第11話 才女とは彼女

 海岸デート?の翌日、俺たちはフロント内の修練施設で特訓していた。

 ミーシャは箱入りお嬢かと思いきや、運動も結構好きなようだった。

 

 そもそも弓道やっているのか。


 俺も二年間この仕事をやっているから、多少の護身術は使える。

 残念ながら剣の師匠には出会えず、万年我流の平凡剣奴だ。

 

 ミーシャは弓の腕は完璧だった。

 あとは遺物武器の扱いをマスターすれば、直ぐに超人と呼ばれる域に達する。


 実際、今日の訓練から既に片鱗を見せ始めていた。

 人型ロボットとの模擬戦で、僅か二度目にして回し蹴りで一発KOをかました。


「すっげー」


「やったー! 私強いかも!」


 うん強いんだよ。


 余談だが、遺物武器による身体能力強化や魔法付与は、その武器を体に触れさせていないと発動しない。手放せば、そいつは一般人に逆戻りだ。


 ゆえに、境界兵ファイターたちは絶対に武器を携帯する。丸腰は死あるのみだ。

 そんな恰好で街を歩けば、きっと明日を見る事はないだろう。ああ、恐ろしい。


 俺は昨夜からあの電気を出す訓練をしているが、全く出る気配はない。

 科学剣があればいいのかと思っていたが、そうでもないらしい。


 まあ、あれが魔法なら当然だ。

 魔法の方は、身体能力強化と違いかなりの訓練がいるそうだ。

 体を動かすのと、武器を介して魔力を操るのではまるで次元の違う話だからだ。


「ふいー、お疲れ。これ、スポドリ」


「ありがとうございます」


 汗だくのミーシャがふらふらしながらこちらにやって来た。

 ロボとの十本組手。戦績は、驚愕の八勝。昨日まで箱入り娘って感じだったのに。

 今なら昨日のチンピラでもボコれるのでは?


「あれ? 上地さん、その剣なんか光ってません?」


「え?」


 ミーシャが指差したのは、傍らに置いていた科学剣。

 言われて確認すると、確かに剣身のあの謎の溝が、紫の光を発している。

 しかし根本から半ばまでで、溝全てが光っている訳ではない。


「なんだこれ? 触っても……何にも感じない。光ってるだけだ」


 ただ気になるのはその色だ。紫。機能の電気ショックも紫色の電気だった。

 無関係なはずがない。考え得る可能性は、何かをチャージした、とかか。


 とはいえ、ぶんぶん振っても意味はない。

 相変わらず魔法は使えないし、結局今日はそれに気が付いただけで終わった。


 ミーシャと別れ(彼女はメへヘラのバーを間借りしている)、帰宅する。


 科学剣ってださいな。いい加減、名前付けるか。スペアって呼ぼ。






                 *






 数日後、ついにこの日がやってきた。

 そう、ミーシャとチームを組んでから、初の依頼を受ける。

 テリトリー外縁で見つかった叡智箱ボックスの回収。それだけのシンプルなものだ。


「よし、行こうミーシャ」


「はい!」


 この数日毎日顔を合わせていたから、俺たちは大分仲良くなっていた。

 彼女の好物はブドウ、嫌いな物はGブリ、姉が二人いて、父がアメリカ人だそう。

 ハーフだが日本育ちで英語は喋れない。父はアメリカで別居しているとの事だ。


 テリトリーに入ったら、早速海岸を離れて街を歩いていく。


 倒壊したビル群、草の絡んだ建物、陥没した駅の名残、ひび割れた道路。

 それら全てが、ミーシャには新鮮だった。少し興奮しているようにも見える。


 小鬼や狼、謎の粘体など、序盤のモンスターは余裕で倒していく。

 少し進んで行くと、ビルの中から多数の中型モンスターが這い出てきた。


「オウガと、肉食鹿の群れだ。こっからは気合入れるぞ?」


「はい! 弓で援護しますね」


 正直、二人で依頼を受けるのは無謀と思われるかもしれない。

 けれど、二年間生き延びた俺が、そんな計算を誤ると思うかい? 冗談。


 結論から言おう。

 俺とミーシャの相性は、はっきり言って最高だった。


「らあっ! はあ、はあ。こっちだっ!!」


 倒せる奴は切り倒し、残るモンスターをタゲ取りでミーシャから引き離す。

 そうするうちに、遠巻きからミーシャの精確射撃がモンスターを打ち抜く。


 遺物武器の中でも、弓と銃は遠距離攻撃として重宝される。

 これらは矢と弾を使うが、なんと時間経過で勝手に生成されるのだ。

 加えて材質も特別製で、モンスターに有効な金属でできている。チートだ。


 何を隠そう、俺が剣クラスであるがために実感できないだけで、遺物武器はどれもこれもモンスターからしたら反則級のチート武器ばかりだ。


 特殊性能が無いのは、マジで剣くらい。不遇。圧倒的不遇だ。


 この二年間で鍛え上げたすばっしこさと、持久力、タゲ取りのスキルで、ひたすらモンスターを引き付け、それを全てミーシャが打ち抜いていく。


 ほどなくして、モンスターは全滅した。

 

「ミーシャはとんでもない逸材かもな……」


 モンスターの墓場を築いた少女は、誇ることもなくただ嬉しそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る