第25話 「私もヅラさんのこと好きです、ヅラさん」というリアンノンの言葉

 敵からの攻撃をよけるのは簡単だが、自分の影を移動させるのは難儀なことだ。

 次々と人々がグールに食べられていく。

(俺ならなんとかなるんだよなー・・・)と、シルウェステルは、腰の七星剣(クラウ・ソラス)をぎゅっと握りしめた。

「おい、そこのグール!!」と、シルウェステルが、人がいなくなった路地裏の前に立ちはだかった。

 グールがシルウェステルに気付き、一瞬動きを止めたのち、残響波を出す。シルウェステルは手で耳をふさぐ。

「俺には聞かないぜ、その影喰い攻撃はな!やってみな、グール!!」と、シルウェステル。

 グールは人の言葉を理解しないらしい。シルウェステルの言葉が終わる前に、シルウェステルから長く伸びる影に手をやり、食べようとした。だが、影に触れられず、跳ね飛ばされた。

(リアンノンのくれた「光の加護」・・・・闇があるところに光は必ずある・・・・これさえあれば、死霊の国関係の奴らの攻撃は効かない)と、クレド賢者からの記憶のあるシルウェステルはにやりと微笑んだ。

 シルウェステルは隙を逃さなかった。跳ね飛ばされたグールに走り込み、クラウ・ソラスで真っ二つに叩き斬った。

(なんでこんなところに、グールがいるんだろうか・・・・)と、人知れずシルウェステルはひっそりと思ったのだった。

 グールが、黒い水たまりになって消えたのを確認し、リアンノンの方を見やる。心配そうに、神輿から身を乗り出してシルウェステルの方を見ているリアンがいた。シルウェステルは怪我してない方の手で手を振ってやった。

 グールがやられたことで、グールに影を食われた人たちの魂も元に戻ったようで、意識を取り戻し始めた。

「シルウェステル!」と、リアンノンは叫んだ。

 リアンノンが、神輿から降りてくる。おろして、と頼んだのだ。

「大丈夫、シルウェステル??怪我してる左手・・・・」と言って、リアンノンは袖の服を引きちぎり、シルウェステルの左腕をしばった。

「あ?こんなん大丈夫だよ、リアン。ありがとな!それより、今日はもう神殿に帰ろう。このことを、女神アテナ神に報告する必要がある。スマローコフ長老にも」と、シルウェステル。

 その帰り道、リアンノンは、「俺はリアンの聖騎士になりたいんだ」とぶつぶつと朗らかにいうシルウェステルの言葉を聞き、この人についていこうと心密かに決めたのだった。

 これが、リアンノンがシルウェステルに再度惚れたエピソードだった。


「そういえば、リアンノンちゃん、昨日の石像の件、長老はなんて??」と、ヅラ。

「書いた手紙を、長老に見せたんです。そのあと、長は普通にそれを、ヅラさんの目の前で、ヅラさんの飼っている鷹にくくりつけて、飛ばしました」と、リアンノン。

「そうだね。そのあと、呼び出されたりしなかった??」

「いえ、ただ長老は、少しため息をついておられました」

「そうか・・・・」

「私もヅラさんのこと好きです、ヅラさん」と、長い間のあと、リアンノンがぽつりと言った。

「!!」

「でも、私にはシルウェステルがいるから」と、リアンノンが苦笑して言った。

「リアンノンちゃん・・・それなら俺と・・・」

(「一度ぐらいキスしてくれない?」という言葉が喉の奥まででかかった。)

「ようヅラ、告白はうまくいったか??」と、その時、背後からアラミスの声がした。

「アラミスさん・・・」と、リアンノン。

「アラミス、少し席を外してくれないか」と、ヅラがコホンと咳をして言った。

「なに!?ヅラ、さてはてめぇ、リアンノンちゃんに手出ししようとしてるな?ダメダメ、リアンノンちゃんはうちの弟のものになるんだから」と言って、アラミスが笑う。

「な、リアンノンちゃん、君は、今は弟のこと好きなんだろ?なら、俺とならキスしてもいいぜ?どう??」と、アラミスが言ったので、ヅラ・ラ・スコーニがむっとした。

「リアンノンちゃんとキスするのは俺だ!!」と、つい言葉に出してしまった。

 言ったときには遅かった、リアンノンは顔を真っ赤にして、その場から走って逃げだしてしまった。

「あ・・・・」と、ヅラが手を伸ばす。

「おのれぇ、アラミスめ!」と、ヅラ。

「へへ、ちょっと冗談言っただけなのにな!ま、そういうところ、うぶでかわいいよな」と、アラミス。

 ヅラは、そのアラミスの言葉は無視することにした。

 走って、リアンノンの後を追いかけようとして、やっぱりやめ、アラミスの手をがしっとつかんだ。。

「万が一、悪神シェムハザの復活の予兆があの石像のものだとしたら・・・・その時は、我ら七勇士の出番だ。俺と君で止めるぞ!」と、ヅラが怖い顔をして言った。

「わーってるって!シェムハザ?何が怖いのかね??とは言わねーよ、だが、そのために世界には俺らがいる」と、アラミスが言い切った。

 一陣の風が、神殿前の広場・・・草原、荒野に似た場所・・・を過ぎ去っていく。

 ヅラは、どこまでも広がる空を眺め、続いて、「私もヅラさんのこと好きです、ヅラさん」というリアンノンの言葉を思い出していた。

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