第48話 報われない現世

「さようなら、シルウェステル」と言って、リアンノンは顔を上に戻し、その目を閉じた。リアンノンは、石化してシェムハザを封印する呪文は唱え終わっていたようだった。あとはタイミングなのだ。

「封印(セーマンテーリオン)」とリアンノンは小さい声で言った。

「さようなら、リアン・・・」と言いかけて、シルウェステルははっとした。リアンの足元から、どんどん石化が始まっている。

(最後にキスでも!!)とシルウェステルは思わず思って、リアンの上に体を起こした。だが、リアンは目をつむったままだ。もう術が発動したから、これは変えられないのだろう。

『クレド賢者、』と、少し離れたところから見ていたアテナ神が言った。

『リアンノンさんに触れたままだと、あなたも石化してしまいますよ』とアテナ神が注意した。

(構うものか)と、シルウェステルはやけっぱちになって思った。

 じわじわと、リアンノンの石化が進む。

「リアン!!リアン!!」と、シルウェステルは何度も彼女の名を呼んだ。だが、リアンノンが再び目を開けることはなかった。

 シルウェステルの涙が、リアンノンの目をつむったままの顔に落ちる。

「君と結婚できたなら」

 そう思って、シルウェステルはこうしてリアンノンと旅を続けてきたようなものだった。前世、そして今世。

 だが、報われない。二人の恋は結ばれない。二人の思慕の情は、いつも誰かに利用され、誓いもまた操られる。

 ――それがこの世なのか。この世の無情。シルウェステルは、リアンに触れていることから自身も石化していることを感じつつ、涙を流した。

 報われない。

 いつまでたっても、彼女と一つになれない。

 何のために、俺たちは出会ったんだ。

(けど、)と、薄れゆく意識の中で、シルウェステルは思った。

(最期は一人にしない。俺は彼女を一人にはしない)と、思った。

 やがて、10秒後二人はつながった一つの石像になっていた。

『さて、』と、アテナ神はその石像を眺めた。

(人間とはかくも哀しき生き物か)とアテナ神は思い、(このことは忘れよう)とおもって、くるりと背を向け、瞬間移動して、天界に戻ったのだった。それと同時に、時の流れを動かす。


                *


「!??!?!」と、ハインミュラーは目を覚ました。

(あれ?俺、一瞬思考止まった!?!?)と、不可解な感じを想いつつ。

 彼は今、神々と交信中だった。ところが、隣を見ればシルウェステルがいない。

「・・・は!??!」なぜ彼がいないのか、理解できなくてハインミュラーが戸惑う。

「あの、シルウェステルさんがいなくなって・・・」と画面越しにハインミュラーが神々と通信しようとしたときには、神々は通信を切り、逃げていた。

「オイ!!返事しろ、神々ども!!」とハインミュラー。

「――って、ンン??これは・・・」そこでハインミュラーは、自分の右手の中に、小さな紙片が挟まっているのに気付いた。

「なんだこれ」と言って、広げて見てみる。


《シルウェステルより アテナ神がグレー リアンノンが石化しようとしている 至急、アラミス兄さんとヅラさんを呼べ》

 

 とだけ書いてあった。仰天したハインミュラーは、2度、3度読み返し、息を整えた。

(なんだと・・・!??!?!)

(だが、ちょうど神々は通信を断った、こちらが動いても分かりにくいだろう、よし、この調子で・・・)と、ハインミュラーは動き出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る