第三章 ヅラの片思い

第23話 ヅラ・ラ・ラスコー二からの言葉

第三章 ヅラの片思い


 リアンノンたちと時期は若干異なるが、ヅラ・ラ・ラスコー二もまた、12使徒に選ばれやって来た人の一人であった。

 シルウェステルの兄である、アラミスと話すことが多かった。

「ヅラの過去には、俺と似たものを感じる」と、アラミスはいつも言っていた。

「アイツの過去は、消えない焔の過去だ」と、アラミスは例えていた。

 ヅラ・ラ・ラスコーニは、イブハール歴4021年の時点で、聖人であらねばならない期間は、残り30年になっていた。

 つまり、リアンノンたちより少し先に来たのだ。アテナ神による時差のようなものはかなりあるが。

(リアンノンちゃん・・・・)と、ヅラは神殿から出て、とある年のある日、丘から下の居住地を見おろして物思いにふけっていた。

「どした、ヅラさんよ。珍しいじゃねえか、一人でこんなところ」と、アラミスがつっかかる。

「いや、アラミス君、ヅラさんもあと30年でここからおさらばになる、と思うと、ちょっとね。俺らの代で大地の巫女をしていたリアンノンちゃんのことを考えていた。俺、30年たっても、リアンノンちゃんが無事天国へ行けるまで、ここに残ろうかな・・・。彼女は何かと危なっかしいところがある、見捨てては置けん」と、ヅラ・ラ・ラスコーニが言った。

「ふぅん、彼女に気があるわけか。俺は何百年か前、リアンノンちゃんから告白されたぜ??シルウェステルさんというものがありながら・・・。だが、彼女には、凡庸かもしれないが、人を惹きつける何かがある、と俺も思った。弟のシルウェステルが、いつも言っていたがな」と、アラミス。

「ヅラさんも時間がない、ちょっとリアンノンちゃんに、この片思いをぶつけてこようかな」と、ヅラは言った。

「いいんじゃねえの??断られるか知らないが、アテナ神に頼んでもらえるんじゃね??」と、アラミス。

「そうだな」と、ヅラ。


                   *


「――というわけなんだ、リアンノンちゃん」と、ヅラ・ラ・ラスコーニが、リアンノンを、聖人たちの住む神殿の3階のテラスに呼び出して言った。

「俺は・・・君を見放したくない。最期まで一緒にいさせてもらえないか」と、ヅラがさらっという。

「ありがとうございます、ヅラさん。私もヅラさんのこと、好きです。友情とか、そういうものを超えて。尊敬してます、ヅラさん。最期まで護ってくださるんですか?」と、リアンノンが、下に広がる風景を眺めて笑顔でそう言った。

「・・・ありがとう、リアンノンちゃん!うん、こう見えてヅラさんは、“伝説の剣士ここに在り”と昔言われていたほどの名剣士だったんだ。前世の話ね!今でもそうだが。リアンノンちゃんには、俺の前世、簡単にしか教えてなかったが」と、ヅラ。

「・・そうですね、確か奥様と、お子さんと暮らされていた村に敗残兵がやってきて、悪さして、村ごと燃やされたと聞いてます・・・」

「うん、そうなんだ。だから焔の過去とも呼ばれている」と、ヅラ。

「つらくないんですか??そんな過去を背負って・・・・」

「つらくないわけじゃない。けどね、ヅラさん、亡くなった娘と君が重なってね。つい面倒を見たくなっちゃうんだ」と言って、ヅラ・ラ・ラスコーニはふふっと笑った。

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