第五章 二つ目の石像

第32話 ギアナの町へ

 第五章 二つ目の石像


 夕刻前ごろに出発し、着いたのは深夜0時ごろだった。シルウェステルが、ギアナの町を見おろせる丘に着地する。

 だが、おかしい、村に灯りがない。真っ暗で何も見えない。と、そこに残響波のようなものが、下のギアナの町から聞こえて来た。

「掟(レゴラメント)」と再び言い、シルウェステルはドラゴンから人に戻った。

「あれが、お前の言ってた“残響波”か?弟よ??」と、アラミス。

「そ。ほーら、グールの奴らが今も暴れてるっぽいな。これは、町ごとやられたのかもしれないな」と、シルウェステルが下の方を眺めて言った。

「今から乗り込むか?」と、アラミス。

「月の光で、一応影はできるけど、リアンの加護があるあなたたち二人なら、影も食べられないんだっけ」と、ゼルフィーネ。

「シルウェステル、お前も一応ついてこい。逃げ遅れた人がいたら、救助するんだ」と、アラミス。

 『戦闘の鬼・ペンテウス』の異名が、前世ついていたことを、シルウェステルはふと思いだした。

「アニキ、任せる」と、シルウェステルが下を指さして頷く。

 よく見ると、下界のギアナの街から火の手が上がっている場所があり、その部分で見える家々は、みな粉々に砕かれていた。この町は手遅れだったのかもしれない。

「ゼルフィーネ、君は俺らが戻って来るまで、ここで待機するんだ!」と、シルウェステル。

 いつもは若干勝気なゼルフィーネも、火によって浮かび上がった廃墟と化したギアナの町の様子を見て、真っ青になっていた。

「う、うん、分かったわ」と、ゼルフィーネ。

「女子供の来るところじゃねぇな」と、アラミスが呟く。

 二人は、ゼルフィーネを安全な林の中に避難させ、カルスト台地の丘を駆け下りて行った。

「一歩遅かったか。ここはもう・・・」と、町の入り口にたどり着いた時点で、生唾を飲んでシルウェステルが言った。

「兄さん、二手に分かれるか?どうする??」

「見てみろよ、弟よ」と、アラミスが顎で前方を示す。見たこともない超巨大なグール3匹が、街の家を踏んづけ、壊している。火の手も、ところどころからあがっている。

「・・・!!!」それを見て、シルウェステルは言葉が出ない。(あんな大きなグール、俺は見たことない)と、シルウェステルは思った。

「弟よ」と、アラミスは言った。

「ちょっとこの町の入り口で待ってろ。俺一人で十分・・・」そう言って、アラミスはすごい速さで廃墟となっているらしい暗闇の町の中へ入って行った。

 シルウェステルはあえて追わなかった。戦闘において右に出る者はいないと言われていた兄の邪魔になることを理解していたからだった。

 アラミスは、真っ暗な廃墟と化したギアナの町を素早く進んだ。七勇士は、一般成人男性より体力がある。体の作りが強い。

 さらには、このアラミスは、シルウェステルも知っていたが、前世では「神すら恐れる剣士」として有名な魔法剣士だった。

 その剣の太刀筋は、決して忘れてはいない。忘れられない。

 ところどころ火事を起こしている町の中をい5分ほど進んだところ、「ソレ」は姿を現した。

「待ってたぜぇ、グールちゃんよぉ!!」とアラミスが舌なめずりした。

 グールは異常に成長していた。住民の半数を喰らったのか、とアラミスが思ったぐらいだった。ざっと見積もって70mの高さのグールが、地の暗闇の影から成長していた。

(この規模の残響波をまともに食らったらやばいな・・・)と考えつつ、アラミスは七星剣(クラウ・ソラス)を抜いた。

 続いて、竜人である恩恵として、俊足に似た、宙を駆ける力を持つ12使徒のひとりだったので、すぐにジャンプして、70mの高さのグールの目の前に来て剣を構えた。

「ぐぎゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」と、グールが残響波を放つ。大地が震えるかのように思えた。だが、その声はアラミスの力強い、急所を確実に斬る抜刀で、途中で途切れた。

「うっせぇんだよ、グールごときが」と、言って、アラミスはグールの肩に乗り、さらに30回ほど斬りまくった。

 リアンノンから授けられた光の加護のおかげで、死霊の国の悪しき力を封ぜられたのだ。

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