第24話 食屍鬼(グール)

(この人は、イブハール歴何年頃生まれた方なんだろう・・・)と、リアンノンはふと思わずにはいられなかった。

「リアンノンちゃんは、シルウェステルさんと結ばれるため、ここに来たんだよね!ヅラさん、大地の巫女の役目を果たすリアンノンちゃんに、惚れたよ」と、ヅラが言った。

「え??」と、リアンノン。(惚れた??私に??)

「惚れたんだ、リアンノンちゃん」と、ヅラが告白した。

「だから、最期まで護りたい」

「ヅラさん、ありがとうございます―――あの、私、最初はアラミスさんに片思いしてました。でも、あの一件以来、シルウェステル・・・クレド様を強く意識するようになりました」

「ああ、あの事件ね」と、ヅラ・ラ・ラスコーにが遠い目をした。

 それは、平和なはずのハートフォードシャーの国に、「食屍鬼(グール)」という化け物が現れた時のことであった。100年ほど前のことだ。

 その年のとある秋、シルウェステルとリアンノンは、「大地の巫女とその騎士の祝祭パレード」というものに参加していた。

(聖騎士さんねぇ・・・・)と、リアンノンはちょっと照れて思ったのであった。

『今日から君は俺のお姫様。俺は君の聖騎士さん。な??』という、シルウェステルの、封印の神殿での一室での言葉を思い出していた。

 リアンノンとシルウェステルは、パレードの中、民衆の上から、神輿から手を振り続けた。

「リアンノン様ぁ~~~!!!」と、聴衆の中から男女の叫ぶ声が聞こえる。

「リアンノンさまぁ~~~!!シルウェステル様ぁ~~~!!!」と、たくさんの歓声。

 と、その時、シルウェステルが一瞬の判断でリアンノンの上に覆いかぶさった。数本の矢が飛んできたのだ。

 一本が、シルウェステルの片腕(左腕)をかすった。

「ちっ・・・誰か狙ってやがる!」と、シルウェステル。

「シルウェステル、血が・・・!!」と、リアンノンが悲鳴に似た小さな叫び声をあげる。

「いいから、リアン、頭を手で覆って、ふせて!」と、シルウェステル。剣を抜く。

 聴衆も、矢に気付いたらしく、歓声は悲鳴に変わった。

「リアンはそこにいてくれ・・・って、オイ!!」神輿から出て地に下り立とうとしたシルウェステルが、足を止めた。

 矢が飛んできた方向・・・暗い狭い路地から、その影の部分から、人の形に似た影人形がぐにゃりと立ち上がった。

 その近辺にいた人々に向かって、すごい不協和音の鳴き声を叫んでいる。魂の嘆きに似た叫び声だ。

 それを聞いて、人々は動けなくなった。

「“残響波”だな・・・あれは食屍鬼(グール)だ!!」と、シルウェステルが言った。クレド賢者時代の記憶から分かったのだ。

(なんとかしねぇと・・・・)と思い、「リアンをお願いします」と、神輿の侍女に言って、シルウェステルはリアンを残し、神輿からジャンプして地上に降り立った。

 人混みから悲鳴がこだまする。グールが、人々の影を食べ始めたからだ。影を食べられた人は、その後、魂が抜けたように意識を失い、ばたりと倒れた。

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