第45話 返って来たリアンの記憶


                       *


「おのれぇ、てこずらせおって!!」と、ヅラ・ラ・ラスコーニが飛んでくるヘドロのようなものを服でかばって言う。

 大地に一部姿を現している状態のシェムハザを何度か斬ろうとしたが、そのたびに、スマローコフの死骸(もうミイラのようになっていた)を盾にして、ヅラの斬撃はシェムハザにはあまり届かない。その隙に、すごい再生スピードで、シェムハザ本体の一部分は回復する。

 スマローコフは生前、1000年間つとめあげた、かつては正義の賢者で知られた大賢者だった。当然、神々も彼を信用し、莫大な力、魔力を与えていた。殺すのにも時間がかかる。

 それでもあきらめず、すごい剣劇のスピードで自動で盾となるスマローコフの頭部を串刺しにしたところ、バチンという音がして、ヅラは跳ね飛ばされた。が、くるりと空中で回転し、形勢を保つ。

 実はこの時点で、スマローコフの脳内に代わりに封印した、リアンノンの持っていたはずの前世の記憶が解放され、元の持ち主のもとへと戻ったのだった。その証拠が、術が解けた「バチン」という音だった。

「私が怖いか、シェムハザ!」と、ヅラが冷静に相手にカマをかける。


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(バチン)と、リアンノンの脳内で音がした。

「??どうしました、リアンノン??」と、バーナードが聞く。

「――っと!!失礼しました、バーナード、儀式を続けますね・・・リアンノンの誓い。私の命はあなたと共にある。えにしよりつながりのある人の集まった七勇士に授けん、私の加護、光の加護をあなたに授けん」

 と、リアンノンが、かつてアラミスに授けたように、ロッドをかかげ、光の加護をバーナードにも授けた。

(・・・・クレド様・・・アレクシスさん・・・)リアンノンは心中動揺した。

『君と会えてよかった・・と言ったら??』という、最期のクレド賢者の言葉が心に強く響いた。

 今世になって、前世の記憶が抜け落ちていたリアンノンに、シルウェステルとハインミュラーが植え付けてあげた記憶にはない、細密な記憶や、最期の言葉が、次々とリアンノンを襲った。

 ぼーっと茫然自失しているリアンノンを背に、加護をかけてもらったバーナードは、階下のハインミュラーに呼ばれて、グールを食い止めるため、素早く外に出て行った。

「リアン、君は?」と、兄・ハインミュラーが階下から叫ぶ。

「お兄ちゃん、私、この神殿で、5巫女の一人・大地の巫女として、他の4巫女と力を合わせて、シェムハザを封印するわ。安心して、5巫女なら、祈祷文も頭に入ってるから」というリアンノンの目を見て、ハインミュラーは遠目ながらドキッとした。いつものリアンでないような、昔のアイリーンを思わせる淡白な目をしていた。

「お、おう・・・よろしく頼んだぞ、妹よ!俺は、これからちょっとシルウェステルさんと、神々とコンタクトをとる」と、ハインミュラー。


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 そのハートフォードシャーの国の様子・・・異変を、天界から、神々は冷静に見ていた。

 今まで、かつて信を置いていた、スマローコフの騙しレンズを通してみていた神々は、窮地に陥っている国を見て、唖然とした。

「アテナ神・・・分かっていますね」と、とある男性の神が言った。

「12使徒から我々にいずれコンタクトが来る。その相手は、我々8名で対応する。あなたはあなたで、こっそり動いてほしい。そのことはふせておく」と、その神が言った。

「おおせのままに」と、アテナ神が言って、軽く礼をして厳しい顔をして、その場を立ち去った。

「事態は思った以上に悪い・・・どうやら5巫女で封印しようとしているようだが、シェムハザ復活のカウントダウンには間に合わない・・・・だろうな」と、アテナ神は思った。そして、顔をいっそう険しくする。


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