第47話 最期に、貴方に会いたくて


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 光の神殿で、ハインミュラーとともに二人で神々との交渉をはかっていたシルウェステルは、アテナ神の「パチン」という音で、自分がそれまで時を止められていたことを知った。

 なぜなら、自分は身動きできるが、隣のハインミュラーお兄様は石像のように動かないし、周りの景色もどこかセピア色を帯びている。

「神々か!??」と、シルウェステルが叫んだ。

『そういきりたつな、12使徒・シルウェステル・・・いや、前世のクレド賢者というべきか』と、アテナ神が空中から現れて言う。

「アテナ神!!あなたは別の任務で忙しくて、イブハールにいると、他の神々から聞いていましたが・・・??」と、シルウェステル。

『緊急事態だ。貴様らにはわざと嘘をついていた。あと、これはハプニングなのだが、大地の巫女様が、貴殿に来てほしいとおっしゃっている』と、アテナ神は言った。

「なに!??嘘をついてただと・・・!?!?それより、リアンもこの世界で動けるのか!?!?」と、シルウェステル。

『とにかく、すぐにリアンノンのところへ来てもらう。いいかな??』と、アテナ神。

「――いいでしょう」このわずかな間、シルウェステルは、アテナ神にばれないように、ハインミュラー宛の小さな手紙(小さな紙片)を後ろ手で魔法で作り出していた。

(ハインミュラー兄上様、あとはよろしく頼みましたよ)と思い、シルウェステルは、その紙片をハインミュラーの左手に握らせた。アテナ神がくるりと背を向けて、光の神殿を見回している間に。

「アテナ神、準備ができました、そろそろ行きますか、リアンのもとへ」と、シルウェステルが言った。

『シルウェステルさん、これだけは言っておくが、大地の巫女の儀式の邪魔はしてはならない。邪魔するようなら、時を止めて、貴方にはここに帰ってきてもらう。いいかな?』と、アテナ神。

「―――いいでしょう。それより、リアンはなにをしようとしているのです?」

『そうだな、話しておいた方がいいだろう。彼女は、あと約5時間で完全復活するシェムハザを封印するため、自ら石化して命を絶つことを選択した』と、アテナ神が静かに言った。

「・・・な、なんだと??」と、シルウェステル。

『光の神殿の奥にある石像のうち、初代の大地の巫女・ウェヌス様の石像、あれだけは本物でね。ウェヌス様そのものなのだ。お命をかけて石像になられた。ところが、来てみれば、石像のウェヌス様までもがバラバラに砕け散っていた。シェムハザ復活に致命的になった』と、アテナ神。

『リアンノンには、ウェヌス様の代わりになってもらう・・・本人も承知済み、だ。それしか、本当にシェムハザを安全に封印する方法はない』と、アテナ神。

「・・・・そうですか。ということは、リアンは今石像に??」

『・・の予定だったが、なんでもあなたがいないと心細いらしく、最期に会いたいとおっしゃっていた。来て下さりますね??最期のお別れに』と、アテナ神。

「・・・分かりました、とりあえず行きましょう、リアンのもとへ」と、シルウェステル。

 アテナ神が簡単な呪文を唱え、シルウェステルとアテナ神は、止まったままのセピア色の世界で、黄龍の神殿にいた。

 1階の奥で、カウチのような形状の、石のベンチに寝かされているのは、リアンノンであった。

「リアン!!!」とシルウェステルが叫んで、リアンのもとへ駆け出した。

 アテナ神がそれをじっと見守っている。いや、見張っている、というべきか。

 意外なことに、リアンノンはまだ石像にはなっておらず、目を開けて、顔だけシルウェステルの方へ向けた。

 両手は、胸の前で握りしめられている。

「シルウェステル、来てくれたのね!」と、リアンノンは嬉しそうな顔をした。

「リアン、君の決意のことは聞いた。俺も一緒にそばにいる。ずっと、君が目覚めるまで」とシルウェステルは言って、リアンノンの手を握った。

「クレド様・・・私だって、貴方と出会えてよかった、と思っているのよ」と、ふいにリアンノンが言った。

 それは、シルウェステルが、「君と会えてよかった・・と言ったら??」という自身の最期の言葉を今世のリアンには秘密にしていたのに、リアンノンが返してきた言葉だった。

「リアン、なぜそれを??」

「記憶が戻ったの、クレド様・・・」と、リアンノンが微笑む。

「なぜだか知らないけど」

「アイリーン・・・」といって、シルウェステルが涙を流し、その手にキスをした。

「俺が巻き込んだな。あの時、教会から君を連れ出したせいで、君の人生は狂った。これから永遠の眠りにつくと、アテナ神から聞いた」と、シルウェステルが涙声で言った。

「あなたは悪くないのです、クレド様」と、リアンノンが言った。

「ただ、最期にあなたの顔が見ておきたかったのです。じゃないと、決心がにぶりそうで」と、リアンノンが言った。

「初代ウェヌス様のように・・・・??」と、シルウェステル。

「そうです、クレド様」

「今はシルウェステルだよ」と、シルウェステル。

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