第8話 グッバイ最低な平穏
悲報、謎の荷物によって爆弾を腕に装着された。
言う事を聞かねば爆破すると脅す腕輪。荷物の中には謎の剣が一本。
とりあえずガチっぽさを感じた俺は、言われた通りに行動した。
荷物を指定のルートで返却し、今回の事件は誰にも口外しないと誓う。
腕輪爆弾は薄目なので、長袖を着れば見えはしないだろう。
「それで、後はどうすればいいんだ?」
他に指定はない。腕輪はもう何も教えてくれない。
突然ほったらかしにされ、俺は怯えだした。
まるで、誘拐された少女が、次第に誘拐犯を心の拠り所にしていくように。
「この剣。勝手に使っていいのかな? 爆破しないよな?」
別に剣自体を秘匿しろとは言われていない。
まあ、口外が駄目なら、基本的には見せない方がいいのだろうけど。
遺物武器とは違う、未来的デザインの科学剣。切れ味は良さそう。試した。
俺は一先ず科学剣を布で包み、その状態で肩掛けの剣帯に括り付けた。
普段の装備と一緒に付ければ、まあ呼びの剣くらいには見えるはずだ。
「ひやひやすんな。この状態で一回仕事行ってみるか……」
試しにこの恰好で仕事に行ったが、二度見される程度で別に気にはされない。
実際、俺と同じように予備の武器を持っている人は多いし、違和感はなかった。
試しに使ってみたいが、俺如きが一人でテリトリーに行けば自殺行為だ。
とは言え、迂闊にこいつを人前では使えない。
せめて俺がもう少し強ければ、ソロで潜ってモンスターで試し切りできるのに。
悩んでいると、ギルマスのメへヘラから連絡が入った。要件は。
「新人が入る? そいつとチームを組まないか、だって?」
*
メへヘラのバーに入ると、人払いがされていた。
一応あの謎の武器も持ってきているが、メへヘラは気にしていない様だ。
そして、バーには先客がいた。
女性だ。俺と同年代だろうか。後ろ姿で分からないが、髪は黒でボブくらい。
おそるおそる歩み寄って、俺は彼女の隣に座った。
「初めまして、君が新入りさん?」
「はい。今日から
人形だ。そう思った。それくらい彼女の顔は精緻に整っていた。
ミーシャという名前と顔立ちから、ハーフなのが分かる。それが美貌の元か。
特徴的なのは吸い込まれそうな大きな目。灰の瞳は、奥底を覗かせない。
やはり同年代くらいだとは思うが、落ち着いた雰囲気のせいで年上に見える。
「あ、上地糸世です。十七歳。よろしく」
「十六歳です。よろしくお願いします、上地さん」
大人しい。ただ、俺には無視できない事が一つだけあった。
それは彼女が足元に立て掛けている武器。無骨だが滑らかで洗練された、弓だ。
「君、弓クラスなんだ……。D1?」
「はい」
俺は無言でバーのカウンターに回り込み、バックスペースに店主を引き込む。
「あら、糸世ちゃん積極的~」
「っじゃねえ! 何で弓クラスがうちにっ!? 中堅なら引く手数多ですよ?」
別に激レア人材ではないが、少なくとも零細ギルドに入っていい人材じゃない。
「訳アリだってさ。御忍びでテリトリーに来た、夢見がちなお嬢様」
「は、はい? 御忍びって……確かにフロントは観光地だけど、
「あのっ!」
「あひぃっ!? 工藤さん?」
気付けば工藤さんが背後に立っていた。いつから? 気配が無さすぎるぜ。
「私、どうしても
どうか、上地さんの力をお貸しください! どうか!」
工藤さんはこんな声出るんだってくらい大きな声で、俺にそう懇願した。
まあ、覚悟は伝わったんだけれども、とはいえ俺では荷が重い気がする。
「あ、ああー。けど、うちのギルドは超弱いし……」
「メへヘラさんが、上地さんは『無敵の人』だと言っていました!」
(何を吹きこんどるんじゃ、われぇ!! 純粋な少女をだましてからにっ!!)
怒りの訴えをするも、メへヘラは既にカウンターに戻っていた。
俺の好きなレモン果汁入りコーラを入れ、そのグラスを頬にくっ付けてくる。
「頼んだよ、糸世ちゃん。この子死んだら、君が責任とってね♡」
「今日からよろしくお願いします! 上地さん!」
借金を返してから、どうも俺の世界がおかしい。
混乱を極めた俺は、全てを諦めて頷いていた。
ああ、グッバイ俺の第二の自由な人生。
剣奴としての生活は最低だったけれど、長い物には巻かれていたよ。
まあ、冗談抜きで、ここから俺の人生は激変していくわけだが。
別に望んでないのよね。
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