第5話 冒険者都市リゾム

 その日は教会で一夜を過ごすことにした。

 逆恨みをしたあの連中が、俺たちの不在を狙ってまたやってくるかもしれないからな。

 ミレインには教会内の警備を頼み、俺は外でテントを張り、監視の目を光らせる。シスターは野営に反対だったが、もう部屋もないし、年頃の娘さんたちと同じ部屋で過ごすわけにもいかないので実質この選択しかないのだ。


 

 夜が明け、朝霧が立ち込めてくると、俺はテントを出て軽く伸びをする。

 結局、ヤツらの再襲撃はなかった。

 大人しくリゾムへ帰ったらしい。

 念のため、クラン村の人たちに事情を説明し、気にかけてもらうようにする。シスター・グレイスは村でも評判のいい人だから、村人たちも喜んで引き受けてくれた。

 その際、リゾムの話をだしたが……やはりかなり悪名高い町として知れ渡っているらしい。フレディ村長も心配していたな。


 俺とミレインは朝食を済ませると、いよいよ悪い噂が漂う冒険者都市リゾムへと向かおうと教会を出る。


「ふたりとも、お気をつけて」

「この場合、心配なのはシスターの方ですよ。何かあったらすぐに村の人たちに知らせてくださいね」


 ミレインとシスターのやりとりを見守っていると、何やら視線を感じた。誰かに見張られているのかと思いきや、シスターの足元にしがみついているメルファという少女がジッとこちらを見つめていたのだった。

 どうにも、この子には初めて会った時から警戒されっぱなしだな。子ども受けする人相でないことは自覚しているし、彼女は大人に対して恐怖心を持っているらしく、村人にもまだ馴染めていないらしい。感情の変化が乏しいのも、それが原因のようだ。

昨日からシスターやミレインが「いい人だよ」と説得してくれてはいるのだが……打ち解けられるのはもうちょっと先になりそうか。


 ――そう思っていると、彼女の方からこちらへトコトコと歩み寄ってきた。

 そして、小さな手の平をいっぱいに広げてこちらに差し出す。そこには草と花で作られた指輪のような物が。


「こ、これは?」

「お守り」

「あっ、これは以前一緒に作った物なんですよ。気に入っているようでずっと大切にしていたんです」

「そんな大事な物を俺に?」

「無事に帰ってきてほしいから」

「っ! そうか……ありがとう。この指輪に誓って、必ず生きて帰ってくるよ」

 

 そう告げて、メルファから指輪を受け取ると――なんだか妙な感じがした。


「む?」

「どうかしましたか、師匠」

「……いや、なんでもない」


 気のせい、か?

 わずかだが、魔力を感じたような……こんな小さな子どもにそんな器用なマネを誰にも教わらずにできるとは思えないので、やはり俺の勘違いか?

 彼女についての詳しい話は、帰ってからシスター・グレイスに聞くとしよう。


「それじゃあ、行ってくるよ」

「いってきます!」


 俺とミレインはシスター・グレイスとメルファに手を振りながら教会をあとにする。

 さて、何が待っていることやら。



  ◇◇◇



 冒険者都市リゾム。

 その名が示す通り、ここは冒険者たちの町と言って過言じゃない場所だ。

 複数のダンジョンが集中している地域で、この町から歩いて行ける距離の範囲に全部で三つ存在している。そのため、ギルドの規模も周辺に比べたら大きい方だ。


 そんなギルドを取り仕切るギルドマスターは、ライソンという俺の古い友人だ。

 最近はこの町で悪い噂が流れているというが……あのライソンが黙認しているとは思えない。

 となると、悪名高い冒険者パーティーによって――いや、あまり悪い考えを思い浮かべるのはやめよう。


 とりあえず、俺とミレインはすべての元凶であるとされる冒険者ギルドを目指す。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る