、アルダイン王国魔法兵団に所属していた。つまり、国家魔法使いだ」
「国家魔法使い……将来を約束されたエリートじゃないか」
そもそも平民で王立学園に入れるヤツが一握りの才能ある優秀な人材だというのに、何がどうなって悪質な冒険者たちの親玉へと成り下がったんだ?
「最近はそういう話も珍しくなくなっているぞ? 騎士団や魔法兵団は以前より薄給となったようだし、上層部の汚職の発覚も日常茶飯事ときている」
「新聞で読んだよ。騎士団の副騎士団長が組織の運営費を横領し、部下に罪をなすりつけようとしていたらしいな」
「ひでぇ話だよ、まったく」
テーブルに置かれたカップを手にすると、ライソンは注がれていたコーヒーを勢いよく一気に飲み干した。
「今回捕まったドネスも学園時代は品行方正で評判の良い模範的学生だったみたいだから、そういった現実を受け入れきれずに荒んでいったんだろうな。正義感の強い者ほど崩れるのは早いというが……だからといってその元凶と同じような行動に出るのは間違いだ」
「まったくもってその通り。……しかし、国民としては耳を塞ぎたくなるような現実だな」
騎士団も魔法兵団もこの国の治安を維持するために欠かせない重要な組織だ。そこが腐りだすと歯止めが利かなくなる。国としても早急に手を打つべきだろう。
……とはいえ、国内でもダンジョンやギルドの規模が上位クラスに位置するリゾムが小悪党連中のやりたい放題となっている現状を思うといろいろ察せられる。
そこまで逼迫した状況なのか、この国は。
「まあ、国のお偉いさんたちがどんなあくどい政治をしようが、俺たち下々の民にはどうしようもないんだけどな。かといって外に出る金も伝手もないし、行き詰まりに近いよ」
「おまえがそう愚痴るなんて珍しいな」
「そうでも言わなきゃやってられねぇさ」
「現状を訴える者はいないのか?」
「改革派として知られるのはレンスロー第二王子だな。防衛組織の一新や学園の指導方針の見直しを訴えている――とはいえ、王位継承の最上位である長兄ルダン王子は保守派で大手商会や有力冒険者ギルドと根強いつながりがある……難しいだろうな」
「そうか……」
王家絡みの権力争いが泥沼化しているという話は前々から聞いていた。
ここのところ、魔族が頻繁に各地へ出没し、農作物や鉱産資源に深刻なダメージを与えているらしい。それが原因で経済も落ち込んでいるとか。
「おかげで冒険者も以前に比べて困窮する者が増えてな。俺としてはクエストに対する報酬単価をあげようと対策を講じているが……今じゃ素材も高騰して買い手がつかないって事態もあり、なかなかうまくいかないよ」
そう語るライソンの顔つきには疲弊の色が見えた。
昔から面倒見のいいヤツだったから、困っている冒険者を放っておけないのだろう。
ドネスたちにギルドを乗っ取られてからもそれは続き、今回は玉砕覚悟で突っ込んできたという。俺たちの到着があと一日でも遅かったら、大惨事になっていたかもしれないな。
ともかく、置かれている状況は把握した。
俺たちが救世主パーティーの一員として鍛錬に明け暮れている間に、世界はだいぶまずいことになっていたらしい。
……だが、俺のような一般人がどうこうできるレベルの話じゃないな。
とりあえず、周辺の町への影響も考え、俺はミレインと一緒にこのギルドに冒険者登録をすることにした。少しでもライソンの役に立ちたいし、俺もミレインも冒険者生活には憧れを持っていたのだ。
この申し出に、ライソンは喜んでくれた。
さて、明日からは農家兼冒険者として頑張らないとな。
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