第9話 海岸デート
工藤ミーシャなる謎の訳アリ少女とチームを組む事になった。
彼女は弓クラスで本来は中堅以上のギルドで、しっかりと育成されるべきだ。
ただ、それができないから訳アリなのだ。
俺も当初は中々だったけど、この子はマジでヤバそうな問題が見え隠れしている。
「よろしくお願いします、上地さん」
「……うん、よろしく。それじゃ、工藤さん。準備はいい?」
「はい。あ、ミーシャでいいですよ?」
「え? あ、ああ。じゃあ、行こうかミーシャ」
「よろしくお願いします!」
初のテリトリーでかなり緊張しているようだ。
今日は様子見。依頼は受けずに、私的な探査を行う。
「どうしてマスクを?」
「その、ばれるとまずいので。顔を……」
君は指名手配犯か何かかい?
ミーシャはフロントの街自体もさほど歩いていないようなので、軽くガイドをしながらテリトリーに続くモビリティステーションまで歩く。
高層ビル自体は珍しくないだろうけど、フロントの街は、そういった最先端の部分とファンタジックな古めかしい部分が混在していて、やはり独特な雰囲気だ。
そもそも街中を武装した人が平気で歩いている。
こんな場所でうっかり装備すれば、一瞬で最先端の警備システムでお縄だが。
モビリティに乗り込み、数分をかけて海上を渡りいよいよテリトリーへ入る。
私的探索用のゲートを通れば、そこは魔境と化した旧東京の街だ。
「凄い……本当に、昔写真で見た東京です。廃墟になっている」
「うん。二十年前は、ここが日本の首都だったらしい」
俺たちの今日のメニューは、海岸沿いを散歩すること。
テリトリー外縁の端も端で、まずは基礎のレクチャー。そして試し戦闘だ。
ここら辺に出るのは、小鬼やら犬やらで俺でも安全だ。
「ミーシャ。俺が逃げると言ったら逃げる事。武器は絶対手放さない。いいね?」
「はい」
ミーシャは真面目に頷き、背負っている弓をきゅっと握った。
可愛らしい仕草だが、そういった武器が喉から手が出るほど欲しい俺からすれば、この少女はコンプレックスの塊だ。
そもそも良いとこのお嬢様らしいし。護衛が俺でいいのかね。
東京湾を望む海岸散歩はとても気持ちが良く、さしずめ御忍びデートだった。
「フロントが見える……。海も綺麗ですし、東京の街も美しいです」
「一見、魔境には見えないでしょ。でも……ほら、モンスターだ」
「え! あ、ほんとだ。あれが、小鬼?」
海岸の防波堤の陸地側に、二体の小鬼が歩いている。
ミーシャは驚いた様子だが、別に怖がってはいないようだ。
「ミーシャ。ここから弓で射れる?」
「はい、やってみます。私、ずっと弓道をやってきたので……」
ほう、それはまたピッタリだ。
言う通り、それは美しいフォームでミーシャは矢をつがえ、引き絞った。
放たれた矢は正確に小鬼の元まで飛んでいき、見事にヘッドショット。
断末魔も上げずに、小鬼は地に倒れた。もう一体が慌てふためき走り去る。
「流石だね」
「いえ。けれど、なぜだかいつもより力が出ます。こんな軽々と……」
「それが遺物武器の力だよ。身体能力強化と魔法付与。
君は弓クラスだし、相当身体能力は強化されてる。魔法は……まあ、いいか」
魔法に関しては俺自身が不能なので何も言えない。
とにかく、弓クラスならやろうと思えば、超人的な動きが出来るはずだ。
「体の使い方とかは、フロントの方で覚えようか。
きっと俺なんか一週間で倒せるようになるよ」
「え? いや、そんなことは」
「あるよ。それがクラスってもんだ。君も知ってるでしょ、剣奴の事くらい」
「……」
少し気まずい空気になってしまった。つい自虐してしまったが、このフロントでの常識を知らない人からすれば、あまり気分の良い話ではないだろう。
「もう少し試し打ちをしていこうか?」
「はい、ありがとうございます……」
あれま、大分気落ちしている。そんなに気まずい事言ったかな。
長い剣奴扱いのせいで、すっかり毒されてしまったか。良くないな、ほんと。
さて、んなら景気づけに一つ。
俺は気を紛らわす様に、勢いよく背中の剣を取り出した。
布で巻いておいた科学剣。
口外するな、であって人に見せるなではない。だから、いける。
「…………ふう、セーフ」
「上地さん、その剣は何ですか?」
「あひぃ!」
爆破しなくて安堵したが、ミーシャに聞かれ返答に窮す。
口外禁止、口外禁止、口外禁止。そもそも、口外のラインってどこー!
「……骨董屋で見つけた剣だよ。遺物武器以外も武装可能だからね」
「なるほど……。なんだか、強そうですね! 流石上地さん」
おし、爆破しない。この辺りのラインを攻めればいいのか。
ちなみに、遺物武器以外も武装可能は本当だ。例えば手榴弾とか閃光弾とかね。
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