第6話 闇に落ちたギルド

 かつては健全な町だったリゾムは、しばらく来ないうちに様変わりしてしまっていた。

 町の至るところに冒険者がいるという光景自体は変わっていないものの、問題は冒険者たちの中身だ。以前は純粋にダンジョン探索に取り組んでいた者たちばかりだったのに、今ではその面影すらない。


 石造りの道には酒瓶が転がり、家屋や店の窓ガラスは割れたまま放置され、あちこちから怒声が聞こえてくる。すれ違う者たちのほとんどは生気のない顔をしており、とても俺の知るリゾムと同一の町とは思えなかった。


 しかし、国もこれだけ悲惨な状況をよく放置できたものだ。

 最近は国内の治安も悪化の一途をたどっているし、一体どうなっているんだ?

 魔族の脅威を軽視するつもりはないが、もっとしっかり足元を固めておくべきだろうとは思う。


「ひどい有様だな、これは」

「確か、ここのギルドマスターって、師匠の古いお友だちでしたよね?」

「ああ……しかし、この惨状を見る限り、ライソンの身に何かが起きたのは間違いない」


 でなければ、あいつがこの状況を放っておくはずがない。

 うだうだ考えていても始まらないので、とにかく元凶であるギルドへと足を運ぶ。


 そこは町の中心にあった。

 これまで何度か別の町のギルドを訪ねたが、やはりここが一番大きいな。

 中へ入ろうと近づく――が、突然現れた四人組の男たちが進路をふさぐように立ちはだかった。


「見かけねぇ面だな」

「よそ者か?」

「だったら入場料を払ってもらわないとなぁ」

「女連れでギルドに来るぐらいだ。遊ぶ金くらい持っているんだろう?」


 ギルドへ入る前からこれか……先が思いやられるな。


「なんですか、あなたたちは。ギルドは国が認定する公共の施設です。なぜあなたたちにお金を払う必要があるのですか?」


 毅然とした態度でミレインが男たちに言い返す。

 うん。

 やはり彼女はこうでなければ。


「なんだ、この女……生意気な!」


 腹を立てたひとりの男が、ミレインの胸倉を掴んですごむ。だが、彼女は意に介することもなく、そのまま男をギルドの方へ向かって投げ飛ばした。


「扉を開ける手間が省けたな」

「あっ、本当ですね」

「ちょうどいいといえばそうなのだが……もうちょっと段階を踏んでもよかったかな」

「は、はい。以後気をつけます」


 茫然と立ち尽くす残った三人の男たちを尻目に、俺とミレインはギルド内へ。さっきの一撃がよほどインパクトあったらしく、中にいた冒険者たちの視線は一斉に俺たちへと注がれた。


 とりあえず、それは無視して受付に。

 ギルドマスターであるライソンに面会を申し込もうとしたのだが、


「ボス! あいつらですよ! 教会にいた男は!」


 何やら聞き覚えのある声が。

 振り返ると、昨日クラン村の教会を襲おうとしたチンピラたちがいた。ヤツらの後ろには真っ黒なローブに身を包んだ人物が座っている――どうやら、あいつが黒幕らしい。


「ほぉ、あんたがうちのメンバーを可愛がってくれた男か」

 ローブの男は立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 ――その時、俺はあることに気がついた。


「あんた……魔法使いか」

「まだ魔法を使っていないのに分かるのか?」

「これまで何度か同業者と戦ったことがあるのでね」


 全身から漂う魔力。

 並みの使い手じゃないな。


「あんたに聞きたいんだが、ここのギルドマスターであるライソンを知っているか?」

「ライソン? 誰だぁ、そいつは? そもそもここにギルドマスターなんてものはいねぇよ。ここでは――俺がルールだ」


 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら語るローブの男。

 ……口では知らないと言いつつ、態度は雄弁に物語っているな。


「ライソンはどこだ?」

「知りたければ力ずくでやってみな」


 男がそう語った直後、ヤツの足元から炎が出現。

 やがてそれは火柱となり、男を包み込んだ。


「出た! ボスのフレイム・アーマーだ!」

「これでもうヤツは手出しできねぇぞ!」

「へっ! さっさとやられちまいやがれ!」

「おらおら! ビビってんのか!」

 

 周りの冒険者たちはそう囃し立てる。

 フレイム・アーマー……確か、炎属性の上級魔法だった。王国の魔法兵団に所属するいわゆるプロの魔法使いでも扱える者は少ないと聞く。

 確かに、全身が炎に包まれている今のヤツに手を出せば、火傷だけでは済みそうにないな。

 とはいえ、戦える手段がまったくないわけではなかった。

 ここはじっくりと――


「っ!?」


 状況分析の途中で、強力な魔力を察知する。

 これは……あの男から放たれている物じゃない。

 向こうもそれに気づいて周りの様子をうかがっているようだし、一体何が――


「あっ」


 ふと思い出し、俺はポケットへ手を突っ込む。

 そこにあったのは、メルファからもらった草花を使った指輪――先ほどの魔力はこの指輪から発せられていたのだ。


 まさか……あの時感じた魔力は気のせいじゃなかったのか?





※明日はお昼12時より投稿予定!

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