第10話 電気ショック

 謎の爆弾魔、もといドクターフロッグから送られた謎の剣。

 名称も不明。便宜上は科学剣と呼んでいる。何が科学かは知らない。


 剣身から柄まで全部金属。少し握りにくい。剣身の溝は何のための機構か不明。 

 柄には何かを取り付けられそうなパーツがちらほら。これも謎。


「ミーシャはそこにいて。あの小鬼を倒してくる」


「はい。お気をつけて」


 海岸を歩いていた小鬼に向かって走り出すと、向こうもこちらを認知した。

 赤い顔をさらに赤くしながら、口を大きく開けて威嚇してくる。


「全然、可愛くないっ!!」


 真正面に襲い掛かる小鬼をステップで躱し、身を翻して科学剣で切り払う。

 俺の見立て通りこの剣の切れ味は相当だ。簡単に小鬼の首が落ちた。


 血液をぶちまけながら仰向けに倒れる小鬼。

 しまった刺激がつよいか。そう思いミーシャを振り返ると。


「上地さん、流石です!」

 

 と、大して驚いていない。かなりグロイが、わりと平気のようだ。

 まあ、モンスターが実在する世界に生まれた世代だし、当たり前なのかな。


「俺も最初から抵抗なかったし……」


 とりあえず、普通の武器としては使える事が判明。予備武器として採用かな。

 しかし、わざわざ脅してまで送りつけたのに、これといった性能はない。


 一体なんなんだろうか、この武器。

 もしかしてただの狂気的な機械マニアが、己の作品を送り付けただけか?


「ちょっ! 何ですかっ!? やめてくださいっ!!!」


「っ!? ミーシャっ!?」


 突然、ミーシャの嫌がる声が聞こえた。

 見ると明らかにヤバそうな男どもが三人、ミーシャを取り囲んでいた。

 斧、斧、剣。クラスは低い連中だが、あいつらがこの場所に来た理由を想像すれば状況のヤバさに拍車がかかる。


「いいじゃん!! ちょっと顔見せてよ、お姉さん~」


「っ! やめて!!」


 ミーシャはマスクをしていて、雰囲気も相まって大人に見える。

 そんな事はどうでも良く、とにかくあいつらはヤバい。

 この人気の少ないテリトリー外縁に集まり、麻薬取引なんかする連中だ。


「おいっ!! お前ら、彼女から離れろっ!!」


「ああ? 誰だ、おめぇ?」


 正直、三対一では勝ち目がない。本来なら、弓クラスのミーシャの敵じゃないが、彼女はまだズブの素人だ。チンピラの相手はできない。


「剣クラスかよ。社会の底辺は引っ込んでろ!!」


 んだと、こら。この状況では、社会の底辺はそっちだろうが。

 俺は知り合いに乱暴を働く連中への怒りで、冷静さをかなぐり捨てた。


 ボコられようが知らん。隙がありゃ逃げる。とにかく。


「離れろって言ってんだろうがああああああああああっ!!!」


 俺は全力で駆け抜け、ミーシャに向かって腕を伸ばした。

 奴らは迷いなく武器を抜いた。ヤルきだ。しかし、引き下がれない。


 そして、

 チンピラどもは電気に脳天を貫かれ、感電したのか気絶した。


「え?」


「っ!?」


 伸ばした俺の腕から出たように見えた。

 一瞬だが確実に、空中を紫電が幾本も駆け抜け、奴らを撃ち抜いた。

 

 思わず立ち止まり、俺の腕と気絶した男たちを交互に見る。

 魔法? そんな馬鹿な。俺はクラスG2だ。それに今は遺物武器は装備してない。


 まさか、科学剣。こいつが? そう思い、科学剣を見ようとした時。


「上地さんっ!! ありがとうございました!」


 タックルかという勢いで、ミーシャが抱き着いてきた。

 思わず引き剥がそうとしたが、その体が震えていたので、それは出来なかった。

 小鬼の死骸は見れるのに、怖い男どもには怯えるのか。


「怪我はない?」


「はい……。上地さん、凄かったです」


「へ?」


「こう、腕から電気がびゃって! やっぱり上地さんは強いじゃないですかっ!!」


「お、おお? ま、まあね」


 やっぱり見間違いじゃない。俺の腕から電気が出てる。

 こんなの初めてだ。魔法。恐らくは科学剣の性能のおかげ。


 ぞぞぞっと、俺の体に鳥肌が立った。

 もしかしたら、この剣はとんでもない武器なのかもしれない。


 初めての魔法でテンションが上がる。

 可能性が見えて来て、好奇と興奮が止まらない。それはそうだろう。仕方がない。


「……ふう。とりあえず、今日はもう帰ろうか。ハプニングもあったし」


「あ、はい。私、疲れちゃいました」


 チンピラ三人は放置した。この場所なら、死ぬ事はない。

 一応確認するとやっぱり薬の取引に来ていたようだ。ざまあみろ。

 証拠を押さえ、それらを記録したデジタルマークを付けて置く。


 これでゲートを通れば、デジタルマークから情報がいって直ぐにお縄だ。 

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