第7話 もうひとつの力

 メルファのくれた指輪から放たれている魔力。

 その効果はすぐに表れた。


「む? な、なんだ?」


 まず異変に気づいたのはローブの男だった。ご自慢のフレイム・アーマーは徐々にその威力を弱めていき、やがて炎は完全に消滅。もとのローブ姿に戻ってしまった。


「き、貴様……なぜ【魔力食い】の力を!」


 ローブの男はこちらを指さしながら叫ぶ。

 やはり、これは【魔力食い】か。

相手の放った魔法を無効化する力があるとされ、これを扱える者は世界でもごくわずからしい。まさかあのメルファという女の子……魔法使いとしてとんでもない才能を秘めているんじゃないか?


「クソが! おい野郎ども! その生意気なヤツらを始末しろ!」


 男がそう命じると、周りの冒険者たちは武器を手に取ってこちらへ襲いかかってくる。


「師匠、どうします?」

「指示は簡潔にひとつだけ――《派手に暴れろ》」

「分かりました!」


 ミレインは剣を抜き、迫り来る男たちへと駆けだす。身をかがめ、低い姿勢からまるで雑踏を走り抜けるかのように軽やかな足取りで敵を斬り捨てていった。彼女の最大の強みはスピードだと思っていたが、さっきの男を投げ飛ばした時といい、昔に比べてパワーもついてきたようだな。日頃の鍛錬の賜物と言えるだろう。


「よそ見してんじゃねぇぞ、こらぁ!」


 弟子の成長に感動していると、そこへ別の冒険者たちが一斉に飛びかかってきた。

 ……無粋なマネをしてくれる。


「ふん!!」


 剣を振り抜き、冒険者たちを蹴散らす。

 だが、相手は魔法使いだし、こちらが【魔力食い】の恩恵を受けられるのでこちらもとっておきを披露するか。

 性懲りもなく襲ってくる冒険者たちへ、俺は再び剣を振るう――が、今度はただの剣じゃない。


雷鳴剣サンダー・ソード――うおおぉ!」


 剣でのダメージに加え、そこに雷撃も加わる。

 武器に自然界の力をまとわせるのは初級魔法の一種なのでさほど難しくはないのだが、魔法に疎い冒険者たちへはダメージと同時に衝撃を与える役目を見事に果たしてくれた。


「あ、あいつ! 魔法も使えるのか!」

「そんなのありかよ!」


 文句を垂れる冒険者たちだが、剣術と魔術を同時に扱える者はそう珍しくはない。もっともこの辺りでは俺以外に見かけたことはないのでそういう意味では貴重なのかもしれないが。


 ミレインの剣術に加え、俺の魔法による攻撃も高威力で分かった途端、ギルド内にいた冒険者たちは血相を変えて逃げだした。


「お、おまえら! 何をしている! 戻ってこい!」


 もはや勝ち目がないと悟り、一目散に逃げていく元仲間たちへ叫ぶローブの男。だが、それはただ虚しく俺たち以外に誰もいなくなったギルド内へ響いていた。


 ――と、何やらギルドの外が騒がしい。


「なんだ?」

「新手でしょうか?」


 警戒する俺たちだが――どうやらここへ来たのは味方のようだ。


「おまえらぁ! 俺たちのギルドを返してもらうぞぉ!」


 怒鳴り込んできたのはよく見知った中年男性――というか、ここの本来の主であるライソンであった。


「元気そうだな、ライソン」

「お久しぶりです!」


 俺とミレインがそう声をかけると、ライソンはまだ事態が飲み込めていないのか茫然としていたが、やがてゆっくりと頭の中の整理ができ、喜びの声をあげる。


「デレク! それにミレインまで! おまえたちいつこっちへ戻ってきていたんだ!?」

「昨日だよ。それより、今までどこにいたんだ? 随分と町が様変わりして驚いたぞ」

「変な人がたくさんうろついているみたいですが……」

「め、面目ない……」


 喜んでいたと思ったら今度は一気に落胆……感情の落差が激しいな。昔からそういうところはあったけども。


「ともかくギルドを仕切っていた魔法使いや周りのチンピラたちは俺の拘束魔法で動きを封じておく。その間に騎士団へ連絡を取り、身柄を引き渡そう」

「そ、そうだな」


 高速飛行を得意とする使い魔がいるそうなので、そいつに手紙を括り付けて飛ばす。それまでは町の自警団詰所にある牢屋に入れておくという流れになった。


 とりあえず、これにて事件は解決したわけだが、本当に大変なのはここからだな。

 これからの話も含め、ライソンからは詳細を聞かせてもらうとしよう。


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