第37話 レオンとジャック

 だが、レオンが10名の魔法使いをいとも簡単に次々としとめていく、傷を負わせていくのを見て、10名のうちの一人が、地の精霊を使い、1対1で戦っていたレオンを樹のつるで拘束した。

 不意を突かれ、レオンはなすすべもなく、樹のつるや枝で縛られていた。

 一人の魔法使いが、レオンを拘束するために、他のことは9名に任せ、その場に残ったので、レオンには何もできなかった。

 残り8~9名の敵の剣術に、レオンたちプレトリア側の魔法剣士たちは次々とやられていった。

 その結果を見せつけられ、レオンは絶望した。思わず目をつむったこともあった。

「よう」と、その時、5分後だろうか。敗退して去っていった味方を除き、全滅したこちらの軍の屍を見ながら、あるひとりの男が、地の精霊の力によって拘束されてるレオンのもとに一歩一歩歩いてきた。

「ジャックか」と、力ない声で、レオンが言った。

「そういうお前はまさかのレオンか」と、ジャックが言った。

「殺せよ。お前なら簡単だろ」と言って、レオンは自然と泣いていた。昨日酒を飲んだ後輩は近くで屍となって転がっている。

「いや、そうじゃねぇ」と、ジャックが言った。

 直後、ジャックが目にも止まらぬ速さで、レオンを縛っていたレオン専用の地の精霊使いの首を斬った。

 相手の仲間うちでも動揺が広がる。ジャックは、「どうしたんだよ」と言って近寄って来た味方に対し、剣を抜いて一瞬で殺した。

「ジャックが裏切った!!裏切ったぞぉ!!逃げろ!!」と、残り7~8名の残党が、一目散に森の奥へと逃げて行った。その場には、ジャックと、樹の枝から解放されたが、動く気力がわかないレオンの二人が残された。レオンはほぼ無傷だった。

「俺が憎いか、レオン。俺を殺せ。俺はどうせ、裏切者として、向こうの村にいる魔法使いに、あと30分もすれば殺されるだろう」と、ジャックが言った。

「なんのつもりだ」と、レオンが絞り出すような声で言った。

「最後に、昔のダチ・・・親友のことは守れたかな、と思っただけだ」と、ジャックは言った。

「俺らの国、おかしくなっててな。仲間内で斬り合いとかになってるのよ。もう秩序もあったもんじゃねぇ」と言って、ジャックが哀しそうに笑った。

「さ、お前の手で殺してくれ」と、ジャックがレオンの手をとり、シャイン・ソードの切っ先を、自らの心臓の近くに引き寄せた。

「さあ、頼むから」と、ジャック。彼もまたいつの間にか泣いていた。

「俺だって、好きでこの任務についたわけじゃない。だが、家族を人質に取られててな」と、ジャックが言った。

「まさかお前と・・・また会うとは思ってなかったがな。最期に会えたのが今日なんて、俺らは神から見放されてるな」と、ジャックが言った。

「っるせえよ」と、レオン。

「なんで俺がお前を殺すんだ・・・その気になれば今すぐにでも、本当にお前をぶっ殺すぞ」と、レオンが脅しをきかせて言った。

「お前になら殺されてもいい。俺はもうこんな戦いはごめんだ」と、ジャックが言った。

 そして、次の瞬間、ジャックはレオンのシャイン・ソードをぶんどり、自分の首を斬った。自害した。

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