第38話 神すら恐れる剣士

「卑怯者・・・ここで逃げるのか」と、呟いて、レオンはゆっくりと立ち上がった。眼下には、血を流して顔と胴体が離れた死体が転がっている。

 かつていたカザンラクが、どういう風に荒れてしまったのかは、レオンは詳しくない。だが、この現状を見るに、悲惨な状況であることは確かだ。

『こちらリナレス。レオン、大丈夫か』と、近距離魔法で、副隊長の声が脳裏にした。

 危険をおかして、逃げたはずの50名の一部が、再び戦場の方角に戻ってきたのだ。

『こちらリナレス。応答せよ!!』と、副隊長の声がこだまする。

 その時、空を見上げたレオンには、一人の女性の姿が見えた。不思議な衣装族をしている。 

 副隊長の通信を無視して、レオンはその女に話しかけた。

「お前、誰だ、こんなところに」と、レオンが尋ねた。

「我は神々の一人、女神アテナ神。神界から、“神すら恐れる剣士”の様子を伺っていたものだ」と、アテナ神が言った。

「今なら間に合う。時を10分巻き戻し、旧友を生き返らせることも。ジャック・・・と言ったか。どうだ、二人して、聖人にならないか」と、アテナ神が言った。

「女神・・・??お前、神なのか?」と、レオン。

「そうだ」

「そうか・・・俺は神なんて信じちゃいねえがな」とレオンが言って、つばを吐いた。

「聖人ってのはなんだ」と、レオンが退屈しのぎに言った。

「生まれ変わり、竜人となって、この世界を、悪しき神から守る12使徒のひとりになる、ということだ。そのジャックさんと一緒に、でもどうかな??」と、アテナ神。

「あ??コイツか・・・・いや、コイツはもうだめだ、それに、生き返らせても、コイツならその話は断る。親友だった俺には分かる。俺は・・・俺が、そんなガラに見えるか?」と、レオンが言って、自嘲して笑った。

「神すら恐れる剣士のその才能、惜しい。聖人として、世界を守るために、力を貸してほしい」と、アテナ神が言った。

「・・・世界を守る、ねぇ・・・・・」と、言って、レオンは一粒の涙を流した。

「その12使徒が暮らすところには、貴方と同じような、つらく苦しい経験をした人たちが集まり、助け合ってくらしている。どうか、力を貸してほしい」と、アテナ神が言って、レオンに手を差し伸べた。

『レオン、応答せよ!レオン、今どこだ!!』と、リナレスの声が脳裏にこだまする。

「分かった、やるよ、俺、12使徒になる」と、自然と、自分でも意外なことに、レオンはそう言った。

 アテナ神の手をとり、次の瞬間、まばゆい光に包まれた。

 

 ~レオンの前世の記憶は、ここまでだった。~


 アラミスは、走馬灯のようにかけていく過去をふと思いやっていた。

 

                *


「シルウェステル、もっと本気で来いよ!」と、アラミスが弟・シルウェステルに声をかける。

「もうやってるよ!!」と、シルウェステルが苦い顔をする。

 結局、その剣術の稽古では、シルウェステルは、アラミスから一本もとれなかった。

 別名・「神すら恐れる剣士」である兄には、リアンノンから「聖騎士」と認められたシルウェステルでも、かなわないのだ。

「残念だったな、弟よ!!お宝は、秘蔵・リアンノンちゃんの水浴びシーンの写真集でしたぁ~~~!!」と、アラミスが言って、ふところのポケットから、数枚の写真を取り出してチラ見せした。

「見たい??」と、アラミス。

「な、なんてことを!!兄さん!!!」と、鼻血を出しながらシルウェステルが言う。

「ムフフ・・・俺はリアンノンちゃんの水浴びスポットを知ってるのよ!彼女のお気に入りの場所をな!!」

「なんだとぉ~~~!?!??!」と、シルウェステルが真っ赤になって慌てる。

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