第12話 前編

 休日の夕方、私はスーパーで買い物をしていた。

 凛ちゃんから「今日は早く帰れそうだ」と連絡が来たため、夕飯は彼の好きなハンバーグを作ってあげようと材料を買いに行ったのだ。


 その帰り道、私は道中にある公園の前で立ち止まる。

 その公園は、私が子供の頃凛ちゃんや他の友達とよく遊んだ場所だ。

 昔はたくさんの遊具があって、休日や放課後になると子供たちやそのお母さんたちが大勢いた。

 しかし、今ではジャングルジムや鉄棒、滑り台などの遊具が撤去され、残っているのはブランコと砂場だけだ。

 遊具の減少のせいなのか、児童の減少のせいなのか、はたまた子供が外で遊ばなくなったせいなのか、この公園にいる人影も随分と少なくなってしまった。


 私は何となく公園の中を覗いてみた。案の定、中は閑散としている。

 しかし、よく見ると、奥の手足洗い場に三つの人影があった。それは、小学校低学年くらいの男の子二人と、大人の男性だ。

 そして、大人の男性のほうは、見覚えのある虎のスカジャンを羽織っている。そのスカジャンを見て、私はすぐに彼が凛ちゃんの子分の田中くんだと気づいた。

 

「何をしているのか」と注意深く見てみると、どうやら片方の男の子が転んだのか足を擦り剥いており、田中くんが傷口を水で洗ってあげていたようだ。

 田中くんが傷口に大きめの絆創膏を貼ってあげると、男の子たちは「ありがとう、おじさん」と言って公園の外へと駆けていった。


 去っていく男の子たちに手を振っている田中くんに、私は歩み寄る。

「えっ!?姐さん!!?」

 田中くんは私を見るなり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

「いつからいたんですかー?びっくりしちゃいましたよ」

「ふふっ、傷口洗ってあげてるところからかな?」

「あははっ、公園の前を通り過ぎようとしたら、さっきのガキが転んで大泣きし始めたんです。なんか放っておけなくて、応急措置だけしちゃいました」

「へぇ、田中くんって、優しいね」

 私がそう言うと、田中くんは「そんなことないっすよ」と照れたように笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る