第33話 黒幕

ものの10秒でやっつけたアラミスは、残り2体のグールの方に向かった。1体目のグールにとりこまれていた魂たちが解放され、道端に倒れている意識のない人たちの体に入る。

 200名ほどが、「う、ううん・・・・」と意識を取り戻し、燃える街やグールを見て、すぐさま村の出口に逃げ出す。

 残り二体のグールが、新しい一人の来訪者に気付き、残響波をやめて、ゆっくりと、その二つの点のような目でアラミスを見た。並大抵の男では、その時点で恐怖にかられるだろう。

 グールは言葉を話せないようだった。だが、知能は一応あるらしく、二体で協力して、アラミスという剣士をやっつけようと画策したようだった。

 一方、その頃、シルウェステルは、兄の言いつけを破り、町の内部へと走っていた。意識を取り戻した人々に遭遇し、すぐさま避難ルートを教えた。数多の人々が、村から出ようと走る。

 村の入り口では、シルウェステルから頼まれたゼルフィーネが、巫女の力で結界を張っていた。その結界の中に入れば、残響波もきかないし、グールに影を捕られることもない。

「みんな、あのチョークの円の魔法陣の中に入るんだ!!」と、シルウェステルが叫ぶ。

(兄さん、本当に一人で大丈夫かよ)と、シルウェステルが思わず2体のグールの方角を見やる。

 月夜を背景に、アラミスがきれいに舞っているのが見えた。二体のグールを華麗に真っ二つに斬っていた。同じ七星剣(クラウ・ソラス)。だが、シルウェステルは、(俺が使った場合、2体同時に斬るのは無理だな)とすぐに悟った。

 2体のグールが、悪あがきで、自身の黒い体から、影を槍のように伸ばしてアラミスを刺そうとしていたが、アラミスはすべて剣ではじき返し、2体のグールの急所や核となる部分を見定め、的確に斬り殺した。

「終わったな」と、住人の誰かが呟いた。住人が、避難するのをやめ、2体の巨大グールが地鳴りとともにどろどろと溶けていくのを見ていた。

 倒れていた人々が次々と全員立ち上がる。(中には亡くなっている人もいたが)

「ゼルフィーネ、後は頼めるか」と、シルウェステルが言った。ゼルフィーネが頷く。町の中心部にあるポイントに入り、結界を張るのだ。その結界から半径数kmの円状の中は、グールなどの悪しき存在が入れなくなる。

「俺も一緒にいくよ」と、シルウェステルが、ゼルフィーネに同行した。

 町の中心部に二人が行くと、(噴水広場)、その奥に、息切れひとつせず、立っている兄・アラミスの姿があった。

「よう。今夜は月が綺麗だな」とでもいいそうな雰囲気だった。


                  *


「!!」その頃、光の神殿内部で、リアンノンはしりもちをついた。偶然用事があって、神殿の奥へ行くと、大地の巫女の石像の2体目と3体目に、ひびが入っていたのだ。1体目は、ひびが広がり、見るも痛ましい。

(また石像にひびが・・・!!おかしい、この前アテナ神に向けて手紙を書いたのに。その返事では、特に気にしない、みたいな内容だったけど・・・これは、長老に報告せねば)と、リアンノンは思った。リアンノンは、アテナ神の手紙の返事が気になり、一人この光の神殿の奥に来たのだった。

 そのあと度肝を抜かれたのは、振り返るとそこに長老がいたことだ。

「・・・スマローコフ様!」と、リアンノン。

「もうここは立ち入り禁止にする予定なんだ、リアンノン」と、長老がにっこり微笑んで言った。

「君には、今日ここで見たことは忘れてもらうよ。君から前世の記憶を奪ったようにね」と、スマローコフが言った。

「え・・・!?!?」と、リアンノンが、驚いて声も出ない。

 その直後、スマローコフが手をリアンノンに向けてかざし、リアンノンは意識を失った。

「ごめんね、大地の巫女さん」と、スマローコフが、倒れこむリアンノンを支えて言った。

「君を150%利用させてもらうよ。我らが神・シェムハザ様のために」と、言って、長老はくっ、くっ、と笑ったのだった。


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